洒脱で才能あふれるクズニートなんてイケメンに決まってるじゃないですか。
(初出:2015年 Shortnote)
先日、京都国立博物館で開催中の展示、「琳派 京を彩る」を見に行ってきたのです。
お勉強が得意でないわたくしは、当然、琳派のこともろくに知らないまま見に行ったのですが、うすぼんやりと展示を眺めていたはずが、途中から俄然ツボに入り、大興奮が止まらないまま、三時間以上も博物館内をうろつき、その後約一週間、興奮冷めやらぬまま過ごす羽目になりました。
だって、面白すぎたんですよ!
尾形光琳が!!!!!
尾形光琳は江戸時代中期の画家で、琳派と呼ばれる画派を大成させた人物なのですが、彼が画家になった理由が。
「京都の裕福な呉服屋に生まれたが、光琳30歳の時に父が死去。莫大な遺産を相続したが、遊び人だった光琳はそれを数年で使い果たし、経済的困窮から画業に本腰を入れることとなった」
……展示の途中でこのエピソードを知ったわたしは、同伴の友人と顔を見合わせ、思わず言い募りました。
「……これは」
「今でいう……」
「クズニートってやつですね!」
なんというクズニートエピソード!!!!
あんなに書き込みが丁寧な作品を残した人だから、繊細な人だと思っていたのに!!
琳派の祖と呼ばれる俵屋宗達の作品を熱心に研究・模写した作品なんかも多数残っているから、勉強熱心な真面目くんだと思っていたのに!!!!
しかも光琳、そんなふざけた理由で画家になったのに、その後琳派を大成させるほどの絶大なる才能に恵まれていたとか、ほんまにクズすぎて最高すぎる。
やばい、こんなの!
好きにならない理由がない!!!!!!!!!!
わたくしはもう、そこから始終、大興奮。
光琳には乾山という弟がいて、弟も焼き物や工芸を得意とした美術家だったのですが、この弟は兄とは違って、遺産を相続した後も、堅実な生活を送っていたしっかり者だったようです。
一方、クズニート時代の光琳は、そんな弟からも借金をするような、見事なまでのクズっぷり。
しかし、光琳にはなまじ才能があるので、弟からは「光琳は天才で、自分にとっての師である」と称され、弟が焼いた陶器に兄が着彩するといったコラボ作品も多数制作したという仲睦まじさ……。
ちょっと! なんなのそれ!
派手好きで遊び人で才能あふれるクズニートの兄と、それを「仕方がないなぁ……」と呆れながらも、兄の才能を認めて見守る、ちょっぴり内気で芸術を愛するしっかり者の弟。
……って、
なんという萌え設定ですかッ!!!!!!!!!(バァン!!!!
そして、そして、一番面白いのはここからです。
光琳の没後100年頃、京都から遠く離れた江戸で、尾形光琳という画家を「発見」してしまい、ガチハマりして作品を収集しまくり研究しまくった挙句、江戸にその文化を輸入して「江戸琳派」なる文化の祖となってしまったクレイジーサイコファン・酒井抱一という人物がいるんです。この人が、もう、かなりやばい。
まず、天才クズニート光琳にガチハマリするという時点でセンスがありすぎる。
そして、光琳という名の底なし沼にズッブズブにハマリすぎて、なんと光琳没後100周年(100回忌)の記念展を、自らの主催で開催。光琳の作品を集めて編纂した図録を自ら編集・発行。しかもこれが、日本美術史における初の個人図録とされる、などという歴史的記録まで打ち立ててしまって、
要するに、
「あー、俺、光琳の最高で最大にして一番のファンだから。
俺こそが光琳の後継者、魂を継ぐ者。
いや、むしろ、俺が光琳で、光琳が俺じゃね?
俺、光琳の生まれ変わりなんじゃね?
じゃなきゃ、こんなにも光琳に心惹かれる理由、説明できないし?」
ってことを全力で世間に向かってアピールしまくった人物だということです。
しかもしかもしかも、なんと、光琳画の「風神雷神図屏風」の裏に、抱一が「夏秋草図屏風」という作品を描いているのですが、雨に打たれる夏草、風に吹かれる秋草を描いたこの絵は、
「光琳が、今、この世にいないなんて……マジ寂しいッ……!!!!!!!!!!!!!!」
という想いを込めた作品なのだという、最高にクレイジーかつサイコなエピソードつき!
ヤンデレか!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
尾形光琳まわりのあまりの面白さに、京都国立博物館の中でわたくし、失神寸前でした。
わたしがイラストを書ける人だったら、光琳を、「洒脱で才能あふれるけどクズでニートなイケメンキャラ」にデザインして、Pixivあたりに投稿しまくりたいほどにツボりました。
イケメン?
イケメンですよ! 決まってるじゃないですか!
洒脱で才能あふれるクズニートなんて、イケメンに決まってるじゃないですか!!!!!
あまりにツボったので、博物館の物販コーナーで、光琳画の風神雷神図をあしらったマスキングテープを買って帰りました。
お手紙の封に、荷物の梱包に、会社で回すメモにと、ことあるごとに嫌がらせのように使っていこうと思います。
……と、いうようなことを、この一週間、誰彼かまわず話しまくっていたら、他にもオススメの実在のクズ系天才たちのことを、教えていただきました!
「江戸時代の末期の画家伊藤若冲も京都の大店に生まれたボンボンで、画業につくけど狩野派の先生に喧嘩売って破門され、引き込もって絵描いてるうちに店はぶんどられ、黄檗宗の坊さんにハマって貢ぎまくってそのまま都の辰巳で妹に看取られて死んだヒキニートの鑑でおすすめ!」
「三蹟の一人と伝えられる藤原佐理(ふじわらのさり)っていう平安中期に活躍した書の天才がすごいですよ。
クズなのに天賦の才能がすごいんです。
どれくらいスゴいかというと高貴な生まれなので重要な参詣についていったり参内したりという義務があるんですけど遅刻したりサボったりしちゃうんです。で、詫び状を送るんですけどあまりにすばらしい書なので受け取った方は感動して大事に保管しちゃうという…なので今現存する彼の書簡はすべてが詫び状w
酔っ払って失敗しちゃってごめんね?とかお金借りてごめんね?とかそんな書簡ばかりなのだけど相手は「佐理の真筆をゲットできたーv」って嬉しくて「もうしょうがないなー」って許しちゃうという程の書の才能だったと。でそんなグータラのクズでもあまりにすばらしい書の才能があったんで手放すのは惜しいと首にもならなかったという。」
なにそれ!
なんなのそれ!!!!
世の中には、わたしの知らない変人系天才がたくさんいるんですね!?
もっとください!!!!!!!!!!!!!!!!!!
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