NPOなヒト インタビュー:持続可能なエネルギーの未来と市民主体 ~NPO法人北海道グリーンファンド
「NPOなヒト」第2回目のインタビューは、NPO法人北海道グリーンファンドさんです。NPO法人北海道NPOサポートセンターに2か月間インターン生として所属した北海学園大学2年の田代がNPO法人北海道グリーンファンドの松本さんと小林さんにお話を伺い、まとめました。
NPO法人北海道グリーンファンドさんの活動
NPO法人北海道グリーンファンドさんは、温暖化が続いている中で、原発に頼らず、環境負荷の少ない持続可能なエネルギー、より環境負荷のない次世代にも続いていけるような持続可能なエネルギーの未来をつくるため、市民が主体となって自然エネルギーと省エネルギーを広げていくことを目指して活動を行っている団体です。具体的には、主に3つの活動をしており、それぞれグリーン電気料金制度・市民出資、市民風車、普及啓発に分けられます。
「誰がどういうものを選択してどういう未来を創っていくのか」自ら選ぶ~グリーン電気料金制度・市民出資
まず初めに、「グリーン電気料金制度」と「市民出資」についてご紹介します。グリーン電気料金制度・市民出資とは、市民風車建設のために市民がお金を出し合うという仕組みです。札幌市民、石狩市民といった風車の建設場所の市民のみを対象としたものではなく、「自然エネルギーを広めたい・貢献したい」などという思いを持った人々がお金を出し合い、風車を建設していくという取り組みです。
この市民風車におけるお金の拠出方法が2つあり、1つ目が「グリーン電気料金制度」です。これは、月々の電気料金に5%分を上乗せし、その分を基金として積み立てていき市民共同発電所を建設するために運用する仕組みです。例えば、電気代を8,000円とすると、その5%の400円を基金として電気代に上乗せし積み立てます。これは北海道グリーンファンドの会員を対象とした制度で、会員には「5%は上乗せではなく、省エネして生み出そう」と呼び掛けています。
2つ目が、「市民出資」です。風車を建設するときに市民に対して出資を募る方法であり、「どなたでも参加できる」という呼びかけ通り、会員である必要はなく、誰でも参加できるようになっています。NPO法人は収益の分配ができないため、市民風車を建設する際、別の会社(株式会社市民風力発電、株式会社自然エネルギー市民ファンド)を設立し、売電で得た収益を出資者に分配していくという仕組みにしています。
市民出資は、誰でも環境への貢献ができること、収益の分配(リスクもある)があるため寄付ではありません。地球環境のために自然エネルギー・持続可能エネルギーの理解を広げていくことに共感、賛同される方は、「どなたでも参加できる」として広く呼び掛けています。
北海道グリーンファンドがこの活動を始めた25年前は、多くの風力発電事業は大手の企業や自治体がおこなっていて、企業そのものに与信があるため金融機関から融資を受けることができていました。その当時は、「NPOってなに?」と言われた時代でした。市民風車の事業計画を見せても融資をしてくれる金融機関はなかなか見つかりませんでした。そこで、「まずは自分たちでお金を出し合うところから始めよう」ということになり、役員から周辺の方々へと声をかけ、市民出資を募りました。現在では風力発電など、自然エネルギーに対する法制度、事業に対する評価も変わり、NPOでも市民事業であっても融資を受けられるようになってきています。
電気やエネルギーは暮らしに欠かせないもので、気候変動などに関わる重要な問題ですが、電力会社や専門家など人任せにしまいがちな問題です。北海道グリーンファンドでは、誰かにお任せするのではなく、市民が参加できる市民風車を通して、原発も地球温暖化もない持続可能なエネルギー未来をつくろうと活動しています。「誰がどういうものを選択してどういう未来を創っていくのか」、エネルギーについて、国や事業者が決めればいいのではなく、市民が選択し、参加できる仕組みを残していかなければならないという思いで活動を続けています。
「地域で作られたものを地域で活用していく取り組み」~市民風車
市民風車第1号は「はまかぜちゃん」と名付けられ、2001年9月に浜頓別町で運転を開始しました。今年で24年目、現在も現役で回っているはまかぜちゃんは217名より市民出資を受けました。現在、北海道にある市民風車は13基あり、「はまかぜちゃん」、「かぜるちゃん」、「かなみちゃん」という名前がついています。地元の小学生や地域の方々に名付けてもらっています。2018年にはウインドファーム(集合型風力発電所)として7基が建設され、「レラくる」と名付けられました。
今年の5月より「かぜるちゃん(2005年建設)」が発電した電気が、石狩市内のプールや市内小中学校等公共施設にて活用されるようになりました。地域で作られた電気を地域で活用していくというモデル事業として2025年6月末まで実証実験を行っています。石狩市厚田区では、地域に設置した市民風車の「厚福丸」、「あい風未来」で得た運用益の一部を厚田区の地域活性化につながる取り組み(伝統芸能の望来獅子舞や子ども会の活動、水彩画展など)に寄付助成をしています。また、風車の売電収入の一部を石狩市の環境まちづくり基金に寄付しています。厚田での市民風車建設をきっかけに制定された条例基金で、石狩市では市内の環境に関わる事業に活用しています。
「子どもと保護者、さまざまな方へ活動を伝える」~普及活動
北海道グリーンファンドさんでは、石狩市や札幌市などの小中学校の子どもたちの社会科見学の一環で、風車見学の受け入れを行っています。風車下のタワー部分の内部の様子やメンテナンスのこと、市民出資された方々の名前が掲示されているものを見てもらい、市民風車に取り組んだ経緯や風車の仕組みについて伝えています。
また、子どもと保護者向けの環境講座を開催しています。石狩では毎年、地元のNPO法人ひとまちつなぎ石狩と共催、NPO法人ezorock、石狩市の協力を得て、風車見学やエネルギーの話や風車の模型の工作づくりを行っています。札幌では札幌市環境プラザに協力していただき、同様の企画(風車見学に代わり札幌市環境プラザがある施設屋上のソーラーパネルを見学)も行っています。市民風車がある石狩市内や札幌近郊の自治体などの小中学校に、環境や温暖化についてお話する出前授業も実施しています。加えて、環境イベントや北海道主催のオンラインパネル展への出展や、NPOの集まるイベントにも参加し、取り組みを周知する活動を行っています。
話を聞いていて興味深かったこと
「環境問題について活動していく中で、市民の意識が変わったと感じた」
北海道グリーンファンドさんの団体設立当初(1999年7月)は、エネルギーや原発への関心はまだ一部の人に限られていたそうですが、北海道では、1986年に起こったチェルノブイリ原発事故をきっかけに生活クラブ生協などによる反原発運動が続いていました。事故から年月が経過していくなか、1996年に公表された泊原発3号機の増設計画をきっかけに、反対運動だけではなく、「自然エネルギーをみんなで作り出していこう」という思いから北海道グリーンファンドさんが設立されました。福島第1原発事故後には、原発反対を訴える人が目に見えて増え、日常の生活の中で原発の話をしている人の姿も目にするようになったと聞きました。チェルノブイリや、福島での凄惨な事故が結果的に「原発」というものに対する意識を変えるきっかけとなったことがわかりました。また、北海道グリーンファンドさんは「気候変動や地球温暖化などによって“2100年には地球はこんなことになる”などの科学的分析の結果は、今の小学生にとってはあり得る未来である」とお話されていました。私たちが生きている間では起こらないからとそのまま放置していくと、いつか何も知らない若い世代がその被害を受けることになるため、やはり、私たちが手を打てるのであれば少しずつでも、意識を変えていくべきだと思いました。
「なぜ風力発電にしたのか」
北海道グリーンファンドさんが活動を開始した当時は、風力発電より太陽光発電の導入が進んでいました。当時は一般の家庭の屋根にソーラーパネルを設置する取り組みが中心で、蓄電池はなく、発電した電気が家庭で使いきれなかった場合、電力会社が買い取っていました。風力発電に関しては一部の企業や自治体が取り組んでいる程度だったそうです。1999年当時、ただ、北海道電力には、風力発電の電気を買い取るメニューがあり、北海道が風力発電の適地であると考えていたこと、ちゃんと発電ができて、その電気をみんなに使ってもらえるところからも風力発電にしようとなったというお話を聞きました。自然エネルギーが大幅に増えていくのは、その十数年度になります。たしかに、一時期どのテレビをみてもソーラーパネルの話題をしていて、住宅の屋根にはびっしりとソーラーパネルがついているのを見た記憶があります。私が見ていた流行の一部が、巡り巡ってこういった活動に繋がっていたと考えると、とても興味深かったです。
「東日本大震災を経験していない子どもと接する機会がどんどん増えてきているが、子どもの認識で今までとここが違うなとか、ここはちゃんと伝えたいなと思ったところ」
今の子どもたちはSDGsや環境問題などの勉強があたりまえになっている。猛暑も常に起きる世界で生きていて、例えば「昔に比べて暑い」という説明も、暑すぎる夏しか経験していないため、過去との比較の仕方など、工夫が必要とのこと。また、子どもたちの保護者の様子からも、昔に比べてかなり環境問題が身近なものになっていることを聞いていて感じました。しかし、原発事故をリアルタイムで全く知らない世代が増えつつあるなかで、国のエネルギー政策に事故後にはなかった原発を動かす、増やすという選択肢が復活していること、それに賛同する声が徐々に増えてしまっていると聞き、今の世代に原発事故の悲惨さを伝えていくのと同時に、昔と比べてどうだったではなく、今がどうなのかを知る、伝える必要があると思いました。
記事作成:北海道NPOサポートセンターインターン生 田代(北海学園大学)