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鮮烈なる初めてのUber Existence

少し前の話になるが、私が、Uber Existenceを初めてやったときの体験を書いていこうと思う。この日の鮮烈な体験を私は今後忘れることはないだろう。

私は元々、春までUber Eatsのバイトをやっていた。ひたすらアプリの指し示す場所に移動して報酬を得るという、あるいみでUberのアルゴリズムに操作される機械になったような気分がした。しかし、それが悪くなかった。むしろ、今までのバイトのどれよりも楽しかったのだ。

その矢先、緊急事態宣言が5月に解除されて、東京でもUber Existenceが開始されたというニュースが出た。

これはもうやるしかないという気持ちで、早速、公式サイトからアクターの登録をした。そして、数日で、カメラ付きの帽子とスピーカー、特製のマスクが届いた。

そして、いよいよ6月5日、初回勤務をする。ツールを装着し、とりあえず地元でアプリをオンラインにして待つこと数十分。依頼が届いた。少し緊張が走ったが、思い切って受けた。ユーザーと通信のテストを行って、いよいよ初回の行動が始まった。ここからは、ユーザーがスピーカーから声を出すため、ほぼ自分から声を出すことはできない。

地元のよく知る駅の近くだったが、ユーザーはキョロキョロと僕の首を動かしてあたりを見渡す。少し歩くごとにまたキョロキョロと周囲を確認していた。自分がよく知る場所であるはずなのに、初めてきているような感覚になる。一つ一つのオブジェクトに興味を示す動きが、この街をわかっていない手探りな感じを僕に抱かせた。

しばらくそのようなことをした後、ユーザーさんたちが「とりあえず賑やかな方まで」と言ったので、僕なりに繁華街の中心地の方まで歩くことにした。ユーザーさんは一人ではなく2人組で、僕が移動している間、僕を操作するのを休んで雑談をしていた。操縦手が操縦せず目的地に行っているという状況が、なんだか、僕が自動運転車のAIになって自律走行している気分だった。

ファーストコンタクト

この街の一番賑やかな通りには大きなドンキホーテがある。すると、ユーザーが、「ドンキでなんか買いたい」と言い出し、ドンキの中に入っていった。目的のものを手に取り、レジに向かう。レジとはいえ、アクターとして初めて他人と会話をする。かなり緊張していた。まず、レジへと向かう足が進まない。いつユーザーがレジ係に声を発してくれるかわからないと言う不安があるからだ。その一瞬の戸惑いの後、思い切って歩を進める。すると、「お願いしまーす」と口元のスピーカから声が出る。レジ係は特に怪しむこともなく、スムーズに商品をスキャンしていく。少し聞き取りづらそうに耳をこちらに傾けたりしていたが、なんの疑いも抱いていないような素振りだった。多少ぎこちないながらも、スムーズに買い物を終えた。身体を寄せただけで、自動的に会話が成り立ってゆくのが、本当に不思議な感覚だった。自分の体であるはずなのに、異なる意志によってその場と僕の体が支配される感覚。ゾワゾワ来る。

ただ、反省点もあった。会話の流れに合わせて自分の身体の辻褄を合わせようと、したがかなり難しかった。もっと自分を無にしていくことが重要かもしれない。練習が必要だ。

次々に輩と話していく

この辺りから、ユーザーさんたちは酒によってきていた。だんだん行動が調子に乗ってきた感じがする。

そこから、ドンキホーテの一本奥にある風俗街に出た。そこにいた怖めのキャッチのおじさんに話しかけていた。何やら道を聞いていたようだったが、去るタイミングが遅く、話が終わった後、謎の気まずい空気を味わうことになった。会話は自動だが、その場の気まずさだけは僕が背負う感覚がある。

夜もかなり深くなってきたが、路上にはまだまだ若者がたくさんいた。その中で、ラッパーの青年たちに話しかけていた。彼らはなんだかこの人間に興味津々のようだった。AIが喋ってんの?とか言っていた。

その後、コンビニに行って、ハイボールを買って飲んでいた。どうやらユーザーたちはこれからその辺の人と色々話してみたいので、身体にもアルコールを”フューエル”しておこうと思ったらしい。

それから、ドンキの前の地べたでストゼロをかわす輩に声をかけていた。普段関わり合わない人たちの会話に割って入って行ったので、内心冷や冷やしていたが、彼らは不思議がりながらも寛容で、色々話してくれた。彼らは美容専門学校の学生で、僕も知っている学校だった。どうりでドレッドとかしてるわけだ。自分が展開する方向とは全く違うテンションと内容で会話が進んで行って、僕の普段の会話能力以上にその場が盛り上がって行った。これは結構気持ちよかった。

しかし、こんな話の中でも、僕自身がどうやって彼らと目を合わせていいかと言うことに必死だった。誰に話しかけているのか、誰が話しているのかによってどう顔をむけたら良いかを察さなければならない。その場のグルーブ感と打ち解けていく感覚は強く記憶に残っているが、不思議と何を話していたかはほとんど覚えていなかった。

普通なら絶対に話すことのない人たちとの会話は、見知った街の思いがけない一面を開拓したようだった。

いかに自然な身体で振る舞いつつ、会話に対して無になるかと言う葛藤がある。まだまだ、ウバイグをしていないときにこの人たちと会ってしまったらどうしようだとか余計なことを考えてしまう。つまり、まだまだ自分の身体に責任を感じてしまっていると言うことだ。

気づけば4時間もアクターをやっていた。その間ずっとアドレナリンが出まくっていて、あっという間だった。この全く新しい存在の一部としての感覚に興奮していた。

また、過去にやった勤務の感想をこれから少しずつ綴っていこうと思う。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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