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「#今日はここから」が代わり映えはしなくても、いつも見るその背中が好きになる。

野球は色々な見方があり、楽しみ方も人それぞれだ。内野席で相手球団ファンの友達を肩を並べてのんびりと見たり、高いお金を払って出来る限り選手の近くで野球を感じたり、声が枯れようが息が切れようが構わずに声援を送ったり、あるいは自宅や酒場で画面の前で楽しんだり。いろんな楽しみ方があるから、野球は面白い。

私は、外野席で立ったり座ったりしながら応援するのが好きなタイプの人間だ。関東に住んでいるため、東京ドームかメットライフドーム、ZOZOマリンスタジアムがメインフィールドである。最近は東京ドームだけ2階席から俯瞰で見るのにハマっているが、埼玉千葉は圧倒的外野推しだ。理由は球場によってそれぞれあるが、共通してチームを応援したいという思いだけで外野席に座っているのだと思う。ここ2シーズンは、安心して試合を楽しめないと思い、どんなに行きたくても我慢しているが、球場に行き「#今日はここから」とツイートする写真は同じ構図で同じ風景になりがちだ。

だが、外野席から見る野球というのは、とてもじゃないが何をしているのか肉眼で捉えるのは難しい。小指の爪より小さい投手が何を投げてどうなったのかなんて、ストライクカウントで点灯した色を見て見分けるくらいしか出来ない。テレビのような一球一球の緊張感なんてほぼ感じられない。打たれるか打たれないかという0-100みたいな展開の中で、とりあえず感情を声にしてエールを送るか念を直接送ることくらいしかやることはないのである。

もっとも、野球は時間に上限のないスポーツであるがゆえに、早ければ試合は2時間程度で決着し、遅くなればナイターの場合は終電とにらめっこが始まる。それだけの時間を外野席で過ごしていると、豆粒くらいの選手を一生懸命見ようとするより、自然と自分の目の前にいる外野手を目で追ってしまう。3時間近くその選手の一球ごとの動きを見ていると、知らない間にその選手に親近感を覚え、何のきっかけもないのにファンになることがある。そんな経験はないだろうか。私の場合は木村文紀選手がそれだった。

木村文紀選手は、プロ入り後に外野手へコンバートし、2013年頃から右翼手として活躍していた選手だった。私はライオンズファンではないからあまり詳しいことは知らないが、個人的には右の中長距離砲という印象が強く、投手出身としての肩の強さが魅力的な選手と感じていた。美技の光る選手ではあるが、完全体ではない不完全な伸びしろを感じるところに何となく愛着が湧いていた。

ものすごくファンという訳ではなかったと思うが、それでもライオンズの選手と言えば?と聞かれればパッと名前が出るほどには好いていた選手だったわけで、その選手が電撃トレードでまさか自推し球団に来る日が来るなんて、思いもしなかったのである。

少しばかり当時のトレードの時に感じたことを書いておこう。私は平沼と公文の放出に驚いたあとで、佐藤龍世と木村文紀の加入という文字に興奮した。佐藤は昨シーズン、道交法違反により対外試合出場禁止とユニフォーム着用禁止の処分を下されていたニュースが記憶に新しい。彼は今季から心機一転、守備については本来の三塁手だけでなく二塁手としてのトレーニングも開始していた。だが、今季外崎など主力が怪我や特例措置で離脱をしても、その穴を埋めるのは佐藤ではなく山野辺や山田などであったことから、放出されることは何となく合点がいったし、やっと渡邉諒に相応しいライバルが登場したことで切磋琢磨する環境が生まれ互いに成長できるきっかけになると思い、とても良いトレードだと感じた。この時点でチームが得たものの大きさは計り知れないのだが、さらにファイターズは木村文紀を獲得する。後に中田翔の移籍が発表されることになり、右の長距離砲の離脱はチームにとって痛手となることは目に見えていたし、特にチームの色を作るベテラン勢が抜けるのは若い選手が豊富なファイターズにとって不安定さを助長させる要因になりかねなかった。特に今季は大田泰示を含めベテラン組が前半戦からずっと不調だったこともあり、個人的には誰かにその空気を変えて欲しいと願い続けていた。もちろん「西武生え抜き15年目の選手がトレードで移籍」という字面だけ見たら、どれ程の葛藤やどんな辛い思いをしたのだろうと胸が痛くなるのだが、彼ら2選手の加入はチームに新しく大きな流れを呼んできてくれた。

彼らの加入後、しばらくは例の中田事件の激震の余波が残っていて、チームに明るさは到底感じられなかった。ファンも疑いの目でチームを見るようになって、冷たい言葉が飛び交い続けて、とてもじゃないが野球ができる空気じゃなかったと思う。実際、後半戦の最初のカードであるソフトバンク戦は3試合で計4安打、無得点という不甲斐ない結果となった。しかしその後は点数を重ね、接戦に持ち込んだり、逃げ切り勝利したり、若さ溢れる活発なチームに戻りつつあるような雰囲気が感じられるようになってきている。ベンチ内も明るくなり、よく選手の声が聞こえるようになってきた。先日のプロ野球ニュースで里崎智也氏が「一番ベンチ明るいです」と言ってくれたことに感動して泣きそうだった。お葬式ですかと言いたくなるほど黙りなベンチだった前半戦に比べ、今はチャンスであれピンチの時に凌げば歓声とエールを送る姿がよく見られるのは、彼らの加入が大きな影響を与えているのではないかと思う。ライオンズのベンチは常に明るいから、その雰囲気をもたらしてくれたのだと思うと、このトレードは価値あるトレードと言える。無論、個人的満足度の非常に高いトレードであるため、たとえ誰が何を言おうと私は最高のトレードだと言いたい。

特に触れなかったが、平沼と公文についても出場機会という意味では圧倒的に西武の方が必要としているだろうと感じたし、移籍後の西武ライオンズ側の歓迎ムードは皆も知ってのところかと思うが、あれだけ歓迎されていて不要な選手などいるはずもないし、両チームと選手にとってはこの上ないトレードだったのではないかと感じている。

メットライフドームでは8点差を逆転されたり、自分たちが観戦した翌日に優勝が決まったり、たくさんの思い出がある。でもどんな思い出よりも、同じ場所から見続けた背番号9への安心感と愛着は大きい。どんな思いで今、ファイターズのユニフォームに袖を通しているのか分からないが、彼にとってこの機会と新天地が良いものになればと願い、心から活躍を期待し応援したいと思う。

※文中画像(選手写真)はスポニチアネックス様のものを拝借しております。

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