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K-Ballet『マダム・バタフライ』9/29

こちらでは久しぶりの舞台の感想になりますね。
Kバレエの記事はなぜかあまり人気がないのですが( ;  ; )
私もバレエは全然詳しくないので、アメブロの記事に加筆したものですが、横目でご覧いただければ。

K Balletの今年2つ目の新作『マダムバタフライ』を観てきました。
2つなんて、しかも続けてなんてすごいと思っていたら、オーチャードホールの記念公演(カルミナブラーナ)とKバレエの記念公演がぶつかったようですね。
『カルミナブラーナ』は休憩なしの1時間でコンパクトでしたが(だからと言って簡単というわけではない!)、『マダムバタフライ』は休憩ありの2時間、大作という感じです。
ご本人も流石に両方振り付け終わった時は放心したとプログラムにありましたが、相変わらず一人の人間にできるキャパを超えている方です(^_^;)

写真はブレてしまいました。
ロビーに置かれていた大看板です。
この赤い衣装は、本番では使われていなかったと思います。

印象は、とにかく日本の風情をよくもここまでバレエに再現した…!という驚きが一番ですね。
下半身は動きやすいように着物の裾にひだをとったり、もちろんモロはだけちゃったりもするのですが、上半身は日本人も納得の着物そのもの!
フラメンコで日本のものをやろうとするときと同じですが、フワーッと広がっていくらみたいな西洋の衣装(ドレス)と真逆のシルエットの着物はほぼ不可能なくらい馴染まないものです。
お互いの良さを殺し合ってしまう。
『マダム・バタフライ』では熊川さんも苦戦したとあちこちで語っていらっしゃいますが、当然のことと思います。

遊女たちは衣装も透けているし、大きく襟をはだけ色っぽいです。
しっかり詳細を見て取れませんでしたが(そんなに遠い席じゃなかったんですが…)、豪奢な衣装とどう整合性をつけたのか、花魁もしっくりなじんでいました。
とても可愛らしく、同時に凛として、迫力満点でした。
それと、皆しっかり髷のかつらをかぶっていたのが良かったですね。
オペラのマダムバタフライだと、外国の方が蝶々さんを演じた時はもちろん、日本人の方でも「?」みたいな違和感が拭えないイメージです。
日本を舞台にしていながら、作られたのは外国。
スペインだったら『カルメン』がそうですが、ヨーロッパ同士なら少なくとも外見はそんなに違和感がないかもしれません。
(その分、内面的には納得いかない!という思いがマリア・パヘスさんの公演『私が、カルメン』に爆発していましたね)
なんとかしっくりくるマダムバタフライを、と思っていましたが、まさかバレエで見られるとは思いませんでした。

男性陣も日本の衣装はすごいです。
植木屋さんまでいる!(笑)
流石に男性の髷まではなかったかな…
こういう庶民の衣装は、別に踊るわけじゃないので完全に普通に和装です。
踊らない、ということに関しては、この舞台は本当に踊らないシーンが目につきました。
決して悪い意味ではありません。
私は普通の舞台の方が見慣れているので、ともすれば、「これは演劇だったか?」と思ってしまうようなシーンがたくさんありました。

バレエ公演で「踊らない」というのは不思議な感覚です。
オペラがずっと歌っているのと同じ、バレエは全てを踊りで表現するのだと思っていました。
私はバレエは詳しくないので、思い込みですが…
しかし、その裏表という感じで、私にとってバレエでのダンサーの表情は仮面だと思っていました。
役を演じてはいますが、演劇の役者さんのように「役になりきる」「まるで役が乗り移ったようになりきった」というようなものではないという意味です。
踊るという非日常なことをやりながらなので、役の仮面をかぶって表現している、というか…
クラシックになればなるほどストーリーもお伽話的になってきますから、演じる役そのものがあまりリアルではないということもあると思います。
なので、バレエでは剥き出しのダンサーの内面は見られないし、それは必要ないと思っていましたが、この舞台ではバタフライのラストシーンでは、その固定概念を覆されました。

バタフライは矢内千夏さん。
この役にメインで抜擢された方です。
熊川さん的には次のKバレエの顔、というほど期待をかけている方ですが、正直に言うと中村祥子さんがすらりと長身で顔が小さくて美しくて…と言う、言い古されてきた言葉ですが日本人離れしたルックスを誇り、存在感も圧倒的なことを思うと、日本人体型の矢内さんはかなり不利なのではと言う気もしています(^_^;)
ですが、バタフライは日本人ですし、矢内さんは演技力が凄かったですね。
自決を覚悟し、能面のようになったバタフライの表情は、バレエを超えていました。
(ちなみに調べてみると、当時はこのような現地妻はたくさんいて、お互いに割り切った関係だったそうです。夫に裏切られたからといって自決すると言うことは考えられなかったと言うことでホッとはしますね。ただ、よく知らない異国の人で怖い、と思いながら言い含められて無理やり「嫁がされた」少女はたくさんいたと思います。そのこと自体が辛いですね…)

ともかく、日本の風情があまりにしっくりきていたので、これを外国人が演じるのはとても大変だろうと思います。
ミュージカルの『王様と私』がアジア人キャストをメインに配しているように、この舞台もアジア人をキャスティングする作品になっていけばいいと思います。
日本発、と言うのがまた素晴らしいですよね。

1幕にはピンカートンのアメリカでのシーンが追加されていて、これが結構長いんです。
率直に言って、私は長すぎると思いました。
半分くらいでいいのでは…
それは、やっぱりストーリーにそれほど関係ないからです。
私には、ピンカートンの内面や人となりがそれほど説明されるシーンになったとは思えませんでした。
(オリジナルにはないシーンだし)
私だったら、バタフライとの再会後に目一杯葛藤するシーンとかを入れたほうが、女性としても納得感が増すと思います。
どう考えても身勝手キャラ…(^_^;)
バレエなので、キャストさんそれぞれの見せ場としてバレエファンには楽しいシーンなのかもしれませんが、私はどうしてもストーリー重視なんですよね。

全体的に、長いと言うか、つまらないシーンも散見されました。
あくまでダンスではなく、舞台作品としてみてしまった場合ですが。
だって、時々睡魔に襲われるんです(笑)
私は、よほどのことがない限り、やっぱり眠くなるのはつまらないシーン、ストーリー的に見逃しても差し障りのないシーンなので(そんなシーンはない!と怒られそうですが)、そう言うシーンがいくつかあったとは思います。
それは、熊川さんも語っているように、マダムバタフライ と言う作品自体があまり動きのない、蝶々さんの家の中だけで展開する(オペラの場合)お話だからでしょう。
バタフライの自決が最大唯一の見せ場なので、構成としては作りづらい作品だと思います。
オペラならオペラ、バレエならバレエの見せ方を考えていくしかないですね。

オーケストラもよく鳴っていてよかったですね。
しかし、いきなり「君が代」から始まり引きました。
年代的に同時代の誕生(やや原作が遅い?)のようなので、おかしいとまでは言いませんが…
君が代には先の戦争の凄惨なイメージが付きまとうので、マダムバタフライの時代を思い起こすにはふさわしいとは思いません。
お琴でも聴きたかったですね。

全てが完璧でいきなりのマチソワも楽しく見た『クレオパトラ』と比べると、ちょっとムラを感じた『マダム・バタフライ』ですが、それをものともしない圧倒的な創造性に感服しました。
西洋の芸術で、これほど日本的なものを美しく再現したことに、熊川さんの偉大さを何度でも称えたい思いです。
Kバレエの偉業はこれからも続くと思います。
来年は宮尾俊太郎さんの振付作品も公開されるそうなので、それも楽しみですね。
最近はめっきりダンスの方が面白く感じるようになってきたので、その熱が冷めない限り、私も楽しみに待ちたいと思います。

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