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漫画家アシスタント 設置の能力とは

 先日アップしたアメブロの記事を書いていて、こういう内容は読者の方とか幅広い層がご覧になっているアメブロよりこちらの方が向いていると思い、note用に書き直してみました。
 さらに専門職の皆様のご参考になればと思いますので、ご興味のある方は見ていってくださいね。

 私はデビュー前からデビュー後も、合計8、9年くらいはアシスタント業をガッツリやりました。
いずれも連載クラスの先生方で、特に師匠の富永裕美先生にはまさに手取り足取り、アシスタント業には関係ないカラーの描き方まで教えて頂き、今に至るも私の生活の支えとなっています。
感謝しかありません。
先生、ご無沙汰していますが、お元気ですか?

 まさに古き良き時代のお話です。
現在はデジタルがどんどん導入されており、アシスタントさんに仕事場へ通ってもらって、必要とあれば手取り足取り教えて育ってもらうという手間暇をかけるところは少なくなってきました。

 そんな中、あるアシスタントをされている方から「データだけでアシスタントに指示を出すときはこうするといいですよ」という丁寧な画像付きツイッターが流れたことがきっかけで、漫画家界隈で色々意見が交わされたようです。
私はまだ本格的にデジタルで在宅の方に指示をしたことがないので、それはとても参考になりました。
同時に、
「アシスタントさんに仕事出すって、そんなに手間がかかるの…(^_^;)」
という印象を持ったのも事実です。
おそらく、アシスタントも漫画家も不慣れな人を対象に書かれたのだと思いますが。
 
 私もアナログなら、ほぼ初心者からお預かりしてデビューまで見届ける、という経験はそこそこ豊富です。
だから、目の前で書いてもらう場合には手取り足取りは普通なのですが、デジタル在宅となると、一気に請負的なイメージになってしまうことも原因かと思います。
在宅で仕事を請け負っている以上、描けて当たり前、というような。
デジタル在宅でも常勤の方(漫画家が一から育てることも多い)はたくさんいるでしょうが、その都度声をかける非常勤のフリーの方も多いので、フリーの方を育てる漫画家はいないですからね。 

 最初に書いておくと、人間できることできないことがあるのは当たり前で、漫画家はそのアシスタントさんができると思うことだけ割り振るようにするものです。
その分実力給の世界でもあるので、実力に見合った報酬、(仕事を得る)機会になっていくでしょう。
単純に上手いヘタだけではなく、小物を描かせるととてもセンスがいいとか、モブがうまいとか、得意分野もあると思います。
私は実は効果線専門アシスタントでした(笑)
今は死滅した点描とかナワとかを日がな一日描いていました。
それでも門前の小僧で、いつの間にかなんでも描けるようになっていたので(フラメンコギター以外は)、上手になる人にはある特徴もあると思いますが、それは後で書きます。

 とにかく、今はアシスタントをやっていても、いずれ漫画家になりたいなら厳しく自分を鍛えたほうがいいと思います。
というか、プロになれるような人はなんでも器用に描けるだけのセンスは持っています。
アシスタントさんで言えば(うちにはそういう制度はないのですが)チーフクラスの技量もしくはセンスが欲しい、とは言っておきます。(指示を出す場合に必要です)
 
 
 漫画家は、例えば人が座っている絵を描く場合、頭の中に椅子も見えているわけです。
しかし、アシスタントさんも人間の絵からそれを類推できなければなりません。
漫画家にできて、アシスタントさんにできないということは、技術的にはありません。
同じ人間なのですから。
 
 しかし、先に「設置が大事」と書いたのはこのことで、正しい角度に椅子を置いて、人間を座らせることができるアシスタントさんは、実際はかなり優秀な人に限られます。
人が座るには大きすぎる、人がつんのめっているように見える、なんだかおかしい。
この違和感を一人では察知できず、そのまま漫画家に提出して直しを食らう、というのが結構当たり前のルーティンになってはいないでしょうか。

具体的に見てみます。
これは今私が製作中の個人出版作品「Arriba! 2nd season」の原稿です。
商業誌ではないので、販売前でも出し放題なのは新鮮ですね。

まず人物二人の背景を設置します。

こんな感じでアタリを入れます。
上の真っ白い絵を見て、とっさにこういうアタリを入れることができるでしょうか。
この絵はあおったり俯瞰したりしていないので、二人の身長差から誰でもこの程度のアイレベルを割り出すことができるはずです。
更に漫画家のアタリがあるので、距離感、位置、あと結構大切な地面の位置もだいたいわかるはずです。

漫画家からするともうこの段階でペン入れできると思いますが、アシスタントさんは普通下絵を描くと思います。
しかし、もう漫画家にとってはできたも同然です。
下絵はお互いの認識違いを防ぐため必要な手順ですが、漫画家に描かせたらどれだけ速いかお分りいただけたでしょうか。
漫画家はアタリをとってアイレベルを決めたら「後はなぞるだけ」くらいの気持ちなのですが、実際はここから更に長いアシスタントさんとのやり取りが待っています。
それだけ「認識が一致している」「距離感、サイズ感などの認識がしっかりしている」ということが制作時間に響いてきます。
アシスタントさんと漫画家は別人である以上、認識の違いは必ずあることとして省くことはできません。
タイムロスは、アシスタントさんの設置能力の向上により劇的に短縮できます。
もちろん、漫画家のコミュニケーション能力にもかかっています(^^;;

 

↑あのアタリから直接ペン入れした絵です。

 このように、大抵の漫画家はアタリを入れてアシスタントさんに原稿を回しますが、
くだんのツイートでは、アイレベル、パース定規、3D設置までしてくれると嬉しいと、なかなか要求が初心者向けでした。
そのため、「うちは丁寧にやっている」という満点漫画家さんもいらした一方、
「忙しいから頼んでいるので… 実際には無理」(私も自信ない)とドン引きした漫画家さんの反応もあり、少々物議を醸してしまったのでしょう。
しかし、ツイ主さんはとても丁寧に断りを入れながら説明されており、後に続く人のため良かれというお気持ちが伝わってきます。
私は先に書いたように大変参考になりました。

 最近私の仕事場でも、大きな背景は写真素材や背景素材を使うことが増えたので、もはやコマに建物がどーんと一つ、という(ある意味)「簡単」な背景はほとんどありません。
だいたいが人間と合わせていかなければならない、絵としては小さいけど、感覚を必要とする難しい絵です。
今、そのような「設置ができる」目を持ったアシスタントさんが、最もありがたがられると思います。
設置に手間がかかる→漫画家が何度も直さなければならない、というのが、漫画家にとって本当に時間を食われてしまうことなんです…

 設置ができる優秀なアシスタント、とは、漫画家の直しを一度も食らわず仕上げまで行く人のこと、と捉えて良いと思います。
何度も言うように別人なので、時には認識にズレがあり違うものを描いてしまった!ということはあるでしょうが、概ね直しがない人は安心してください。
この直しが少なければ少ないほど優秀なアシスタントさんであり、逆に仕上がった絵は綺麗でも、何度も直してもらって3時間で描ける絵に1日かかってしまいました、みたいな場合は、漫画家は「この人は描けない人」認定しています(^_^;)
私はアシスタント時代の後期、先生の簡単なあたりからなんとか都合をつけて背景を入れる名人と重宝されていましたし、絵は完成度の高さよりスピードと捉え、ごまかしも上手でした。
よく「えー、もう描いちゃったの?」と先生に泣きを入れられたものです(笑)
すでにプロの漫画家でもあったので、漫画家の立場に立って働いたことで、漫画家の先生の信頼を得ていたと思います。

 私もつい最近まで9年近くフラメンコを習い、漫画では優秀でも(笑)フラメンコは本当にへぼだったので、図らずもアシスタントさんの気持ちを共有することになりました。
先生は毎回「こうするのよ」と教えてくださるのですが、次の週も同じところを注意されるのです。
先生は不思議でならなかったでしょうが、それが「才能がない」ということなのです…(涙)

 なので、私も描けないもの、習得できないものは仕方ないと考えるようになりました。
人それぞれ、自分の持ち合わせで頑張るしかないのです。
私が苦手で描けないもの(フラメンコギターとか)を素敵に描ける人はたくさんいるはずです。
アシスタント業でも、漫画家でも、自分の得意分野を活かせば良いことです。
自分をしっかり見極めること、どの方向へ行きたいのか考え続けることしかありません。
自分が最も活かせる環境を作り、最速で目標に近づきましょう。

漫画アシスタントの報酬は、漫画家の原稿料一枚分:一日、というのが私の現役時代の相場でした。
私も設置のできるアシスタントとして(笑)先生方のマックス頂いていました。
昔と違い、アシスタント業はプロ志望の腰掛けではなく、それで食べている人もいるので、技術に即してこちらも対応していかなくてはならないと思います。
同時に、デジタル導入でアシスタントさんの仕事はどんどん肩代わりされているので、今後は一層、漫画家の負担を減らすことができる人だけに仕事が来るということになるでしょう。
いつまでも漫画家に直してもらっていては、遅れをとると思います。
技能アップの方法は一つではないと思いますが、とにかく現場で感覚を研ぎ澄ませてことに当たること、たくさん自分の原稿を書くこと、この二つは当たり前にできないと。。。

やはり「私は漫画家になるんだ。そのためには先生に直してもらわず、自分一人で、しかも素早く描けるようにならなくてはならない」という気持ちの後押しは大きかったと思います。
原稿を描くのが遅いのは、画力がないからです(凄い実感…)
私も今でも画力がなくて辛いですが、それでも昔よりは描けるし、スピードも描くほどに上がっています。
凄い才能に恵まれた人を除いて、ぼんやり与えられたものをこなしているだけでは成長しません。
上手くなるにはもう一度書きますが、

「現場で感覚を研ぎ澄ませて仕事に向き合うこと、自分の原稿をたくさん描くこと」

です。
そして、何も背景画だけが仕事ではないので、どうしても向いてないと思ったら、小物とか効果とか3Dとか、他のものでスペシャリストを目指せば良いと思います。
向いていないものには、人間努力は出来ないものです。

私は今年からデジタル作画を始め、今の原稿で始めてパース定規を触りました。
これでも段階を踏んで徐々にアナログからデジタルへ移行しており、後はアシスタントさんたちがデジタル仕上げに対応してくれるのを待つだけです。
背景は、まだまだアナログ作画が多いと思います。

先に、上手になる人には特徴が…と書きました。
それは身もふたもないのですが、まずプロ漫画家デビュー出来る人、後は純粋に画力がある人です。
私が「感覚を研ぎ澄ませ、原稿を描け」と連呼する意味がわかっていただけたでしょうか。
アシスタントとして大成する?のが人生の目標という人がどれくらいいるかとは思いますが、逆に絵の仕事をするなら背景のコツくらい習得できるセンスが必要、と言ってもいいかもしれません。
漫画の現場へ入ること自体が大変な方もいらっしゃるかもしれないですね。
お金はかかりますが、「アシスタント背景美塾」のように頼って行く場所も今はあります。
上手くなる人は、上手くなるために手段を選ばない人、でもあると思います。
生き残るため、知恵を働かせましょう。


長くなり恐縮です。
最後に、例に使った「Arriba! 2nd season」の宣伝をさせて下さい(^^;;
こちらは小学館プチコミック増刊号に1年間連載し、2018年に単行本化されたフラメンコ漫画「Arriba!」の続編となります。
個人で2nd season として電子配信して行くことになりました。

私も探してみたのですが、フラメンコ漫画はほとんど存在しないと思います。
フラメンコが重要なモチーフとして出てくる漫画はあるのですが…
私は9年近く、結構真剣にレッスンしてきまして、自分はヘボでしたが、綺羅星のような一流の先生方を身近に教えを受け、フラメンコについて色々考えてきました。
一般に知られているようでよく知らないフラメンコ、そしてリアルなダンスエンターテイメントの世界を読者の皆様と一緒に旅してみたいと思っています。
是非是非応援していただけたらと思います!

まずは、Kindleインディーズマンガで、一話目を無料配信します。
たくさん読んでいただければ分配金をいただける場合もあるので、制作費の足しにしたいと思います。是非探して読んでやって下さい。
今のペースだと、5月初旬くらいかなと思っています。
単行本は、年末か年明けを目標としています。
情報はnoteの他、アメブロ、ツイッターで発信していきますので、フォローして頂けたら嬉しいです。

 よろしくお願い致します。

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個人出版漫画家*浜口奈津子
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