見出し画像

東大受験へのアドバイス集

*2020年春・夏にそれぞれ母校の進路部に寄稿した文章と、2021年初旬に情報誌「合格サプリ」に掲載された文章をほとんどそのままコピペしたものです。

*ひとつ前よりさらに需要がないと思われる上、2020年度の入試以降なんのアップデートもしていません。それ以降、日本の受験業界ではなんら活動していないせいです。すみません。今更ですが、受験直後に公に出すほど傲慢ではなかったので、質問された場合の案内先という目的だけで今リンク化します。

*気になる母校の生徒以外だと、行っている高校が非進学校+高校で受験科目がすべて履修できない+塾に行かない(けど一つ絶対的な強みの科目がある)、ぐらいのヘンテコな層にはもしかしたら得るものがあるのかもしれません。

*まず「理論編」と称して、受験に必要な「暗記」について以前書いた一般論を紹介します。「実践編」では、自分が当時実際に作っていたノートのスクリーンショットをペタペタ貼りながら、勉強法を以前まとめた文章を載せています。本稿はほぼすべて2020年の文章です。

理論編:覚える勉強

次の表が、今度の定期テストの試験範囲に含まれるとします。一列ずつ何回も書けば覚えるとは思いますが、また夜には忘れそうです。私は当時これを見て、こんなんどうやって覚えるよ⁉と思いました。さて、皆さんならどのように覚えますか。

(高2生物・M先生のプリントから引用、一部改変)

ひとまず情報の形を変えてみる

今回共有してみたいのは、この参考書が良い、とか、スキマ時間に何をすると良い、とかいう受験勉強論ではありません。勉強法はこの冊子の中に溢れていますし、今年は状況が少し特殊です。「目の前の知識を頭に入れる」というだけの小さな規模の話で、中間テストから大学受験まで全ての勉強にあてはまる「情報整理のコツ」を紹介しようと思います。自宅での独学やまとめ作りに少し取り入れてみて頂ければと思います。

冒頭の質問に正解はありませんが、今皆さんは「どう覚えるか」少し考えただけで、一単語だけであったとしても、既にこの表を「少し覚えてしまった」のではないでしょうか。少し見方を変えることで、頭に残りやすくなることは多くあります。

一つの案は「視点(主語)を変えてみる」ことです。冒頭の表は色素ごとに覚えるのは大変ですが、機能や生物例の欄にアンテナや陸上植物といった単語が多いことに着目します。

①機能:キサントフィルは余分な光エネの放出、他はアンテナ
②生物例:フィコビリンは水中植物、他はほぼ陸上

と大雑把で良いから機能や生物例といったテーマに「視点を変更」して共通項をまとめておけば、覚える情報量が少なくて済みます。その上で色素ごとに覚えると安心です。すると、

キサントフィルは水深の深い場所に生息する光合成生物で見られない理由を(中略)説明せよ (M先生18年度一学期期末)

という問題の解答(キサントフィルは陸上植物や藻類にのみ見られ、余分な光が届かない深場では必要ないから)を二つのテーマから思い出すことができそうです。

受験と情報変形

大事なことは、受験でも案外変わりません。教科書と過去問から得られる知識を、色んなテーマの下で整理していきます。何か見たら、その知識が何のテーマに含まれるか考えます。

例えば数学で、受験勉強用の問題集にある

半径1の円が直円錐に内接している。この直円錐の底面の半径をrとし、表面積をSとする。Sの最小値を求めよ(14年・一橋)

という問題は、最小値を求めるのに「相加相乗平均」という解法を使います。数学は、解いた問題の解法を蓄積しておけば試験場で早く思いつくことができます。この問題も、他の問題と一緒に整理します。

  1. 「図形の性質」分野の解法の一つとしてまとめる

  2. 最大最小を問う問題の共通項をまとめる。⑴相加相乗、⑵コーシー・シュワルツ、⑶平方完成、⑷微分して増減表

このように「分野別」「タイプ別」と視点を変えて二度まとめることで、未知の問題でも使える引き出しとなります。

世界史なら、例えば皆さんが持っている教科書の
…清は1885年の天津条約で、フランスのベトナムに対する保護権を認めた。(実教出版『世界史B』新訂版p314)

という一文はどんなテーマに含まれるでしょうか。

  1. フランスの勝ちと見るなら、フランスが獲得した他の植民地(アフリカや中国の租借地)の知識と一緒に覚えることもできます。

  2. ベトナム史の視点なら、その後の独立運動まで一連の流れです。

  3. 中国側の視点なら、「冊封体制の弱体化」の事例として江華島事件→日清戦争の流れとセットにできそうです。

周辺知識と一緒に3回も視点を変えて暗記すれば忘れません。結果、

清国とフランスとの戦争終結の条約で定められた事柄を(中略)説明しなさい(19年・慶應経済)

という問題でも、中国の視点から問う

東アジアの伝統的な国際関係のあり方とその変容について、朝鮮とベトナムの事例を中心に具体的に記述しなさい(20年・東大、略記)

という問題でもこの知識を思い出せます。志望校がマーク式でも論述でも、社会科は「税制」「○○史」「△世紀の戦争」のようなテーマを自分で決めて何回も整理することで定着します。知識の重ね塗りです。

テーマを変えて整理する、というだけの小さなことですが、どんな科目、どんな勉強法でも使える暗記のコツとして紹介させていただきました。お役に立てれば嬉しいです。


世界史のベースノート。ただひたすら山川教科書の情報を時系列に並べていっただけ。ご覧の通り地域性やテーマ性はガン無視。このベースがあると、ここから如何様にも情報がまとめられる。中国史を拾ってきて並べて、、でもいいし、科学技術が使われたイベントってなんだ?的なテーマ史を拾ってくることも自在にできるようになります。


実践編:東大二次用、科目別

ここからは、実際に自分が使った参考書と、それを活用して行った勉強をまとめたものです。ほとんど独学です。

大体のスケジュール感(個人の体験)

受験?ん?と考え始めたのは高2の秋です。私の高校では、3年生から国公立文系コースや私大文系コースなど志望に分かれて授業を受けるのですが、そのコースを選ぶのが高2の秋なんです。ここで国公立大を目指すことに決めて、一橋メインで東大も考えつつという感じでした。その後高2の冬から参考書などをそろえ始めましたが、実際に受験勉強に本腰を入れたのは、部活を引退した高3の8月中旬ごろです。僕は一つのことに全エネルギーを注ぐタイプで、部活をやっているときはあまり勉強しなかったのですが、競う相手がいたことと海外大にどうせ必要だったこともあり、学校の定期試験はそこそこガチでした。部活を引退してからは、部活の時間をすべて勉強の時間に変えました。

母校のコース選択について補足:「ア+塾で数学」と「イ」について
イのコースの質は①数学の担当が誰か、②同学年にどれほど国立文系志望がいるか、に左右されます。①は分かりようがありませんが、②でもし切磋琢磨できるようなメンツが揃いそうなのであればイは悪くないかと。イで使うメジアンという数学の問題集は良質です。塾に行くのは、科目を問わず得られる情報量が全然違うので、ほとんどの状況において間違いではありません。私がそうだったように「時間がなさすぎてそんなに情報量くれても困っちゃいます」な人は、独学の方がギリギリを狙いやすいかもしれません。

現代文

参考書:青本(駿台)
唯一解答用紙の枠の大きさが重要な科目なのでネットから拾い、過去問を解き政岡先生に添削してもらいました。部分点ゲーなので青本の模範解答なんて一生書けませんが気にしない。ここで差はつきません。ただ、ひたすらこなすのではなく少ない回数でコツを掴もうと思って取り組むことが大切です。文章の字数も問題数も多くないので、私のオススメは全内容を図示してしまうこと。フローチャートを作って、どの部分をどの問題で解答すればいいか、マークしていきます。


古典

参考書:『鉄録会東大古典問題集』
過去十年の過去問収録。単語帳も文法書も入っているので早めに買っておく価値あり。高価ですが良質な書です。漢詩の年もあるのでしっかりやると安心。総じて東大古典は私立文系より簡単ですが、現代語訳を少し緻密にする練習(助動詞の処理など)が必要です。


数学

参考書:『メジアン数学演習I・II・A・B(イのコースの問題集)』、イのS先生問題、青本(駿台)
ついていけるだけの明るさを持った集団じゃないと厳しいですが、イのコースのS先生(ともう1人、、)の数学は素晴らしいです。独学としては、一学期中に定期試験対策としてメジアンの全問題を解き終えると基礎力がつきます。二学期は社会の勉強がメインなので、模試の復習や過去問を解き始める以外は、授業での先生のプリントに頼りました。一橋の数学は良い問題ばかりなので合わせて解くと良いですが、逆に東大の問題は良い問題とは言えません。直前期は、過去問で「時間内に死ぬ気で二問解き切る」練習が良いと思います。

〇〇の分野の問題だ!と分かったあと、「解法を試していく順番」が大事です。
直前期の2月には苦手意識のあった確率でこの体系化を試み、パターンの多様さを認識しつつも頑張っていたのに、本番で出たのがまさかまさかの「場合の数」。ほぼ白紙提出でした()


世界史

参考書:『詳説世界史(山川の教科書)』、『最新世界史図説タペストリー』、『東大入試詳解25年(駿台)』
高三までに高一高二(担任でもあるK先生でした)の範囲を教科書で確認しておくと安心です。高三の一学期は定期試験の勉強だけしっかりやり、八月の部活引退後に本格始動。教科書を「色んな方法で」何周もすると身に付きます(二回目はタペストリーと併用しつつ白地図に書き込む、三回目は全世界の一覧年表をつくる、など)。私は一次直後から『東大入試詳解25年』を開始。遠慮なく教科書や駿台の解説を読み(かなり詳しくて良い)、一つの紙に加点ポイントを「時系列に」蓄積するのがオススメです(地理にも言えますが、PC使える人は使うと楽)。結局は知識であり暗記です。覚えておくと良いのは、論述では加点ポイントを[制限字数÷20]個書くと満点が狙えます。2行なら3個、3行なら5個思い起こせば良いわけです。これは地理も同様。

東大や一橋の過去問は見れるだけ見ておきましょう。良問です。このノートでは、各年度の過去問をバラして(世界史の)年代順に並べ直しています。二重線は語群の語句、オレンジは加点ポイント、下線はその他の固有名詞です。回答は駿台の模範回答を見てから自分で書き直しています。


地理

参考書:『村瀬のゼロからわかる地理B(系統地理編・地誌編)』、『東大入試詳解25年(駿台)』
最初に言っておくと、私が地理を本格的に始めたのは11月で、本番30点です。(これですら相当焦る必要があります)。私は、白地図を乱用しました。ネットでとれるので各地域を数枚ずつ印刷して気候、民族分布、農業、工業など蛍光ペンでマーク。これと系統分野のまとめ(地形、各ランキング)を作りました。論述の考え方は世界史と一緒で加点ポイントを地域別、項目別(環境問題、気候の成因…など)に蓄積するのですが、世界史とは違いそれらがそのまま使える訳ではないので、初見でも何年分か解いてポイントの応用の仕方を身に付けることが必要です。全く分からない問題も、ポイントは既出の場合がほとんどだと考えて大丈夫だと思います。

東大地理用のノート、系統地理編。()内の青字は出題された年度。地理は世界史以上に複雑に点と点をつなげる暗記が求められるので、「⇨」や「⇔」などの論理記号を相当いい加減に使って「これが出てきたらこれとそれを思い出す」みたいな覚え方をしています。
こちらは東大第3問対策、日本地理編。問われている年代と分野を特定さえすればポイントが分かるようになっています。

雑なはしがき

  • 一次は2021年度から変わることもあり、センター対策は省きます。また、私は日米併願をし、東大に関しては完全に英語という得点源ありきの受験をしたこともあり、国語・社会はかけた時間なりの点数(そう高くない)であることは合わせて明記しておきます。

  • 最初はどの科目も解法なく書くため時間が余りますが、ある時期から「全科目時間ない!」と気付くので、その感覚の人は良い方向に進んでいると思います。五科目中二科目成功し、他で耐えれば受かるイメージです。得意科目は必ず一つ本番でしくじる(絶対!)ため、三つ得意にしておくとベストです。

メンタリティー

成績が落ち込んでも自分は落ち込まなくて大丈夫
高3で受けた初回の模試はE判定だったのですが、受験勉強を始めるのが遅いと、その分やればやるだけ成績が伸びるという時期が受験の最後まで続きます。 また、模試の点数が悪かったとしても、 直前に違う科目に集中していたとか、未習の問題だったなど理由があるでしょうから、1回の結果を気にしすぎることはありません。結果よりはむしろ模試を受けたときの手ごたえを大事にして、解いているときにできないと感じたところを中心に復習しましょう。受験は、人生を各々の特殊なコースに方向付けるものではあれど人生の質を決定づけることは絶対に一ミリもありません。特に母校に足りないのは「高校や大学の外に社会がある」意識だと思っています。

やる気がないときにやるもの
落ち込んでしまったときや、どうしてもやる気がないときもあるでしょう。上を読んで分かる通り、受験は進路さえ決まってしまえば残りは作業です。勉強作業の仕方を考えるパートと、実際に手を動すパートがあります。やり方を考えることは元気じゃないとできないので、感情を無にしたまま手を動かすだけでできることを常に用意しておきましょう。世界史の一問一答クイズとか、地理の白地図の色塗りとか、少しでも負担が軽い勉強(それでも勉強であることがポイント)を探していくメンタルが短期集中型の受験勉強には求められます。

まわりの恵まれた環境はフル活用してなんぼ
高校では受験科目すら揃わない、受験の範囲も終わらない、と難しい点もありましたが、周りの人たちには恵まれていましたと自信を持って言えます。 仲の良くなった人と遅くまで残って勉強したり、センター後に近況を報告し合ったのはとても楽しかったです。こうして、受験前まであまり関わりがなかった人が大切な人に変わり、進学後も仲良くしたいなと思う人が受験期に見つけられたことや、受験前までも仲良かった人とさらに距離が縮まったことは受験が思い出になる所以です。正直、合格以上に価値があることだと思っています。

受験期は周りの友だちや先生、家族などに頼ることが多くなりますよね。 だからこそ、学校・友人関係・家族と、環境に恵まれていたから自分は挑戦させてもらえたことを絶対に忘れてはいけない。家事もろくに手伝わずに、経済的な貢献もせずに、勉強させてもらえるなんて恵まれてるもんです。受験生のみなさんには、周りの人への感謝を忘れずにいてほしいと思います。

その分、大学に入ってからは、もらった分を倍返しするつもりで他人のことを考えて過ごしてください。

最後に

高校では本当に沢山の方々にお世話になりました。私が入り浸った職員室・進路指導室の先生方。受験期に無駄話の相手になってくれた推薦組の友達。理科基礎の質問ができる理系の友達。模試で競い合えるイのコースの友達。たまに顔を見せに来てくれる後輩。結果を心から祝福できるような戦友。その全員に感謝です。皆さんのおかげで、今の自分があります。

アメリカの大学志望者や東大志望者、ただ話がしたい人はぜひ進路部経由で連絡していただければ、快く相談お受けします。

*すべて個人的な意見と体験に基づきます。すべてを取り入れるべきではありません。本稿は、幅広いオーディエンス向けではなく、自分が質問されたときに「とりあえずこれを読んでみて」と送るために整理していますので、これを読んで浮かぶ具体的な質問をぜひぜひ私の連絡先にぶつけてください。応援しています。

中澤温文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?