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君抜きではいられぬ
先日文鳥の体調がいまひとつになり、気が気じゃない1日を過ごした。
朝起きたら文鳥がいつもとは違う場所にいた。文鳥は毎晩自分のベッドと決めているブランコの上で必ず眠るのだが、その日の朝はおやすみカバー(ケージを真っ暗にしておくためのカバー)をとったら、ブランコより一段上の枝にとまっていた。
いつもはおやすみカバーを取ると元気良くピャンピャン!と鳴くのに、目をしょぼしょぼさせるだけでなかなか鳴かない。朝の日課である餌と水の入れ替えをしても、いまひとつ元気がない。
気が気でないまま仕事に行き、仕事中はカメラで文鳥の様子を確認した。文鳥はおそらく、夜のうちに何かの拍子にブランコから他の枝に飛び移ってしまい、眠り慣れたブランコではない場所でまんじりともせず夜を過ごしたらしかった。私が仕事で不在にしている間はブランコから動かず、どうやら眠っている様子だった。
帰宅後、文鳥は嘴の色も羽の艶も良く元気そうだったが、眠そうなのは変わらず、ブランコから動こうとしなかった。大好きな青菜をケージに入れてやっても反応が芳しくない。夕飯を作りながら、"今夜病院に連れて行こうかな"と決意を固めた。文鳥より優先すべきことは基本的にこの世に存在しない。
人間たちが夕飯を食卓に並べて食べ始めた時だった。ずっとぼんやりしていた文鳥が急に元気になり、餌箱に体ごと入って猛烈な勢いで餌を食べ始めた。丸一日ぼんやりしていたからか、その分を取り戻すかのように餌をつつき、大好きな青菜を齧り、とにかくすごい食べっぷりだった。
文鳥はいつも人間が夕食を食べ始めると"一緒に食べますよ"という顔をして自分も餌箱の中の餌をつつくのだった。文鳥は群れで生きる鳥なのだなあと思った。あまり元気がない時こそ、群れの仲間と一緒じゃないと安心して食事ができなかったのかもしれない。
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命は永遠ではないと分かってはいるけれど、それでも文鳥には永遠に元気でいてほしい。高い鳴き声や握った時の温かな感触、怒りっぽくてすぐに噛みついてくる嘴の硬さ、それら抜きの人生のことを既に私は忘れてしまった。大きな愛こと文鳥が人生に入場してきて以降、私はずっと幸せだが、愛がするりといなくなった後に意識せざるを得ない空白のことを私は今から本当に恐れているのだった。
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