裏切りの白雪姫
ちょっと前に久しぶりにディズニーに行ってきた。
長いことずっと、どうしてもソアリンに乗りたい!と思っていたが、同行している子どもの身長が足りなくて悔しい思いをしてきた。この度とうとう子どもの身長が105cmくらいになったので、満を持して乗ってきました。
ソアリン、良い良いと聞いてはいたけれど本当に良かった。デカい半円状のモニターの前でドリーム・フライヤーに乗って飛行の擬似体験をする、ただそれだけの乗り物なのだが、乗っていると”神の視点で人間の生活を見守る”ような気分になってくる。
初めは雄大な自然景色がモニターに広がるのだが、そのうち人間が作ってきた建造物がフォーカスされるようになる。万里の長城、ノイシュヴァンシュタイン城、タージマハール。建造物には人間の姿が見える。観光客だろうか。真っ青なフィジーの海をゆくカヌーが映る。カヌーには10人くらいの男たちが乗っている。
遠い空から眺める他人の人生はひとつひとつが輝いて見えるから不思議だった。人間は近くにいると疎ましいが、遥か遠く離れると愛しい。神様から見た人間は、こんなふうに見えるのかもしれない。
ソアリンというアトラクションには”イマジネーションや夢見る力があれば、時空を超え、どこにでも行くことができる”というテーマがあるそうだが、作り手の”人生の善の側面を信じる心”を強く感じて、モニターの前で宙ぶらりんになりながら泣いてしまった。
私は幼い頃、ディズニーが苦手だった。夢と魔法の国、笑顔が溢れる場所、みたいな雰囲気に欺瞞を感じていたのだ。我ながらなんて嫌な子どもなんだ!素直に喜んでおけば良いのにね…。
でも、大人になるにつれてディズニーの良さが分かってきた。人生は結構最悪だ。戦争は起きるし疫病は流行る。今こうして私はモニタの前で呑気に文章を書いたりしてそこそこ幸せだが、明日の朝出勤しようと道を歩いていたら通り魔に刺されて死ぬかもしれない。夫や子ども、大事な友人、そういう人たちが酷い目に遭う可能性だってある。それは自分が刺されるより悲惨かもしれない。
何が起きるか分からない一寸先は闇の道を、私たちは恐る恐る歩いている。科学が発達し、あたかも全てが予測可能なように思えても、ウクライナとロシアの戦争も、COVID-19の流行も、人類は予想することはできなかった。
でも、人生にも良い瞬間はあるのだ。気の置けない友人と観光地を訪れ、美しい景色にわぁっと叫ぶ瞬間。真っ青な海をカヌーで進み、頬に飛沫の冷たさを感じる瞬間。そういう良いものは絶対にある。ソアリンはそういう善いものを強い気持ちで信じる心で作られており、そしてそれはディズニーの信念でもあるのだとこの歳になって思う。
”人生は最悪?確かにそれは真実ですね。でも、私たちは人生を良いものだと信じています”という気迫をディズニーからは感じる。本気の御伽噺はちゃちな真実に勝るのだ。
ソアリン以外には、5年ぶりくらいにタワー・オブ・テラーに乗ったが、自由落下が長すぎて腰が抜けるかと思った。4歳児は基本的に絶叫系が好きなのだが、流石に怖すぎたのか、その後園内のどの場所でもタワー・オブ・テラーが見えるたびに”怖いおじさんのホテルが見える…”と嘆いていた。確かに大人でもめちゃくちゃ怖い。ディズニーで唯一本気で怖いと感じる乗り物だ。
あとは夫に子どもを任せて、まだ子どもが身長制限で乗れないレイジングスピリッツに一人で乗った。一人で乗るんだから、流石にキャーキャー騒いだりはできないな…と思っていたのだが、360度回転する所で普通にバカでかい声で叫んでしまった。隣に乗っていたお姉さんもシングルライダーだったのだが、お姉さんはめちゃくちゃ静かに乗っていたので余計に恥ずかしかった。でも、ジェットコースターってなりふり構わず叫んでる時が一番楽しいから…(※諸説あります)。
今回はシーだけではなくランドにも行って、初めて『白雪姫と7人の小びと』というアトラクションに乗った。
白雪姫のアトラクションなんだから、森の小人たちや動物たちと楽しくダンスでもして、最後に王子様と結ばれてハッピーエンドなんだろうな〜と勝手に想像していたのだが、入り口に不穏な注意書きがあった。
えっ、どういうこと?タワー・オブ・テラーにすらこんな注意書きはなかったのに、どうしてわざわざこんなことを書くんだろうと不審に思いながら乗車。
乗ってから知ったのだが、このアトラクションにはほぼ白雪姫が出てこない。なぜなら白雪姫の視点で物語が進むからである。白雪姫の視点で描かれた森の中の風景はおどろおどろしく暗く、低い雷鳴が延々鳴り響き、悪役の魔女が高笑いし、骸骨や不気味な顔をしたおばけのような木々がガサガサと音を立てる。これならホーンテッドマンションの方がよほどマシだと思うレベルの恐怖演出に、4歳児は号泣していた。
ラストもハッピーエンドからは程遠く、魔女がでかい岩をこちらに向かって落とそうとするシーンで出口に辿り着く。間一髪逃げることができるのだが、白雪姫という言葉からイメージするハッピーで甘いイメージとは程遠い内容に、しばし呆然としてしまった。入り口の注意書きにも納得がいく。
『白雪姫と7人の小びと』は東京ディズニーランドのオープンと同時に作られたアトラクションだそうで、つまり40年も稼働していることになる。最近作られたアトラクションは、入る前から作り手の意図が透けて見える。陰気なホテルを模したタワー・オブ・テラーは乗り手を怖がらせようとしているなと理解できるし、明るい色を基調とした博物館を思わせる建物のソアリンは爽快感のあるアトラクションだろうなと想像が働く。
入り口と中身の落差で驚かせるタイプのアトラクションがディズニーにあることにびっくりしてしまった。なんかちょっと、やるじゃん、みたいな気持ちにすらなってしまったな。古いアトラクションにはこういう傾向があるのかもしれない。次にディズニーに行くときには古いタイプのアトラクションにばかり乗ってみるのも面白いのかも。