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ヒューマノイド∽アイドロイド∅ガール (13)
(そっちじゃない)
「はいっ」
(昨日、館内図見て覚えたはずだろうが?)
「はいっ」
(はいってなんだ? わざと間違えてるのか?)
「違いますっ!」
(じゃあ、何で覚えてないんだ? 昨日、社長の前で覚えたって言っただろう?)
ここで、昨日の社長室の映像が視界の半分を塞いだ。
そこには、おっさんに詰められ、無理矢理覚えたと言わされている自分がいた。
どうやら、さっき強制装着させられたワイヤレスイヤホンのようなものには、空中に映像を映し出す機能もあるらしい。
(お前、昨日帰りたいからって社長に嘘ついたのか?)
「ちちち、違います)
(じゃあ、何で道順を覚えたはずの場所で迷うんだ?)
「緊張して間違えただけです」
(そうか? じゃあ、お前の辿ったルートを社長にほうこ……)
「寝ている間に忘れましたっ!」
報告という響きに、僕は我を忘れた。それからは、おっさロイドに都合の良い言質を取られるだけの雑魚人形に成り下がった。
こうして、僕はおっさんだけでなく、おっさロイドにも決して逆らえなくなっていったのだった(絶望)。
(だよなぁ? っていうか、これ覚えてないのに、覚えたって言ってねぇか?)
「そうですっ!」
(どうしてそんな事をしたんだ? 社長のスマホにテレビ電話つなげてもいいんだぞ?)
「社長が怖かったからですっ!」
(ふーん、今の言葉ばっちり押さえたからな?)
「えっ?」
一瞬にして、目の前が真っ暗になった。
今すぐ、スマホとワイヤレスイヤホンを投げ捨て、ここから逃げようとしたが、どうやって外に出ればいいのか分からない事に気付いた。
よく考えたらここも完全初見エリアだった。
立ち尽くす僕に、おっさロイドが心底呆れた様子で声をかけた。
(あとは、廊下をまっすぐ行くだけだ。さすがに分かるよな?)
「はい」
僕は、心を無にして廊下を歩いた。願うのは、型取りをおっさんが見学していない事だけだ。
いつの前にか、邪魔なリプレイ映像は消え、おっさロイドの声もやんでいた。
僕は、鈴里依舞達がいると思われる撮影ブース的な部屋に向かった。
このフロアも相変わらず人気がない。冷血経営者に骨の髄までリストラされ尽くした会社感が半端なかった。
僕は、改めてKNK(クソ一族)の恐怖を見せつけられた気分だった。己の行く末を考えると暗い気分にしかならない。
ここを出る頃にはすっかり廃人なんだろう。昨日からぶっ壊れた自分がリアルに想像出来る。
どうしてこうなった? 僕のメンタルゲージは今どのへんなんだろう?
一瞬、メンタル先輩の顔が浮かんだ。
もうブースが近い。そろそろ気合をいれないと、どんな悲劇が待っているか分かったものではない。
おっさロイドのゲスがさっきから黙り込んでいる。何らかのトラップカードが発動しそうな予感がした。
「お疲れ様でーすぅっ!」
僕は、誰かとすれ違い、ガチ挨拶をした。おっさロイドアプリがある以上、シカトする選択肢はなかった。なかったんや(白目)。
「……こ、こわい」
それは出会い頭の悲劇だった。
足元に転がるペットボトル。頭を抱え震える城ケ崎さん。僕は、どうやらまたこの人をビビらせてしまったらしい。
フォロー、何とかフォローを――僕は、拾ったペットボトルを差し出した。
「すみません。驚かせてしまって……」
「あっ……ああ……あああああっ!」
既に、無理だった。僕は、床を這いずり回る城ケ崎さんにそれでも声をかけた。出来れば、変質者じゃないことだけは分かっていただきたかった(迫真)。
「脅かすつもりじゃなかったんです。俺、飯買いにいくんで、欲しいものあったら……」
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
ああ、これはアカン奴や。城ケ崎さんは、完全にパニクり、最早誰の言葉も届かない状態だった。
なす術なく立ち尽くす僕。突然、気まずさに耐えかねた城ケ崎さんが走り出した。
このまま消えられると、僕はおっさんに――思わず城ケ崎さんの後を追いかけようとした僕は、後ろから誰かに袖を掴まれた。
「追いかけちゃ駄目です」
振り返ると、鈴里依舞がいた。
情けないことに、僕はその瞬間、心の底から助かったと思った。相手が中学生の少女だという事も忘れ、ただただホッとしていた。
(お前、情けないな?)
そんなおっさロイドの突っ込みも、余裕でスルー出来てしまう程、この時の僕は安心しきっていた。
それは、城ケ崎さんも同じだったようで、さっきまでの暴走状態が嘘のように一度立ち止まり、またゆっくりと歩き出した。
「城ケ崎さん、もう大丈夫ですよ」
鈴里依舞は、穏やかだがよく透る声で、リカバリー中の城ケ崎さんに呼びかけた。
「城ケ崎さん、この人昨日の人です。ほら、平間さん。覚えてますよね?」
「あっ、あっ、ああ……」
城ケ崎さんが立ち止まった。僕は、あのテンションの人に届く声って何なんだろうと思った。
「私、また……どうして、私。こんなはずじゃなかったのに、どうして? どうして? どうして?」
ああ、やっぱりアカン。我に帰って自分を責め始めた城ケ崎さんは、盛大にヘラった。多分、これから誰も手が届かない程深い穴を掘ってしまわれるのだろう。
僕は、溜息をついた。
「大丈夫、大丈夫だから」
そんな中、鈴里依舞は、昨日のように城ケ崎さんを抱き寄せた。それから間もなく、城ケ崎さんは機能停止状態から復旧した。
僕は、ガチで思った。この子、何者だと。