こちら堰ヶ原迷宮案内所
堰ヶ原(せきがはら)は妖怪の街だ。四百年ほど前にこの地で東の龍と西の龍とが己の配下を引き連れ決戦をして、そのとき溢れた妖気が未だに晴れないので、人間には暮らしにくく妖怪には過ごしやすい土地になっているのだという。
まあ、僕にはピンとこないんですが。
「それにしても、よくまあ『人間』の分際でこんな商売やってるよな、お前」
相棒――こうやってヒトの姿を取っていれば妖怪とは思えないんだが――は僕に言う。
「そりゃあ『霊感が全く無い』僕みたいなのからすれば、堰ヶ原であっても『ただのユニークな街』でしか無いから」
「呑気なもんだ。オレが手ェ出してなかったら、今までだって何回やられてたか分からねえ分際で」
そのとき、妖気鳴り子じゃなくて普通のインターホンの方が鳴った。
「人間のお客さんっぽいぞ」
相棒はあごで玄関を指した。
「――いらっしゃい」
事務所のドアを開くと、そこに居たのは、右肩から角の生えた少年だった。
「ええと……君、人間?」
間抜けなことを聞いてしまう。
「昨日まではこんなの生えてなかった、し、そもそも米原に居たはずなんですけど……」
米原は、空間的には堰ヶ原の隣に当たる人間の町だ。堰ヶ原には米原方面からつながるヒトの道は無く、無理に堰ヶ原方面に進もうとすると妖気に惑わされて辿り着けない、はずだ。
「オレのことは、どう見える?」
相棒が言うと、少年は余計青ざめて震えだした。どうやら相棒が妖気を出して少年に『見せた』らしい。
「脅かすなよ」
「悪ィな。ただ、これでこの少年が、『妖気不感』という訳じゃねえことははっきりしたろ?」
「となると、誰かが『隠し』たか……」
「角も無関係じゃなさそうだな。右肩の辺りだけ妖気を帯びてやがる」
「あの」
少年が口を挟む。
「ここで『出口』が分かると聞いたんですが」
「――そうだな」
相棒は応えた。
「そこのオッサンがお前をここから出してくれるよ」
「オッサン言うな」
【続く?】