或るならず者、鐘崎祐太郎の一生
北のある漁港で、鐘崎祐太郎が死んだ。その知らせをどこで聞いたものか、港外れの葬儀場に、様々な男女が集まってきた。
「こっちの『組』で祐太郎の葬式を手配してくれたそうだな」
礼服を着込んだ老人が言う。数人の少し若い黒服者を引き連れている。
「そりゃあもう。おっさ……いえ、鐘崎さんの遺品から『先生』の名刺が出てきたときは仰天しましたわ。何せこんな場末のワシらでも知ってる御名前ですからね」
パンチパーマのチンピラが腰を低くしながら答えた。受付をするためか、身体に合わぬ黒スーツを着ている。
「ええと……祐太郎さんの葬式です、よね?」
続いて入ってきた女は、その様子を見て目を丸くした。雪にまみれた女は、修道女の衣を着ている。
「ええ、間違いありませんぜ。ええと、『シスター・グレイス』というのはあんたで? 確かに連絡しましたわ」
オールバックのチンピラが答えた。
「洗礼名ですけどね。……あのひと、本当にヤクザだったのね」
呆れ気味にグレイスは答えた。
「ヤクザ、というのも少し違うがね。あいつは、誰であれ放っておけねえだけの、ただの侠(おとこ)だったんだよ」
老人は横を向いて答えた。
「だからほら、場違いにしか思えない者も来る」
続いて入ってきたのは、スーツ姿ですら無い、ジーンズ履きにそこいらのシャツを着てジャンパーを羽織ったままの一団だった。オタク男の集団、としか言いようがない。
「こ、ここ……鐘崎さんの葬式です、よね?」「間違いないわ」
グレイスが請け負った。
「ええと……なんとか言う『同人サークル』の?」
パンチパーマのチンピラが怪訝そうに聞く。
「です、はい。『有明擾乱』の時に世話に、なりまして」
オタクの一人が答えた。
「全く、顔の広いことだ」
老人は苦笑し、そして地元のチンピラに聞いた。
「で、祐太郎は、どんな風に死んだんだ」
「へえ。大晦日に寿司かっ喰らって窒息したって聞いてます」
【続く!】