僕の(ーの)命日(誕生日)
ずっと誕生日が苦手だった。
誕生日おめでとう。
死ぬまで50年。
誕生日おめでとう。
死ぬまで49年。
人は老いていつか死ぬ。
誕生日とはその時までのカウントダウンのようで、そんな不吉な事を笑顔で祝福している人たちが不気味で仕方なかった。
だから僕は努めて人の誕生日を覚えようとしなかったし、たとえ知っていても祝いの言葉は決して口にしなかった。
同じように僕は自分の誕生日を絶対に知られないようにしていた。
だから僕がいつ生まれて、いつ歳を重ねて、いつ死ぬのかは誰も知らない。
僕はそもそも生きるという事に意味を見出せなかった。
「生きていれば辛い事もあるけれど、楽しい事も沢山ある。」
僕もそう思う。
じゃあ、辛い事も楽しい事も求めない人間にとって人生とは何のために存在するのだろうか。
僕は無になりたかった。
プラスがない代わりにマイナスもない。
何もかもがない。
僕はずっと誕生日が欲しかった。
心から祝福できる誕生日が。
だから今日は僕の命日で、ーの誕生日だ。
咥えた煙草が口から落ちて、ジュッ、と音を立てて消える。
誕生日おめでとう。