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メリッサ・キンレンカという人

ちゃんとした事を書くアカウントを作った。

メリッサ・キンレンカという人がいる。今月を以て、消えていく。

メリッサ・キンレンカはにじさんじという有名事務所に所属するバーチャルライバーの一人だ。
姿を持っていて、話したり、歌ったり、遊んだりする。その姿はとても楽しそうだ。

にじさんじ、及びバーチャルライバーというものの存在を知ったのは去年の暮れ頃だった。
やることもなく無為に過ごす日々の中、YouTubeを開いては適当な動画群を眺めていると、或るにじさんじライバーの配信があったので物見遊山で開いてみた。
最初は「面白いなあ」程度だったのだが、毎日配信を開けばその人がいて、リスナーと楽しそうにわいわいやっている。
その空間は孤独に苛まれていた自分にとっては救いだった。

それからは色んなライバーを見るようになって、年末の歌謡祭配信も見た。
ライバーの中には数人のグループを組んでいる人もいて、私の好きなライバーが出るステージにメリッサ・キンレンカはいた。少年のように楽しそうにしていた。

それからメリッサ・キンレンカの配信を見るようになった。
話が面白くて、歌が美しくて、ゲームはあまり上手くなくて、たまにご機嫌に料理をしていて、何をしてもいつも楽しそうにしている姿を見るのは幸せだった。

メリッサ・キンレンカは先日、にじさんじから卒業する事を発表した。
理由はメンバーシップ限定の配信で語られていたので伏せておく。

私はあまり泣かない人間だった。
感動的な映画を見ても、美しいストーリーに触れても泣く事はなかった。
数年前祖父が死んだ時も、祖母が死んだ時も、涙は流さなかった。
その二人が嫌いだったわけでは全くない。
小さい頃から思い出の中にいる大切な人たちだった。
でも、私は人間は生まれた瞬間に死ぬ事が確定し、死の運命を逃れることができないのはどうしようもない事で、私たちにできるのはいつか来る終わりをただ無力に眺める事だけだと考えていた。

でも、メリッサ・キンレンカは違った。死ぬ事なく、消えゆく事になった。
その日の夜、涙が止まらなくなった。自分でもよく理由が分からなかった。人が死んでも泣けない自分が何故?と混乱した。

バーチャルライバーはよくボイス作品を出す。
簡単に説明すると、日常の事だったり、季節のイベントに参加して"君"と話す、という内容だ。
5/11はメリッサ・キンレンカの誕生日で、誕生日ボイス2022が発売された。
今までVのボイスを買うことになんとなく抵抗感(気恥ずかしさかもしれない)があったのだが、楽しげに話すあの声をこれからも聞きたくて購入した。
再生すると、メリッサ・キンレンカの声が聞こえてくる。それは、これからの"君"を応援してくれるような内容だった。

それを聞いて私は泣いてしまった。メリッサ・キンレンカという人がおり、私という人がいる。各々が確かに存在している。
メリッサ・キンレンカは旅に出て何処か遠い所に居て、私は「今あの人は何処にいるんだろうか」と思いを馳せるのだろう。

そうして気づいた。生きたまま別れるのはなんと寂しい事なのだと。
死んでしまい二度と会えない事よりも、どこかで生きているのに再会することのない方がよほど悲劇なんだと感じた。

それでも私はあの人を応援したい。
旅ゆく先々でやりたいことを思う存分やって、これまでのように楽しんで生きていってくれると信じて。