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Fender Japan OPB 1984

前回の記事の続き。

Fender Japanといえば、私の年代だと「じゃないほうのフェンダー」という認識で、本家のやつを買えない若者が、頑張ってアルバイトをして買うギターという位置付けだったように思う。
ところがここ数年、Fender Japanですらヴィンテージ扱いとなり、その中でもJVシリアルと呼ばれる初期のモデルがマニアの間で人気のようで、当時の定価以上の価格で売買されている。確かに、40年以上も経っていればヴィンテージと言えるし、楽器なのでちゃんとメンテナンスさえしていれば、今でも楽器として機能する。

何が違うのか?

40年前と現在で何が違うのかと言えば、まず当時は木材が潤沢にあったことが挙げられる。今ではワシントン条約によって使用が制限されてしまった木材も、当時は普通に使うことができた。何が良くて何がダメなのかにご興味があれば、詳しくは調べていただくとして、このFender Japanで作られた1954年モデルのオリジナル・プレシジョン・ベースは、1951年に登場した世界初のフレット付きエレクトリック・ベースから、より弾きやすく大幅にアップデートされたモデルの日本製復刻版である。

1951年モデルは、分厚い「まな板」のようなボディで、身体にフィットしないどころか、弾いているとゴツゴツと身体に当たって肋骨が痛くなる。恐らくユーザーから「痛いから何とかしてくれ」という鬼クレームが入ったのだろう。その結果、ボディの裏側と肘が当たる部分にコンター加工(身体に合うよう曲線で削る)が施され、グッと弾きやすくなったのが1954年モデルだ。まさにこのとき、イノベーションが起きた。

その後、マイナーチェンジを重ねる中で、素材やピックアップの仕様が変わるなどの改良が行われたものの、この54年モデルが現代のエレキベースの基礎として、ほぼ完成されていたと言える。51年から57年頃までに作られていたベースが「オリジナル・プレシジョン・ベース(OPB)」と呼ばれている。この後、プレシジョン・ベースはデザインも一新され、更なる進化を遂げることになる。

フェンダー社のあれこれ

フェンダー社は、創業者レオ・フェンダーの健康上の理由や財務的な事情、そしてより大きな資本が成長のために必要と考えられたことから、1965年にCBSに買収されることになった。CBS時代のフェンダーベースには賛否両論がある。良い面としては、CBSによる資本投下により生産量が大幅に増加し、これによってフェンダーベースがより広く普及し、多くのミュージシャンが手に入れやすくなったことが挙げられる。

一方で、買収後のフェンダーはコスト削減と生産効率の向上を重視するようになり、その結果、一部の製品で品質の低下が見られるようになった。特に、ネックの安定性やピックアップの性能、全体的な組み立て品質について、以前のフェンダーベースと比べて劣るとの批判があった。また、CBS時代のベースは、材質の選定や製造方法の変更によって重くなる傾向があり、これにより演奏中に肩や腕に負担がかかるという不満も生じた。

CBS時代のフェンダーベースは市場で広く受け入れられたものの、特にビンテージ市場やプロのミュージシャンの間では品質の低下が指摘されている。しかし、個々の楽器によって差があり、例えばマーカス・ミラーのトレードマークであるジャズベースは1977年製であり、今でも非常に人気が高い。結局のところ、どんな楽器でもプレイヤー次第で、相性や使い心地は人それぞれだ。楽器は実際に弾いてみないとわからないものなので、購入する際はまず一度触ってみることが重要だと思う。

当時はブリッジにシリアルナンバーが刻印されていた

フェンダー・ジャパン

で、私が所有しているのが、このJVシリアルと呼ばれる時代のフェンダー・ジャパンのオリジナル・プレシジョン・ベース。当時のフェンダー・ジャパンは、長野県松本市にあるフジゲン(富士弦楽器製造)で製造されていた。80年代初頭、フェンダーとフジゲンが共同出資して作った会社がフェンダー・ジャパンだった。経済的な理由でフジゲンが手を引く97年まで製造され、その後は同じく松本市のダイナ楽器が製造を引き継ぐことになる。さすが木工の町、松本。しかしながら、本国フェンダーの方針で、2015年にフェンダー・ジャパンは消滅することになる。

レストアという名のモディファイを施す

自分の楽器を自分好みに仕上げたくなるのは、珍しいことではない。ここからは、頭の中にあるイメージ通りに手を加えていきたいと思っている。ピックアップは、ネットで取り寄せたちょっと珍しいものに交換してみた。以前はセイモア・ダンカンのQuarter Pound™を取り付けていたのだが、弦を大人な音がしてテンションが緩く弾きやすいブラックナイロンテープワウンドに変えたこともあり、少し音圧に物足りなさを感じていたので、ピックアップを変えてみることにした。

それが前回の記事でお伝えした、SENTELL PICKUPSという聞き慣れないメーカーのP-51というピックアップだ。ほとんど情報がないので、完全に見た目で選んだ。見た目にグッときた理由は、私が十代の頃から愛用しているミュージックマン・スティングレイベースのピックアップと同じくらいのインパクトがあったことと、このメーカーの住所をGoogle Mapで検索したところ、スティーブ・ジョブズがAppleを創業したガレージのような場所で、手巻きでピックアップを作っているらしいと分かったからだ。頑張っている人を応援したくなる性分なので、琴線に触れてしまったのだ。

数日でピックアップが届き、開封してみると、ハンドメイド感溢れる作りのピックアップが無造作に箱に入れられていた。オリジナルのピックアップと比較すると、ポールピースの大きさの違いがはっきりと分かると思う。

これだけデカいと弦振動を余すことなく拾いそう

元のピックアップを取り外し、新しいピックアップのケーブルを穴に通す。向こう側から適当なワイヤーを通して引っ張り込むのが一番早い。弦を張ったまま作業しているのは、手早く音がちゃんと鳴るかを確認するため。とはいえ、実際のところは弦を張り直すのが面倒だからというのが本音だ。どうせこの後ですぐに張り替えるつもりだし。

ズルズルッと引き込む

ここで大きな問題発生

ピックアップのベースのサイズが合わない。新しいピックアップの方が1mm〜2mmほど大きくて、ちゃんと収まらないのだ。これがガレージメーカーの“味”というやつなのかもしれない。同じサイズのはずなのに、合わないとは予想外だった。普段はミリ単位の誤差など気にも留めない性格だが、今回はどうにもならないので、ボディを削るしかなかった。そこでマキタの電動トリマーを駆使して、ほんの僅かだけ削り、無事に綺麗に収めることができた。ノミなら15分かかるところが、1分で終わった。

ピックアップとピックガードを交換した姿

ネックの交換

このベースを中古で手に入れたときから、ネックには同じ年代のフェンダー・ジャパン製のローズウッド指板のジャズベースのネックが取り付けられていた。これはこれで、プレシジョンベースよりも細くて弾きやすかったのだが、やはりオリジナルのメイプルネックの方が見た目も良く、気分的にも上がりそうなので交換することにした。幸い、2008年製のメキシコ製OPBのメイプルネックを持っていたので、それを使うことにした。さらに、ヴィンテージの金属パーツも持っていたので、ついでにそれも交換することにした。ニコイチどころかフランケンシュタインのようになってしまうが、売り物ではないので、カッコよくて音が良ければそれで良い。

発売当時はホワイトのピックガードが取り付けられていたが、私の好みでベイクライト素材のブラックに変更した。その方が、見た目がグッと引き締まるからだ。

完成した姿がこちら

ブリッジにはウレタンでミュートを付けた(すぐ外せる)

弦はD’AddarioのETB92M Black Nylon Tapewoundを張った。
この弦はとても弾きやすく、音も少しアコースティックな感じがあり、スラップで弾いても田舎臭いけれど良い感じのサウンドが出る。ただ、稀にナイロンテープがほどけてしまい、どうにもならなくなることがある。最近はベースの弦も高騰していて、この弦も高価だ。それだけに、ほどけてしまうとかなりショックだが、泣き寝入りするしかない。

金属パーツは、随分前に60年代のいい感じにくすんだものを見つけて買っておいた。ところどころメッキが剥がれていて、味がある。結果は想像通り、良い感じに仕上がった。床の間にでも飾っておきたくなるが、楽器は弾いてこそ価値があるもの。これからもガンガン弾き込んでいきたい。

ちなみに、このベースの使い手で最もカッコいいのは、もちろんこの人。


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