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『ハナレイ・ベイ』(2018/日本
『東京奇譚集』という村上春樹の短編集があり、そこに『ハナレイ・ベイ』という短編が収録されています。本作はそれを原作とした90分ほどの映画です。
村上春樹原作の映画は「映像化が難しい」とよく言われます。小説には独特の世界観があります。回りくどいと思われるような主人公の心情描写や超独特な比喩表現に溢れており、それを映像化するのは難しいのです。2022年に公開された『ドライブ・マイ・カー』は映像化に成功したと言える映画ですので、それだけ観られた方は他の村上春樹原作の映画もきっと面白いに違いないと思うかもしれませんが、そうではありません。映像化にうまくいかず鑑賞者にモヤモヤを残す作品が多いのです。
前置きが長くなりますが、『ハナレイ・ベイ』もそれにあたります。美しいハワイのカウアイ島の風景をバックに主人公の女性が死んだ息子に思いを巡らせます。生前、息子とはうまくいっていなかったようで思い出に登場する息子とはギスギスした会話ばかりです。小説にすれば文学的な表現を使って読み応えのある文章が書けそうなものですが、映像となると美しい風景を眺めの尺で見せて、主人公の佇まいにフォーカスを当てるぐらいになります。息つく魔も与えないようなエンタメ要素の強い映画が好きな人には退屈に思えるでしょう(原作小説であれば村上春樹の小気味よい文章に浸ることができるんですがね)。
村上春樹原作の映画っていくつかありまして、どれも監督が違うんですが同じような演出になっています。
・セリフが棒読み
・風景の長回しが多い
・感情の起伏はなるべく出さない
きっとどの監督も前作の真似したくはないと思うんですが、村上春樹の世界観を表現しようとするとこうなってしまうんですね。
吉田羊が主演なんですが、現在、20年前、10年後という幅広い年代の演じ分けをしてるですが、何にも変わってないところが気になってしまいますね。じっくり映像で観せる映画なのでそこは表現してほしいところですね。
あとはサーファー役で村上虹郎が出ていますが、棒読みセリフなのに存在感がありました。原作と見た目は違うものの原作の雰囲気がよく出ていたところが好印象でした。と自分で感想を書いていて思いましたが、村上春樹原作映画は「いかに原作に近づけているか」というポイントに原作ファンは主眼を思いているのでは?と感じましたね。
逆に原作未読の方はどういうところを面白がるのだろうと気になった映画でもありました。
(採点:★★★★★★☆☆☆☆)