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良元優作の帰り道を聴いて

2023.1104島根県隠岐海士町で高校生が主催するAMAFESという音楽フェスがおこなわれました。

紙やダンボールで手作りされた装飾は、時折強くなる雨に耐えながら最後まで彼らの意思を示したメッセージを掲げていました。

高校生は、新宿ルイードのScrap Alleyを卒業して少しのルールと自由の中で活々と青春を楽しんでいるように見えます。

賑やかに盛り上がるステージが続く中、姿勢を正した良元優作がイスに座りギターを弾き始めます。

異様に強いアーティストの匂いを纏った彼は、座れ座るなと息巻いたり、ニッコリと笑ったり。
次の瞬間、鳥が風をつかむような軽やかさでギターを操り、あっという間に聴く人をを惹きつけます。

クセのあるよく響く声が心地いい。そう思った時に、待っていた帰り道をスッと歌い始めました。

帰り道

イヤホンぶら下げて
あくびしている女が
携帯電話を見ながら
オレの方に近づいてくる
すんでのところで
かわしてみたけれど
何も言わずにその女
何も言わずに通り過ぎた

黄色い点字ブロックの
上をとぼとぼと歩いている
目をつむりながら
どこまで行けるかなと

あそこまで辿り着けたなら
オレもきっと成功するだろうと
だけど二、三歩行ったくらいのところで
すぐに目を開けてしまった

コオロギが鳴く頃には僕にも娘ができるんだよ
しっかりしなきゃと思って
仕事を探しに行ったけど
面接官の質問に
おどおどしながら
缶コーヒーを買うのを我慢した

帰り道

いやな世の中だとか
NO MUSIC NO LIFEだとか、ド派手な看板が分かった風に物を言う
オレみたいにバカな奴らが
そんな二束三文の言葉に
振り回されることもあるのかと思うと
いつまでも歌いたいなと思うのさ

コオロギが鳴く頃には僕にも娘ができるんだよ
しっかりしなきゃと思って
仕事を探しに行ったけど
黄色い点字ブロックの上
とぼとぼ歩きながら
僕の娘も同じようなことするのかと思った

帰り道

コオロギが鳴く頃には僕にも娘ができるんだよ
しっかりしなきゃと思って
仕事を探しに行ったけど
黄色い点字ブロックの上
とぼとぼ歩きながら
僕の娘も同じようなことするのかと思った

帰り道

缶コーヒーを買うのを我慢した

帰り道

いい歳をして本当に恥ずかしい話、涙が止まらなくなって困りました。

就職をせずに演劇や音楽をやってきた連中なら大抵は、結婚あるいは30歳を迎える前に夢と現実を考える節目がきます。

それなりに後ろ盾があるなら、それは些細な節目なのかもしれない。これまで生きてきた中で資格や能力を表せるものがなければ、社会は冷やかな目で審判を下します。

やはり目に見えないレールは存在していて。けれども、家族や家を持つこと、人並みの暮らしという誰かが作り出した小さな夢が、年を重ねるにつれて離れていくような気がしてしまいます。

そして社会から見れば自助努力で解決できそうな事というのは、自分にとって絶望的に続く高い壁であったりします。

ただ帰り道の先には待っている人がいる。それがなにより嬉しいこともよくわかる。

だから帰り道は温かい歌なんですね。

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