アルピーヌ A110 GT(前期) 試乗記
Twitterに書くとメンションがたくさんになるのでnoteに残すことにする。
以下、個人の感想なので悪しからず。また長文になっとります。
諸元
全長×全幅×全高 4,205×1,800×1,250mm
ホイールベース 2,420mm
トレッド (前)1,555mm (後)1,570mm
車両重量 1,120kg(44:56)
エンジン出力 252ps@6,000rpm
エンジントルク 320Nm@2,000rpm (to 4,800rpm?)
トランスミッション 7速DCT
タイヤ (前)205/40R18 (後)235/40R18
全体の感想
スポーツモードには入れず、ノーマルモードのみで市街地、バイパスを走行。低回転からトルクが立ち上がり、ミッドシップの特徴を活かしたレスポンス良く、回頭性の高いハンドリングで、軽快な動き、ドライビングが楽しめる1台。
サーキット走行でタイムを追いかけるほどスパルタンな仕上げではないけれど、足回りはそれなりに固められていて、路面の綺麗なワインディングを速度を上げて気持ちよく走るのが、この車の活きるシーン。でもA110 Sはここをベースにシャシースポールへアップデートされているので、そちらを選べばサーキット走行を楽しめるのは間違いなさそう。特に前荷重を作って小さく曲がる動きをさせられる場所であれば、この車をより楽しめると思う。
ライバルとして挙げられる718ケイマンやスープラといったスポーツカーと比べると出力は劣るけれど、200〜300kg近く軽い車体が生み出す軽快な動きは、それらに負けない個性と言える。
詳細
ハンドリング
ステアリングの微小舵角に対してもしっかりヨーが応答する。ただし、直進している最中の微小な操作に対する操舵反力はセンター付近が弱く、操舵反力が立ち上がったところからは旋回Gもゲインが高くかつ速く立ち上がるため、直進からゆるいRのカーブに進入し、速度を維持しつつ、ステアリングを切り増しするようなシーンでの旋回Gのコントロールはスムーズに行うのに苦労する。また、この微小舵角の反力の弱さが、いい意味でダルだし、悪く言えば緩く感じる箇所。ボディの剛性はすごく高いのに、細かな操作に対してフィット感がなく感じるのは勿体無い気もする。
一度でそれなりに大きな操舵角を与えるようなシーンでは、ヨーの応答は良く、ゲインは少し高めに立ち上がるが、線形性を保つため非常に綺麗に車の向きを変え、かつ扱いやすい。
ただし、気持ちよく車の向きを変えているかと言えば個人的にはそこまでではなかった。姿勢変化もよく抑えられていて、やや速くスムーズに向きを変えてくれるが、ロール・ピッチの変化を体感しながら、そう高くに伴って気持ちよく向きを変えるでなく、どちらかと言えばサーキット走行寄りな性格だと思う。この辺は718ケイマンや、NDロードスター(2015モデル)の方が個人的には好み。
乗り心地
はっきり言って足回りは硬い。細かい周波数ではそれなりに車体は動くし、中入力では突き上げ感はある。スパルタン(=サーキット向けのルノースポール・トロフィーやTypeRを例に言う)ではないと言ったけれど、一般的な基準で言えばかなり足の硬い部類なのは間違いない。
ただし、それなりに足の硬い車に慣れている人からすると不快なレベルではない。タイヤが柔らかく初期の角をとってくれているような感じで、硬く感じる部分はダンパーの動きだしとスプリングそのものの硬さに感じる。この辺りはマナーチェンジ後にマイルドになったと聞いたので、ダンパー部分にアップデート入って、より上品に変わっているかもしれない。個人的にはそちらの方が好きではある。
あとはボディのねじり剛性が高いのも不快感を低減している一つの要素かもしれない。起伏や段差の乗り降りで、これだけ硬い足回りをしっかり動かすほど受け止める剛性の高さは、この車重で達成していることを考えると驚異的なレベル。
ブレーキ
最高。一度踏めば慣れる必要もなしに思い通りにコントロールできる。踏力コントロール型だけど、踏んだ力に対してリニアに、踏み込んだ力を増やしたのと同じ分だけ減速度が立ち上がるすごくコントロールしやすいブレーキ。街中での0〜0.2G程度のところ、制動力の立ち上げや最後の力を逃すフェーズも踏力と一致していて非常に良い。
もちろん前のめりの姿勢になることもなく、安定した姿勢のまま減速するので、踏力を下げつつステアしてヨー、旋回に入る時の姿勢の安定感はすごく良い。
ブレーキとは関係がないが、DCTの方で一定減速すると若干ギクシャクするのは仕方がない。
エンジン・トランスミッション
バイパス合流の場面で少し加速をさせた際は、レスポンス良くパワフルに反応してくれるので楽しい。伸び感に欠けるので、回して行った時の気持ちよさはあまりなかった。
信号からの低速発進も、小さいスロットル操作に対してもたつかずに反応してくれるので、非常に扱いやすい。ATモードでの運転であったけど、わざわざギア選択しなくても繊細な操作も含めて反応良く、こちらの操作の意図と違いない動きをしてくれるので、非常に扱いやすい。
一定減速の時だけ、オートシフトダウンでエンジンブレーキが変化する分、ギクシャク感が出てしまうけれど、大きなショックがくるわけではないので、不快になりはしない。(気になりはする)
シート
今回はリクライニングができないバケットシートタイプで試乗。その後リクライニング可能なシートも座って確認。バケットシートのタイプはホールド感や上半身の姿勢が安定して取れるし、腰回り、肩周りの支えが良くできているので不自由なくリラックスして運転ができる。リクライニングのシートは腰回りのホールド感が薄いので、そこが少し気になった。リクライニングできるメリットがあるので、そちらを優先するのであれば全然問題ないレベル。個人的にはバケットの方が運転中にリラックスできるので疲れなさそう。
まとめ
当たり前の話だけれど、特徴を理解してそれが活きるステージで、特徴が活きる運転をしてあげれば輝く車は多い。しかし、趣味に偏った車であるならば、そうでない場所でも、運転手に“あなたは特別な車を運転しているんだ“とわからせるだけの感覚・フィードバックが車からあった方が良いと個人的に思う。わかりやすく言えば、目隠しをされて運転席に座らされて、そのあと内装の一切を隠された状態で運転してその車が何か当てられるかどうか。サーキットまで持っていって走る気のない私なので、街中でも日常的に楽しめるのが良いというところからの考えではある。
A110はそういう点から言えば、もう少し個性が強くても良いかもしれない。この個性は好みに近いものではあるし、現代の車の中ではすごくバランスの整った個性を持っているが、もう少し癖のあった方が際立つかもしれない。
優等生でありつつ、クラシカルで王道なハンドリングを追求したという点においては非常に優秀で、趣味で良くワインディングに行くのであれば、特に小さいRがあるような道では、存分に楽しむことができるし、ベストな選択のひとつになり得ると思う。