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ニュースゼロ円時代にローカルメディアがすべきこと(新聞社編)
今回のスタディーミーティングのテーマは「ニュースゼロ円時代にローカルメディアがすべきこと(新聞社編)」。
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かなり大きなテーマですが、新聞やテレビ、ラジオをはじめとする地方メディアは、ローカル情報の入手先というだけではく、私たちの仕事や暮らしにおいては、購読しているしていないは別としても、大切な存在であるように思います。
そんなローカルメディアを代表して、今回は中国新聞で後述する「U35」の立ち上げに関わってこられた平井敦子さんをはじめ、同企画の制作や編集、ウェブサイトやSNS等の運用、また中国新聞社本体の営業の方など、総勢9名の方にテーマオーナーとしてお越しいただきました。
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前半は平井さんから、新聞という業界を取り巻く現況についての情報提供。
新聞は全国的に見ても1999年をピークにその発行部数は減少傾向にあり、中国新聞においてもこの傾向は同様で、特に若い世代の購読者が増えていない(減っている)ことに危機感があるということ。
なかでも、昨今はインターネット上に「無料」で読めるニュースが溢れており、わざわざお金を払って読んでもらうためにはどうすればよいのか、特に若い世代にローカルニュース(地域のニュース)を読んでもらうにはどうすればいいのか、悩んでおられるようです。
平井さんたちはこれまで、若者世代の複数人に直接インタビューを行い「新聞を読まないのはなぜですか?」「どうしたら地域のニュースを読みますか」などの直接的な質問をぶつけてみたそうですが、「(新聞は)古い、カタい、つまらない」「若い人には新聞アレルギーがあり、毛嫌いされている」「地域のニュースなんて見る必要がない」など、心が折れまくる回答ばかりだったそう…
そのような辛辣な意見も真摯に受け止め、2021年11月に立ち上がったのが「U35」という35歳以下をメインターゲットに据えたプロジェクト。これまでのような「紙面」ではなく、主にInstagramやTwitter、ウェブサイトなどで広島のヒトやモノ、コトに関する話題や情報を発信。インターフェイスもおしゃれな写真やポップなキーワードで溢れています。
現在、徐々に20代~30代の若い世代の特に女性を中心に読者が増えてきているとのことですが、解決すべき問題、乗り越えなければならない課題はまだまだ多いとのことでした。
そこで、平井さんから会場のみなさんと一緒に考えたいと、以下の2つのお題が提案されました。
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1 あなたに必要なローカルニュースとは、どのような内容ですか?それをどのような媒体で手にしたいですか?また、みなさんの周りの若者世代(U35)はいかがでしょうか?
2 記事に出てくるヒト、モノ、コトにであえる・体験できるイベントがあるとしたら、どんなものなら参加しますか?
今回はローカルメディアを中心のテーマとした回でしたが、情報の発信やそのマネタイズ、若い世代とのコミュニケーション等は、どの業界や立場でも関係すること。メディア関係の方はもちろん、製造、運輸、医療、インフラ、サービスなどの様々な分野の企業の方や行政、大学関係者も参加しておられました。
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15分程度、お近くの方と小グループを作ってこの2つのお題について話してもらい、その後全体で共有してもらいました。
結果として、お題を飛び越えて「ローカルメディアとは」に関わるような意見も多く出ました。
以下はコメントの一部です。
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- U35世代の一人だが、地元で活躍している人のことや、週末のイベント情報等がもっと欲しい。
- 全国の情報を全国紙やウェブで読んで、その中にある地元の情報をより深く知りたいときに中国新聞を読む。地域情報はやはり地元紙が強い。
- 対象を若い人に振る必要はないのではないか。これからもおじさんの紙メディアとしての需要はあり続けるのでは?そのうえで、朝の5分で見ることができるカープや地域の経済などの情報に絞った4ページぐらいで構成されたミニ新聞はどうだろうか?
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- 私はU35世代だが、中国新聞をはじめ複数紙購読している。若い世代がまったく新聞を読んでいないと知り驚いている。私自身は、仕事で企業の経営者との接点が多いため、新聞で情報を入手することは必須。
- ニュースや情報は「どう活かすか」というアウトプットイメージ(目的)があってインプットしようとする人も多いのでは。「目的」からつくるというアプローチもありかも。
- 人の紹介記事は悪くないが、おじさんはもういい。おじさんを好きなのはおじさんだけ。
- (新聞を読まない若い人の現状を見て)このままいくと、そもそも必要な情報が取れない人が増えていくのではないかと懸念さえしてしまう。
- 読者を育てるという視点も必要なのはないか。
- 地元テレビ関係で働いているが、ニュースの大切さそのものよりも、いかに絵として「映えるか」、いかに「冒頭の数秒でおもしろいと思わせるか」などで評価されているところがあり、本当に大切なことってそれなのか?とモヤモヤしている。
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- 現在は、新聞記事、ニュースなどは、いわゆる「情報のパッケージ」を作って配信しているが、これからの時代はそのカタチの在り方自体から考え直す必要があるのかもしれない。
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- 新聞が発行部数を下げているのは、日本に限らない。例えばアメリカではその結果として有力な全国紙だけが残っていく傾向があり、ローカルなニュースが地元の人に届かなくなっている現状もある。これはジャーナリズムの危機でもある。
- 新聞は以前は読まれていたというが、本当に読まれていたのだろうか?スポーツ面だけ、テレビ欄だけ、4コマ漫画だけという人も結構多かったのかもしれない。それでも発行部数(購読者数)としてカウントされるから、紙面広告が取れていた。
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- 今は行政でさえ、様々なイベントコンペなどの仕様に、PRとして「新聞」という媒体を使おうとしていない。(代わりに必ず入るのはSNS)。
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- 受け取りたいもの(見たいもの)と、届けたいもの(見せたいもの)は、必ずしも一致しない。つまり、読者がお金を出してでも欲しいものと、供給側が作りたいものとの間にギャップがある。ビジネスとして、また社の存続のために、もちろん収益を上げていく必要があるが、前者に併せすぎると、新聞としての価値を失いかねない。
などなど。
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お題は具体的でしたが、どのグループでも「そもそも」の部分から話が深まっていき、議論を尽くすにはまだまだ時間が必要な様子で、会の終了後も多くの人が会場に残って様々な話をしておられるのが印象的でした。
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折しも、今回のスタディーミーティングの翌々日は統一地方選。広島でも多くの市町で首長、議員の選挙などが行われました。
このような地方政治のイマや、まちで起きている身近な変化を最も近くから届けてくれるのは、全国紙や中央のテレビ局ではなく、やはりローカルメディア。
私たちが、主体的に、民主的に街に関わっていくためにも、その存在はかけがえのないものなのかもしれません。そんなローカルメディアについて、市民の一人として、みんなで一緒に考えることができたのは、個人的にもとても貴重な時間でした!
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ご参加いただいたみなさま、そして赤裸々な内情も含めて情報提供くださった中国新聞のみなさま、いつも快く会場をご提供くださるco-ba広島さま、ありがとうございました!
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