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レジデンシャル・エデュケーションの最前線:「学問と向き合うということ」(University of Cambridge・竹谷真帆)

HLABがキーワードと考えている「レジデンシャル・エデュケーション」。それは単に寮で共同生活を営むということだけではありません。大学や寮ごとに制度や仕組みは特徴があり、独自の文化を築いています。そして寮生活を通した学生の経験や学びは多様です。そこで、今回は「レジデンシャル・エデュケーションの最前線」という連載で、海外の大学に留学している方たちに、自分たちの寮や文化づくりについて寄稿をお願いしました。

HLABでは、本場の実際の留学生活をより深く知っていただくために、動画版「留学体験記」を配信するサイト 『Living on Campus』を設立しました。留学希望の方はもちろん、海外大の学習環境や日常を覗いてみたい方はこの記事とともにご一読ください。

今回は、University of Cambridge(ケンブリッジ大学)に留学している竹谷真帆さんによる寄稿です。

自己紹介

ケンブリッジ大学3年の竹谷真帆です。Human Social and Political Scienceという学科で、社会学を専攻しております。高校生の時に二年間UWCドイツ校で寮生活をしていたのですが、大学での寮生活は全く雰囲気の違う独特な生活でした。毎食友達と一緒に食べ、4人部屋で常に人に囲まれている生活から各々が自分のペースで動くかなり自立した生活へと変化しました。コロナの影響で卒業式もなくここを去ることになりますが、この投稿を通して3年間お世話になったこの大学の魅力をお伝えできればと思います。

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カレッジ制

多くのイギリスの大学では学部は3年制で、1年目は全寮制、その後は各自シェアハウスなどを探すことになっています。しかし、ケンブリッジ大学ではカレッジ制を採用しており、学部生は原則カレッジの寮に3年または4年(院まで進む場合)住むこととなります。

さて、そもそもカレッジ制とは何なのでしょうか。ケンブリッジには31のカレッジが存在し、教授や学生はいずれかに属することとなります。カレッジは主に生活をする場所なので、寮に加えて図書館、食堂、チャペル、ジム、音楽室、カレッジバーなどの施設が存在します。学業関連の施設、講義室やデパートメント(各学科の施設)などは、大学の施設としてカレッジとは別に存在しています。

ちなみに図書館は大学に114館存在し、各カレッジの図書館に加え、各デパートメントの図書館、そしてイギリスで出版された本は全て置いてあるといわれている大学の総合図書館、通称UL(University Library)などがあります。大学全体の図書館だと必要な本を他の学生と取り合うことになってしまうので、自分のカレッジの生徒のみが本を借り出し、必要な本をできるだけ確保できるようにという意図でカレッジの図書館は作られたそうです。

また、カレッジごとにスポーツなどの部活が存在します。特にボートは人気の高い部活です。大学レベルの部活だとかなり上級者が集まっているのですが、カレッジレベルの部活は初心者でも始められるフレンドリーな環境です。

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各カレッジの名前と紋章

カレッジという仕組みは、なかなかややこしいシステムなので、ハリーポッターの寮を例に出して説明してみましょう。各カレッジにはグリフィンドールやスリザリンのように特徴があります。カレッジの中で友達は自然とできますし、他のカレッジへのライバル心なんかも生まれます。ただし、大学の授業自体はカレッジ関係なく受けることになります。なんとなく仕組みは伝わったでしょうか。

ケンブリッジの学生は受験する際に、住む場所としての「寮」を選ぶ以前にカレッジを選ばないといけません。毎年Tompkins Tableという生徒の成績によりカレッジをランク付けしたものが発表されるのですが、その順位を見てカレッジを選んだ人もいるそうです。他にも皆それぞれ選ぶ理由があるようですが、結構適当に選ぶ人も多いとか。カレッジによって住む場所や得られる特典(応募できるスカラーシップ)が変わるのでかなり重要なのですが、ケンブリッジに来る前はなかなかその違いがよくわからないものです。

カレッジでの生活

さて、カレッジはどのような雰囲気なのでしょうか。これもカレッジによって様々なので、一概には言えません。カレッジは街の中に点在しており、寮がかなり離れているカレッジもあります。特に街の中心にメインの敷地がある古いカレッジは、生徒の数の増加に合わせて少し離れた場所に寮を新しく作っているので、食堂や図書館などの共有スペースがある古い建物の敷地とは別にかなり近代的な寮に住むこともあります。また、カレッジによっては土地をお店などに貸し出しており、そのお店の二階に住むことがあります。ちなみに私は2年生の時、パブの上に住んでいました(笑)。

私が所属するMagdalene College(なんとこれでモードリンと発音します)ではほとんどの寮がメインの敷地に近いので、すぐ友達の部屋にも遊びに行くことができます。ケム川に近いので外に出ると賑やかで観光客も多いのですが、カレッジのゲートの中に入ると一気に静かになり、長閑な景色と化します。カレッジのガーデンを散歩したり、川に面しているのでカレッジのパントという船に乗って遊ぶこともできます。川には白鳥(赤ちゃんも!)やアヒルもいて、カレッジ内ではよくリスにも遭遇します。

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ケム川沿いの景色

カレッジの中を歩いてるだけで自然に触れ、歴史を感じることができるという贅沢はこの大学の醍醐味だと思います。ちなみにカレッジの芝生は丁寧に手入れがされており、基本的にはフェロー(教授)しか歩くことが許されていません。

寮の部屋は基本的に1人部屋で、キッチンやシャワー等は共用です。 寮の構成には全く統一性はありません(笑)。1428年にカレッジができたときに計画してた寮の部屋数が足りなかったためか、需要に合わせて新しい寮を作ったり、改築を続けたりしているのだと思います。それぞれの寮の建物は違う年代に作られており、住む場所によってかなりスタイルも違います。大きな建物に何十人も住める寮もあれば4人ほどで住む家のような寮もあります。例えば私が1年生の時は8人ほどとキッチンを共有していましたが、今年は吟味して部屋を選んだのでたったの4人でキッチンを共有しています。

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寮の外観

また、部屋は1年ごとに変わります。休暇の間はカンファレンスなどに使用されることがあるのでいちいち荷造りをして部屋を出なければいけません。しかし、ルールはカレッジによって全く違い、1年分の家賃を払うカレッジもあれば、休暇の度に全ての荷物を運び出さないといけないカレッジもあります。ちなみに家賃もカレッジによって様々です。

1年間住む上で、部屋決めはかなり重要なイベントとなります。ほとんどのカレッジは抽選で住む場所が決まりますが、カレッジによっては成績によって順位が決まるところもあるそうです。私のカレッジでは学年ごとに抽選を行い、部屋を選べる順番が決まります。友達と一緒に抽選をすれば順番が並び、同じタイミングで部屋を選ぶことができます。また、学年の中での順位は3年生になると逆転します。つまり、2年生の時に後の選択順でも、3年生になって選ぶときは初めの順番になるのです。

寮の部屋の情報が一覧になっているウェブサイトがあるので、部屋決めの日の前は友達と「どこのキッチンがいいか」や、「どの部屋が広いのか」など一生懸命分析をし、実際に見に行ったりもしました。自分の順番が回ってきた時にまだ空いてるであろう部屋を予想しながら目星をつけるので、ある意味熾烈な駆け引きとも言えます。

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寮の部屋

カレッジ生活の魅力

カレッジに住むことの一番の魅力は、自分の居場所を見つけられることだと思います。一学年約3000人ほどの総合大学だからこそ、初めて大学に行った時に迎えてくれるカレッジというコミュニティがあったことは心強かったです。例えば私の学部には約150人超の学生がいるのですが、カレッジには6人しかいないのでカレッジの教授との距離も自然と近くなります。ケンブリッジで自己紹介をする際はほぼ必ず自分のカレッジがどこかを言う習慣があるのですが、これはカレッジが自分のアイデンティティーの一部になっている表れだと思います。

二つ目の魅力は、色々な分野の人と出会えることです。規模の大きい大学なのでサークルや講義など色々な場面で友達ができますが、大半の場面では共通点があるから仲良くなるものです。カレッジでは比較的共通点のない人と時間を共にするため、カレッジ以外の場面だったらそこまで仲良くなってなかったかもしれない人と距離を縮めることができます。私も彼らから色々と学ばせてもらいました。例えば、私は一緒に住んでいた友達と毎週火曜日の夜に集まって、お茶会をしていました。その時にあがった話題が「贈り物(gift)」についてでした。そもそも3人とも神学、文化人類学、法学と勉強している分野は違うにもかかわらず、同じことについて学んでいることに驚き、各分野ではどのように分析や解釈をするか共有し、その違いを話し合ったりしたのがとても興味深かったです。

三つ目の魅力は、カレッジならではの伝統のあるイベントの数々です。各カレッジの食堂ではフォーマルディナーという3コースの夕食会が開催されます。社会に出ても恥ずかしくないようなマナーを学生のうちに身につけるために開催されているのだとか。生徒は基本的にガウンを着てフォーマルディナーに参加します。私のカレッジでは蝋燭の明かりのみでディナーを行うので、かなり暗いです(笑)。

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フォーマルディナー

また、試験が終わった頃の6月には「メイボール」というパーティーが行われます。カレッジ全体の敷地を使って夜の9時から朝5時まで行われるかなり豪華なパーティーです。私のカレッジのメイボールはドレスコードがホワイトタイなので、皆がドレスアップする様子を見るのもすごく楽しかったです。

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メイボールの様子(Photo Credit: Greg Gaktis)

文化

「学び」を極めるのに、カレッジという環境ほど優れた場所はなかなかないと思います。カレッジの図書館は24時間空いていますし、1人部屋なので部屋にこもって学問に励む生徒も少なくありません。パーティーなどに参加した際はもちろん思いっきり楽しみますが、色々な人と交流をし、久しぶりに会った人と最近どんなことを学んだのかなどを話すことも珍しくありません。また、前年度に良い成績を収めた学生は特別なディナーに参加し、カレッジ誌に名前が載るので、努力をした人を讃えあう文化が根強くあると思います。勉強さえしてればいいように環境は整っており、学生としてとても守られており、恵まれていると思います。

ここでいう「学び」とは、プロジェクトにとりかかったり議論に参加することよりも、黙々とひたすら1人で本を読み続け、問題に取り組むようなものです。ある意味孤独な作業ですが、個人として自分の考えを深めることによって、学者として育っていくのだと思います。一緒に住んでお互いのことを学ぶというよりかは、一緒に住んで自分の世界や学問を極め、一個人としてお互いと関わって高め合うことが800年以上受け継がれてきた伝統的なケンブリッジ流のレジデンシャル・エデュケーションなのかと私は考えます。

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カレッジの友達とメイボール

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現在、2022年春から入学するカレッジ生を募集しています。募集に伴い、プログラムの詳細や学費、選考方法や館内案内を行う説明会を開催しています。説明会の日程やお申し込みは以下のリンクをご覧ください。


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