親子で進路やキャリアに向き合う「親子ワークショップ」を開催しました
HLAB初の取り組みとして、親子で進路やキャリアに向き合う「親子ワークショップ」を7月26日(日)に開催しました。この記事ではワークショップを企画した思いと、当日の様子をご報告します。
なぜ、親子ワークショップを企画したのか
HLABはサマースクールという形で高校生を対象に「主体的な進路選択」の機会を提供してきましたが、毎年サマースクールが終わってしばらくすると、参加した高校生とその保護者のみなさんからこのような声がよく聞こえてきていました。
高校生
「サマースクールでやりたいことに気づき、目指す学部を変えたいと思ったが、親にどう伝えればいいかわからない」
「アメリカのリベラルアーツ・カレッジに進学したいと親に伝えても、思いが伝わらない」
保護者の方
「サマースクールに参加してから将来のことを真剣に考えるようになったが、親としてどうサポートすればいいかわからない」
「親としては安定した仕事に就いてほしいけれど、子どもはリスクを取りながらどんどんチャレンジしたいと言っている。話し合おうとしても、つい頭ごなしに否定がちになってしまう」
やりたいこと、勉強したいこと、将来の進路が高校生本人の中でどれだけ明確に決まったとしても、その実現のために保護者に理解や応援を求める場面でどのように伝えるかは難しいもの。
一方、保護者の視点に立つと、子どもの意思を尊重したい思いがあっても、進路についてのサポート方法がわからないことがあります。また、思春期ならではコミュニケーションの難しさを感じている保護者の方もいらっしゃいます。何より、目まぐるしい時代の変化の中で、保護者の方自身もこれからのキャリアがどうなるか見通しが持ちにくくなっている中、子どもの将来やキャリアを考えることは、とても難易度が高くなっています。
これまでHLABは、サマースクールという形で高校生に向けて進路や生き方を考えるためのヒントを提供してきました。しかし、実際に進路を決める過程で切っても切り離せない存在である保護者の方々に対しては、十分な機会を提供しきれていなかったのです。そして、本当の意味で進路・キャリア支援を進めるためには保護者の方々へのアプローチも必要ではないかと考えるようになりました。
"ピア・メンターシップを通じた主体的な進路選択の実現"を掲げるHLABとして、保護者への価値提供として何ができるのかを考えるなかで見えてきたのが、今回の親子ワークショップでした。
ワークショップの着目点
親子がお互いの価値観やそれを形成した経験を理解し合うことによって、初めて高校生の「主体的な進路選択」が現実のものとなるという考えのもと、このワークショップでは「親子間のコミュニケーション」に焦点を当てることとしました。
日々の生活の中で、親子で改まってキャリアについての話し合う機会を作るのは難しいものです。家で一緒に過ごしているとはいえ、子どもは保護者がどのような人生を歩んできたか、保護者は子どもが日々どんな経験をしているか、それぞれ意外と知らないことも多くあります。さらに言えば、今どのような価値観を持っていて、過去の経験がどのようにそれとつながっているかについて、深い理解を持っている親子は多くはないはずです。
HLABとして初の試みである今回のワークショップは、親子のコミュニケーションや相互理解を促進させる「司会進行役」として、親子間での経験を共に振り返り、子どもの進路やキャリアについて考える機会をつくることを目的としました。
ワークを行うだけでなく、横山匡さん(HLAB 共同創設者・ヘッドコーチ、アゴス・ジャパン代表取締役)をゲスト講師としてお迎えし、長く携わってこられた留学やキャリア指導のご経験、学生やアスリートのコーチとしての気づきをもとに、「親子で考える未来像」についてもお話をいただきました。
当日の様子
HLABとして初めての試みにも関わらず、5組の親子がモニターとして参加してくださいました。まず最初は全員で自己紹介。学年は高校1年生から高校3年生までまんべんなく、またお住まいも首都圏から海外の方までと、様々な方にお集まりいただきました。
参加者のみなさんには事前課題としてワークシートを記入いただいていましたが、今回は真っ先にワークを始めるのではなく、まず最初にゲスト講師である横山さんから「進路を選択するときの考え方」についてお話いただきました。
ポイントは「納得解をみつける」ということ。進路選択の場面では、"いい学校"や"いい会社"のように「正解」を見つけてそこを目指すという考え方をしてしまいがちですが、横山さんは「最初から『正解』があるわけではない」と言います。
キャリアや進路には、選んだ瞬間に「正解」があるわけじゃないんですよ。「納得して選んだ選択肢」を「正解にしていく」のがキャリアづくりなんですね。
親子で進路に向き合う時も「正解」を見つけるという思考になりがちですが、重要なのはコミュニケーションを通して納得して決断をしていくことなのです。
お互いに納得して決断するための第一歩として、お互いが大切にしていることを知ることが大切だと考えました。親子それぞれの過去と未来をお互いに掘り下げ、何を大切にしているのか、どんな経験をしてきたのかを理解することによって、親子での相互の「納得」を作り出すことこそを狙いとして、ワークを進めていきました。
Work 1: お互いの人生を知ろう
横山さんから「納得解を見つけること」と、ワークショップの心構えについてお話を伺った後、実際のワークに入っていきました。最初のワークでは、これまでの人生に焦点を当て、親子が経験や価値観を相互に理解し合うことを目標としました。
ここでようやく、事前課題として記入してきたもらったワークシートが登場。このワークシートには、高校生も、お父さんお母さんも、小学校時代から今に至るまでの人生を振り返って、人生のさまざまなフェーズでどんな出来事があったのか、どんな人や本に影響を受けたのか、どんな成功や未達成体験があったのかなどを書き出してきてもらいました。
親子で話し手と聞き手に分かれ、話し手は書いてきた内容をワークシートに書いてきた内容をもとに発表し、聞き手は相手の話を聞きながら気になった点を深堀りしていくという形で進めていきました。
親子で話し手と聞き手を交互に務め、発表&深堀りタイムが終わりました。感想を聞いてみるとこんなコメントがありました。
保護者の方
「普段から親子で話してはいますが、私からの一方的な話になりがちなので、今回は彼の意見や考えを聞けていい経験でした。」
「娘の振り返りを聞いてみると、転換期や大事なポイントでラッキーなことにいい人に巡り合ってるなと改めて思いました。そういうきっかけもあって、何かを達成するということを経験したり、自分の好きなことに気がつけたり、ということを積み重ねることができていたんだな、と。普段からなんとなくぼんやり思ってることでも、改めて話を聞いてみて、過去の経験がクリアに見えてよかったと思いました。」
高校生
「(親の人生の話を聞いてみて)一見すると全く別の考え方を持っていて、別の人生を歩んでいるように見えるにも関わらず、人生の「軸」という部分は親子で似ていると思いました。」
「(親が)どんな仕事をしてるかは知っていたけど、会社の中で賞を取ったりすることよりも『人の役に立つ』ということを一番大事にしていたのがすごいなと思いました。」
このワークを通して気づいてもらったのは「親子であってもお互いに知らないことはたくさんある」ということ、そして「過去のいろんな経験の積み重ねが今の自分を作っている」ということでした。普段の生活の中ではなかなか深く話さないトピックだけに、それぞれの親子で新しい発見や驚きがあったようです。
お互いに違った人生を送ってきているからこそ、親子でコミュニケーションを取るときには、相手の話を「聴く」耳を持ち、その裏にある価値観や経験を想像することが大切なのだと改めて気が付かされます。
Work 2: 未来について考えよう
最初のワークでは「過去」に焦点を当ててきましたが、後半のワークでは「未来」に焦点を当てました。このワークでは、将来についての考え方を親子で共有することを通して、将来の方向性について納得感を持つということを目的としました。
準備したワークシートを使って、高校生には「◯年後にどんな自分でありたいか」、保護者の方には「◯年後、子どもにどうなっていてほしいか」を書き出してもらいました。高校時代、大学時代、社会人になってからの10年、30代以降それぞれ時期毎に考えを膨らませた後は、親子でワークシートを並べ、それぞれが書いたことを比べました。
Work 2で実際に使ったワークシート(高校生用)
終わりに
ワークを終え、横山さんのお話でワークショップを締めくくりました。
「今回の2時間でやってもらったことは、普段グローバル人材育成の研修でやってることの簡易版なんです。それぞれのワークに要素が散りばめられてるんです。」
参加者のみなさんに今回のワークショップの感想を伺ってみると、こんなコメントが寄せられました。
高校生
「今日イベントで話されていたことは、日頃親に言われてることと同じだなと気が付きました。自分に対して素直になろうと思います。」
「納得する将来を見つけられるようにこれから頑張りたいです」
「ワークショップで家族と話してみて、普段身近にいる人でもいろいろと知らないことが結構多いということに気がつけました。これからそういうことをもっと共有して、家族間の絆を深めて、その先、私の将来についてももっと深く語り合っていければと思います。」
保護者の方
「納得して行動するというのが一番大切なのだなと思いました。それが寄り道であったとしても、納得したらきちんとその先に続いてきますね。」
「今日は娘だけじゃなく私にとってもいい時間になりました。」
ワークシートに向き合って自分の頭で考え、相手に伝えて、話し合うということをしたからこそ、横山さんのお話にさらに納得感が生まれたようでした。
まとめ
実際に開催してみて、親子で対話することの重要性を改めて感じました。特に、ふだん言葉にすることが少ない今までの経験や考えを形にする機会があることと、親子の対話に第三者が関わることでフラットに対話できることに価値があることがわかりました。
この結果を受け、HLABとしては引き続き「主体的な進路選択」の実現のため、さまざまなプログラムやワークショップに取り組んでいこうと考えています。
また、このような「主体的な進路選択」のために、新しい視点に触れたり、対話したりする機会を日常的に生み出すために、レジデンシャル・カレッジの開発を行います。ご興味のある方は、以下のページより詳細をご覧ください。
新型コロナウイルスの影響でリモートワークが普及し、休校や授業のオンライン化といった措置が取られる中で、家の中で親子で過ごす時間も長くなっている方も多いのではないでしょうか。夏休みやこうした時間を、親子での「密」なコミュニケーションを取る機会として使ってみるのも良いかもしれません。
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