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ラグビー戦術の歩み<7>:シールドロックを打ち破れ(1)


 ラグビーにおいて防御側優位をもたらしたディフェンス、シールドロック。

 シールドロックとドリフトディフェンスの組み合わせによって、トライを取るのが非常に難しい時代が訪れます。縦を突こうとするとシールドロックに捕まり、いずれはボールを失う。横に展開してもドリフトディフェンスがスライドして追随してきて、やはり突破できない。

シールドロックと平尾ジャパン

 タックルを吹き飛ばせるようなフィジカル面での優位がない限り、ディフェンスの突破は非常に難しくなったのです。

 1999年のラグビーワールドカップで平尾ジャパンが取った2つのトライ(いずれもウェールズ戦)は、ターンオーバーから素早くボールをウイングの大畑大介にパスして取ったものでした。ターンオーバー直後であれば、ディフェンスは整ってませんからシールドロックは形成されません。そのほんのわずかな隙を突いて取ったトライでした。

 ただこれを戦術という形にするにはターンオーバーを勝ち取る方法論が必要です。現在はそれは「ジャッカル」という形で広く行われるようになっていますが、1999年当時にはまだそういう形にはなっておらず、ターンオーバーはほぼ偶発的に発生するものでした。サントリーでもプレーした、オーストラリアのジョージ・スミスが「ジャッカル」の名手として名をはせるのはこのもう少し後のことです。

キックによる打破の試み(1):ドロップゴール

 世界のラグビー界では、シールドロックを打破するためにいくつかの対策が試みられました。まずはキックです。大きく分けて3つの使い方がありました。

 1つはドロップゴールで直接得点を取ること。ラグビーのプレー中にボールをワンバウンドさせてゴールを狙うドロップゴールでは、ペナルティゴールと同じ3点を獲得することができます。シールドロックで地上を突破できないなら、それを飛び越えて点を取ってしまえ、ということです。

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 極端な例としては、2003年ワールドカップの準決勝、イングランド対フランス戦があります。24-7でイングランドが勝った試合ですが、トライは両軍ゼロ。イングランドはペナルティゴール5本とドロップゴール3本で24点を稼ぎました。

 この大会では、イングランドとオーストラリアの対決になった決勝戦でも、ジョニー・ウィルキンソンの有名なドロップゴールでイングランドが勝利しています。

キックによる打破の試み(2):キックパス

 2つめは、キックパスです。

(以下の3枚は2020年スーパーラグビー、サンウルブズ対チーフス戦から)

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 ラグビーにおいてボールは前には投げられません。そのため、パスを重ねていくと少しずつ後ろに下がっていくという現象が起こります。ところが、キックは前に蹴ることもできます。もちろんボールをキャッチする選手はキックする選手より後ろにいないとオフサイドになってしまいますが。

 もちろん、昔から前の方向に蹴るキックは戦術の1つでした。いわゆる「ハイパント」で、高い弾道のキックをディフェンスラインの背後に蹴り、ボールの落下点にアタック側の選手を殺到させてボールをキャッチ、再確保を狙う戦術です。

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 この写真は今年の大学選手権決勝、天理対早稲田戦。ハイパントを確保した河瀬諒介です。

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 2007年のラグビーワールドカップの開幕戦では、アルゼンチンが効果的にハイパント戦術を使ってフランスを破り、3位決定戦でもフランスを再び破り3位に輝き、「ティア1」と呼ばれるようになる契機となりました。

 キックパスはハイパントとは違います。ハイパントが、正面に向かって蹴るのに対し、キックパスは文字通りアタックラインの端にいる選手に対するパスのようなキックです。

キックパス

 ハイパントを蹴る場合、アタック側の選手が殺到しますが、ディフェンス側の選手も多くいます。そのためボールを再確保できるかどうかは偶然にも依存します。下の2枚の写真(2019年ラグビーワールドカップ準決勝 南アフリカ対ウェールズ戦)のようにディフェンス側に捕られることもままあります。

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 ところがキックパスの場合、アタック側とディフェンス側それぞれ1人ずつの場合が多く、キャッチできる見込みはより高くなります。

 以下の3枚の写真は2019年ラグビーワールドカップ、プール戦でのウェールズ対オーストラリアのものです。

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 現在では、キックパスはアドバンテージを取れた状況で行われることが多いですが、使われるようになった当初ではアドバンテージ以外の状況でも積極的に使われていました。

キックによる打破の試み(3):テリトリーキック

 3つ目がテリトリーキックです。シールドロック状況では、地上戦でのゲインは限定されます。トライを狙った状況でリスクをかけたプレーでゲインしてインゴールに飛び込むためには、その前に着実に前進しておくことが必要です。そのためにもキックを使ってテリトリーを稼ぐ戦術が重視されるようになりました。

 最初に行われたのは「意図的なノータッチ」です。最初によく見られたのは、意図的なノータッチキックを相手陣に蹴り込み、相手にタッチキックを蹴らせることでした。そうすれば、前進した状況でマイボールラインアウトからリスタートすることができます。

 もう少し複雑な戦術は、キックをキャッチする選手に対して複数のチェイサーが連携して走り込んでいくことです。だいたい22mラインの奥に押し込められた場合、タッチキックに逃れることが一般的です。しかしその場合、ユアボールラインアウトからのリスタートになり、あまり根本的な状況の解決にはなりません。

 そこで意図的にノータッチに蹴り、チェイサーの網を張ってキックをキャッチした選手を抑え込み、素早くシールドロックを展開することで相手の前進を止め、結果としてプレーエリアを前進させる戦術が行われるようになったのです。

(なおこの頃、日本のラグビーファンの多くはこうした戦術が生まれたことに気づいていませんでした。意図的なノータッチを蹴ったときに、ミスと勘違いした観客から罵声が飛ぶということは秩父宮ではよくありました。)

 シールドロックを突破するための戦術は他にも考案されました。次回はミスマッチとダブルラインについて説明します。

(続く)