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2リーグ制はファンを幸せにするか?(2004. 10. 5記)

 15年少し前、ちょっとスポーツ関係の文章書きたいな、と思ってウェブサイト作ってました。当時まだブログはそんな一般的ではなく、ウェブサイトを作らなければならなかったのです。ただそのサイトが2021年1月下旬にサービスを中止するそうなので、いくつか移植することにしました。

 これはちょうど2004年10月5日、球界再編騒動が一段落した後に書いたものです。昨日アップしたもの続編に当たります。

球界再編騒動の顛末

 2004年は日本プロ野球史に残る年になった。6月13日の近鉄バファローズとオリックスブルーウェーブの合併計画発表を引き金にして、1リーグ制を目指す動きが顕在化した一方で、プロ野球選手会は合併撤回を求めて徹底抗戦姿勢を取り、「プロ野球再編騒動」が勃発したのだ。
 この一連の騒動の主要な争点は、現行の12チームからなる2リーグ制を存続させるか、球団数を減らして1リーグ制に移行するかであった。つまり、バファローズとブルーウェーブに続いてパリーグのチームをもう1組合併させることでチーム数を10に減らし、パリーグ解散という形で1リーグ制に移行することをもくろむパリーグ各チームのオーナー及びジャイアンツと、現行2リーグ制の維持を主張するセリーグ一部オーナー及びプロ野球選手会との対立だったわけだ。
 さて、以前にも書いたようにわたしは2リーグ制維持派だが、最終的に2リーグ制維持派が勝利を収めたと言える現状に満足しているわけではない。むしろ根本的な問題が先送りされたように思える。
 そこでまたあらためて問いたい。2リーグ制はファンを幸せにするのだろうか?

 あれから15年。2リーグ制はファンを幸せにしたでしょうか?

セ・リーグ球団の親会社、パ・リーグ球団の親会社

 今回のプロ野球再編騒動を肯定的に評価するとすれば、いろいろなことをあらためて考え直すきっかけになったことだろう。わたしにとっては、球団経営についていろいろと考える機会になった。
   セリーグとパリーグの球団所有企業を比較してみると顕著な違いがあることに気づく。企業規模から比べるとパリーグの方が格段に大きいのである。2004年前半期の決算データから、総資産額(単独)を比較してみるとそれは一目瞭然である。親会社が株式を上場していないジャイアンツ、ドラゴンズ、マリーンズ、それに独立採算制のカープを除いた8チームの親会社のうち最大のものは(意外なことに)オリックスで約3兆5000億円、それに近鉄の約1兆6500億円、それにダイエーの約1兆4200億円、西武鉄道の約1兆1300億円が続く。セリーグのオーナー企業が顔を見せるのはその後で、TBSが約4600億円、阪神電鉄が約4100億円で、日本ハムが約3600億円、ヤクルトが約2100億円となっている。つまり、セリーグには株式上場企業で総資産が1兆円を超えている企業は1つもないのだ。 意外なことは、「ケチ球団」のイメージが強いオリックスが最大の総資産を誇っていることで、また、1位と2位のブルーウェーブとバファローズが経営難を理由に合併することの奇妙さも際だつ。

 近鉄とダイエーはもうオーナー企業じゃなくなっていることに時代を感じますね。

セ・パの「親会社格差」

 まあそれはさておき、数字を比べてみて歴然としているのはセリーグのオーナー企業の「小ささ」である。これに地方の新聞社に過ぎない中日新聞の持つドラゴンズと独立採算制のカープが加わるわけだから、ジャイアンツを除くセリーグ5球団の経営基盤が極めて脆弱であることは一目瞭然であろう。ただし、セリーグには金のなる木であるジャイアンツ戦があるため、球団経営のもたらす赤字はそれほど大きくない。だから、親会社の規模が大きくなくとも(あるいは独立採算制であっても)、なんとか球団を維持することができるのである。セリーグ5球団がジャイアンツ戦の利権にあくまでこだわる理由はこの点にある。

 直近のデータを調べると、近鉄に代わる楽天の総資産は9兆円、ダイエーに代わるソフトバンクの総資産は37兆円です。ちなみにDeNAは1900億円です。こうしてみると、2004年と比べて、親会社の体力の格差はさらに広がっていることは明らかですね。

 その一方で、パリーグはジャイアンツ戦の恩恵にあずかることがないわけで、必然的に、小さい企業では球団を維持することはできない。だから、時間とともにそうした企業(西鉄など)が淘汰されて今のように大企業主体のリーグになってきたといえる。そして、全国ネットのマスコミとの結びつきによって全国区の人気が保証されているジャイアンツ戦がないパリーグでは球団経営そのものの状態はセリーグに比べて悪く、球団は主として親会社の広告塔として位置づけられ、赤字は広告宣伝に必要な費用として考えられることになるのである。そのため、いまのように不況が長く続くと経営を続けることがむずかしくなるのである。

 結局球界再編騒動の結果、パリーグの親会社はさらに大きくなったのは面白い現象ですね。ただし問題はまだあります。

プロ野球の親会社に共通する問題

 もうひとつ、プロ野球を所有している企業は、パリーグの大企業であっても、「経済大国ニッポン」を代表している企業では実はないことを指摘しておきたい。読売グループ、西武鉄道(国土計画)、ダイエー、ヤクルト等、、、果たして外国人はこれらの企業名を知っているだろうか?いうまでもなく答えは否である。
 その一方で、外国に行っても誰もが知っている日本の(多国籍)大企業はプロ野球チームを持っていないのだ。ホンダはF1、トヨタはF1とラグビーとサッカー、日産と三菱はサッカー、NECはラグビーであり、任天堂に至ってはメジャーリーグである。
 このことは、日本のプロ野球は、日本が世界に誇る大企業にとって魅力的ではないことを示しているのであろう。それは新規参入障壁によるものかもしれないし、プロ野球界の前近代的な体質がこうした企業から忌避されているのかもしれないし、日本プロ野球が国内だけで完全に閉じてしまっているが故に多国籍企業には魅力がないのかもしれないし、あるいはそれら全てであるかもしれないが、いずれにしても彼らにとって日本プロ野球が大金を費やすに値する事業とは思われてないことだけは確かである。

 これは今でも変わってませんね。特に今の大企業はラグビーに魅力を感じているように見えます。

日本プロ野球選手の年俸は安い

 このことは想像以上に深刻な問題なのではなかろうか。なぜなら、日本プロ野球が「経済大国ニッポン」の本当の背骨によって支えられているわけではなく、本質的には二流の企業によって営まれていることを意味するからである。そしてそのことが、日本の選手の年俸がメジャーリーグに比べてアンバランスに低いことの説明でもある。今回の一連の報道の中で、オーナー寄りの一部マスコミは選手のことを、「給料だけはメジャー並みの選手」が「権利ばかりを主張する」と批判していた。
 しかしそれは事実に反する。実際には、日本のプロ野球選手の年俸はメジャーの選手に比べて圧倒的に低い。例えば今回の合併球団の中で最高給を取っている選手は5億円強をもらっている中村紀洋だが、彼の年俸はヤンキースのアーロン・ブーンの契約年俸額(約7億)に劣る額である。ブーンは2003年のアメリカンリーグチャンピオンシップ第7戦でサヨナラホームランを放ったことで記憶に残る選手だが、彼のレギュラーシーズンの成績は打率2割8分、ホームラン25本といったところである。故障さえなければ3割、40本は計算出来る中村に比べて大きく数字は落ちるわけだが、メジャーであれば、これくらいの成績でも中村よりもだいぶ大きな額の年俸を手にすることができるのだ(なお、ブーンは故障の為2004年シーズン中途で契約解除)。
 ピッチャーでも、前にも書いたように、成績的にも能力的にも松坂大輔や豊田清よりもだいぶ劣る大家友和が彼らとほぼ同額の年俸を手にしている。
 この年俸額の差はどこから来るのだろうか。きちんと数字を分析してみないと確定的な答えは出せないのだが、おそらく、日本経済の中核をなすような巨大企業がプロ野球には乗り出さず、それよりも小さい企業が球団を経営していることが大きな理由であるように思われる。日本経済が本来持っているポテンシャルよりも小さい基盤で、プロ野球は支えられているのである。

 年俸の差は今もあります。日本のプロ野球選手の給料は「安すぎる」と思います。

日本の多国籍企業が参入したいと感じる魅力を

 となると、プロ野球が今後目指すべき方向はある程度見えてくるのではないだろうか。何よりもまず目指すべきことは、多国籍企業にとっても魅力のあるコンテンツに改革していくことである(当然外資の参入規制などは撤廃すべきであろう)。そのために必要なことは何か。もちろん国際化である。国際化なしに、国際的な企業がプロ野球に魅力を感じることはあり得ない。
 ここで言う国際化とは単に国際大会を開催することではない。むしろ、日本プロ野球を頂点としたアジア野球のヒエラルヒーをつくりあげ、アジアの野球ファンが日本プロ野球に強い関心を持ち、テレビ放送やグッズ販売へと飛びつくような状況を作り出すことである(なんのことはない、NBAやレアルマドリードの世界戦略と同様ですな)。
 たとえば、台湾、韓国での公式戦開催は真剣に進められるべきだし、何よりも巨大な潜在力を持つ中国市場をターゲットとした国際化戦略を大々的に進めなければならない。特に2008年オリンピックを契機に中国国内に野球を普及させる為の協力は惜しむべきではないだろう。有望な選手を日本に入団させたり、日本のチームの遠征や公式戦開催などを行い、中国のスポーツファンの日本プロ野球への関心を高めることができれば、日本プロ野球は中国進出をもくろむ企業にとって素晴らしいコンテンツになり得るのだ。そうなれば、オーナー企業もより大規模な企業に代わりうるし、広告収入、テレビ放映権収入も今よりも上がるだろう。

 この時はまだワールド・ベースボール・クラシック(WBC)もなかった時代です。とはいえ、やはりWBCはメジャーな国際スポーツイベントとは言いがたいのが現実ですね。

 ただし、日本プロ野球は残念ながら世界の頂点ではない。経営企業がより優良企業になり、年俸が上がっていったとしても、優秀な選手がメジャーリーグに流出していくのを止めることは出来ないだろう。日本プロ野球のレベルは非常に高いが、メジャーのトップの一部の選手のレベルはそれを凌ぐ。日本のトップアスリートたちが、彼らに挑戦しようとすることを押しとどめることはもはやできないし、すべきことでもないだろう。
 となると、なすべきことは、彼らが抜けることを前提としてなおかつ魅力的なコンテンツを、日本とアジアの野球ファンに対して提供することでなければならない。以上の観点からいうと、1リーグ制は最悪にしても、現行2リーグ制をそのまま存続することも必ずしも最適解ではないのである。

普通に2リーグ制を維持するだけで良かったのか?

 ここから、「2リーグ制」についても考えてみました。

 プロ野球再編騒動において、2リーグ制維持の立場に立ったのはセリーグ5球団のオーナーとプロ野球選手会だった。選手会は、縮小均衡に向かうことがプロ野球の将来にプラスになるとは思えないとの見識に立った反対だったが、セリーグ5球団のオーナーたちはそうではない。
 彼らは、1リーグ制になること(あるいはジャイアンツがパリーグに移籍すること)でジャイアンツ戦の試合数が減り、収入減になることを恐れて反対していたのである。パリーグの各オーナーがジャイアンツ戦を求めて1リーグ制を望んでいたことを思うと、プロ野球再編騒動の一面はジャイアンツ戦をめぐる利権闘争だったといってもいいわけだ。前述したように、セリーグ各球団の経営基盤の脆弱さを考えれば、彼らがジャイアンツ戦の利権維持に汲々とするのは理解出来ない話ではない。
 しかし、彼らのジャイアンツ依存の構造が解消されることがなかったのが、今回の決着を今ひとつ手放しで喜べない最大の理由である。これから日本プロ野球が目指すべきことを考えると、そうしたセリーグの既存のオーナー企業には早々に退場してもらいたいと思うのだ(例えばドラゴンズなんかは中日新聞ではなくてトヨタが持つ方がいいだろう)。

 ここで言う「ジャイアンツ戦を巡る利権闘争」という側面は、交流戦の導入により解決しました。そしてそこで明らかになってきたのが、セパ両リーグの実力の格差だったわけです。

 その背景はいろいろ理由があると思いますが、親会社の体力の格差も大きな要因ではないかと思います。上で書いた、ドラゴンズはトヨタが持つべきだ、という考えは今も変わっていません。というか、トヨタが「持ちたい!」と思えるようなコンテンツにプロ野球が変わっていかなければならない、と思うのです。 

もし新規参入チームを、単に12球団2リーグ制を維持するための当て馬としてのみ扱い、わずかな交流試合の導入だけで目先の問題を片付け、ジャイアンツ依存構造や放映権の問題に手を付けようとしないのならば、またいずれ同じ問題が起こる可能性はある。経営上の問題は全く解決されていないからである。その意味でいうと、現状を維持することがファンを幸せにするとは必ずしも言い難い。
 ではどうしたらいいのか。放映権問題に手を付けるのは「非現実的」という意見がスポーツジャーナリズムにあることを承知の上でいうが、まず解決すべきは放映権の問題であろう。特に、パリーグ各球団のスタジアムはやや郊外にある。その分美しく、快適なスタジアムなのだが、仕事を終えてから試合を見に行くのはむずかしいロケーションにあるのだ。そのため、パリーグのチームは観客動員を増やすことが困難なのだ。
 やはりこの分はテレビ放映権料で補填されねばならないわけだが、テレビ局が経営に関係しているチームはセリーグに偏っているがゆえに、パリーグのテレビメディアにおける露出は相対的に少なくなる。こうした構造的な不公正さを是正し、プロ野球全体の繁栄をもたらすために、放映権のコミッショナー管理への移管は早急になされなければならない。その上でドラフトの完全ウェーバー制とネーミングライツを組み合わせれば各チームの経営状態は劇的に改善するのである。

 観客動員については見通しは外れましたね。地方に活路を求めたパリーグ各球団の観客動員は上がりましたから。 

 そしてその上で、コンテンツとしての魅力を高める努力が必要である。そのひとつの方法は、ポストシーズンゲームを増やすことである。とはいえ、日本シリーズの試合数を増やすのは無意味だから、その前にアメリカ同様にリーグチャンピオンシップを行いたい。
 いまのパリーグプレーオフの様子を見ても、リーグチャンピオンシップが盛り上がるのは間違いないだろう。東西両地区でシーズン1位を決めて、地区優勝チーム同士で7試合シリーズを行うのである。
 そこでそのために、球団数を拡大すべきだと思う。やはり3チームから地区1位を決めるのは少なすぎる。最低でも4チームは欲しい。だから望ましきは2リーグ16チーム制である。ただ、一気に16チームにするのはむずかしいだろうからまずパリーグを8チームに拡大するのはどうだろうか。

 今でも、リーグエクスパンションは考えるべきだと思います。下の段落は今読み返すと赤面ものですが(笑)。

 いま選手会との合意に基づいて新規参入チームの審査が進められているようだが、どうもそれは消滅チーム分を補う1チームだけというのが暗黙の前提となっているようだ。取りあえず2005年シーズンは、楽天かライブドアの片方にするにしても、もう1年準備期間をおいて2006年からはもう片方の参入を認め、さらにシダックスに参入を要請して一気にパリーグを8チームにできないものだろうか。そうすれば、リーグチャンピオンシップをそれほど無理なく行うことができるだろう。もちろん選手不足は起こるだろうが、社会人野球からの人材吸い上げを進め、またアジア諸国の選手(あるいはメジャーリーグの未経験者ないし新人王資格保持者)については外国人枠の対象外にするなどの措置をとって不足分を補うことにすれば、チームの国際化にも寄与することになる。
 続いて、戦力均等化が必要である。よりエキサイティングなゲームを提供するには、各チームの戦力を均等にしておく必要があるが、いまのドラフトは戦力均等化をするようには出来ていない。裏金問題を解決するためにも、ドラフトは完全ウェーバー制にするべきである。いまのドラフト逆指名制はジャイアンツの強い意向によって導入されたものだが、カネと人気にものを言わせて選手を集めることが視聴率や成績に結びつかないことを、ジャイアンツもそろそろ認識する頃であろう。彼らさえ認識を変えれば、ドラフト改革を進めるのはむずかしいことではないのである。

 次の段落に変えたリーグのシャッフルというのは今からでもやっていいと思います。

 さらに、国内リーグの活性化のために、リーグのシャッフルなども考えるべきである。単に組み替えるのではなく、例えば2年ないし3年に一度、2年間ないし3年間の通算成績の1、3、5位を入れ替えるようなリーグシャッフリングを行ってみてはどうだろうか。ファンとしても刺激的だし、セリーグ5球団のジャイアンツ依存体質を改革する方法はこれしかないだろう。
 それで経営がやっていけないような企業は、より大きな企業に球団を売却すべきだとおもう。もちろん指名打者制をどうするのかという問題はあるが、もし日本プロ野球が今後もオリンピックへの参加を重視していくのであれば、両リーグとも指名打者制を採用すべきである。オリンピックでは指名打者制が採用されているのだから。あと、危険球やサイン盗みへの対応など、両リーグで規定が異なる問題はあるが、これらを統一するのはむずかしいことではない。

さらば近鉄バファローズ

最後のまとめです。

 今回の選手会とNPBの合意は完璧ではなく、単に現状維持を正当化するだけにもなりかねない危険性をはらんでいる。しかし、これが日本プロ野球の改革を促す呼び水になり得るのもまた事実である。わたしはそこに将来の可能性を見いだしたい。実際、放映権に手を付けるのはむずかしいかもしれないが、少なくともドラフト改革は検討されることになっているし、新規参入を申し出ている企業はあるわけだ。その中で、コンテンツの充実を図り、アジア戦略を着実に進めていけば、プロ野球は新たな姿に脱皮出来ると信じる。今回の一連の騒動で図らずも露呈した前近代的な体質を捨て去り、国際化を進めていけば、より活力のある企業が経営に参入して、プロ野球はいまよりもずっといいものになり、ファンはいまよりも幸せになるだろう。 バファローズは好きなチームだったから、それがなくなるのは悲しい。本当に悲しい。しかし、それが本当の意味での球界改革へと結びつくならば、それを持って消えゆくチームへの手向けとしたい。だがその道筋は遠く、ゴールはまだ見えない。