とにもかくにも結果がすべて:五輪サッカー 日本対ニュージーランド戦(7月31日)
7月31日のサッカー、日本対ニュージーランド戦。
ちなみに自分にとってフットボールのニュージーランドはこっち。
この日はオールブラックスではなくオールホワイツが相手だった。
ニュージーランドのサッカーにはちょっとした思い出がある。
2010年のサッカーワールドカップ南アフリカ大会にニュージーランドは出場しているのだが、最後、バーレーン代表との大陸間プレーオフに勝利しての出場だった。その大陸間プレーオフの日、たまたま仕事で試合会場のあるウェリントンに滞在していた。さすがに仕事があったから観戦には行けなかったが。1-0でニュージーランドが勝利してからの街中の熱狂はよく覚えている。
そして本大会でも、ニュージーランドはイタリアと引き分けてイタリアの決勝トーナメント進出の可能性を断ったのだが、そのときたまたまパリで仕事をしていて、フランス側が「イタリアが引き分けてノックダウンステージに行けなかった」と会議中に教えてくれた。彼らは大喜びで、こっちは純粋な驚きで声を上げたのも思い出だ。
さて試合。結果は延長戦までいって0-0。それからペナルティ・シュート・アウト(PK戦)になって4-2で日本が勝ち抜けを決めた。試合は全体として日本が支配していたが、いくつかあった決定機を決めきれず、厳しい試合になってしまった。
シンプルに割り切ったニュージーランド
ニュージーランドは3バック(5バック)。細かいビルドアップには必ずしもこだわらず、ボールが行き詰まったら前線にロングボールを蹴り込む。中盤には5人いるのでどこかで回収しようという割り切った攻め方。
ただ後半に負傷もあって4バックになってからは、ボランチ(アンカー)へのパスコースを日本の前線の選手たちが切りきれず、あるいは焦れて過早にチェックに行ってしまい、中盤から崩されるケースもしばしば見られた。
ディフェンスも、ボールを奪ってからも無理につなごうとせず、ためらわずにタッチに出してしまう割り切った守り方。日本に裏を突かれた場合にはイエローカード覚悟でプロフェッショナルファウルで止める。攻守両面でシンプルにやることを絞り込んだ戦いだった。
日本は終盤になって上田綺世、三笘薫を投入し、特に延長戦では三笘にロングボールを入れる策に出たが、堂安・久保とのコンビネーションが今ひとつ合いきらず、ミドルシュートこそ打つものの、決定的に崩すまでに至らず、得点はできなかった。
特に後半にボール奪取が激減した日本
この試合をいつものように見てみることにする。まずはボール奪取マップ、日本側。延長戦はカウントしていない。
合計は39、うち敵陣15(38%)、シュートにつながったもの5(13%)。五輪になってからのボール奪取数として最も少ない。3月のU-24アルゼンチン代表との試合が第1戦35、第2戦40だからそのときの数字に近い。しかし敵陣での奪取率38%はメキシコ戦とほぼ同じ数字(39%。フランス戦は25%)。シュートにつながったのは13%。14%を誇る川崎フロンターレに匹敵し、これまでの試合の中で際立って高い(メキシコ戦7%、フランス戦8%)のが目立つ。
なお、ボール奪取について指摘すべきは後半のボール奪取の少なさ。まず前半を見てみよう。前半の合計は24。全体の62%だ。もしこのペースで奪取できていたら90分で48個になり、フランス戦と同じ数(メキシコ戦は46)になる。
しかし後半にペースがガタッと落ちる。合計で15個、38%。
特に敵陣でのボール奪取数がわずか4個。やはり後半になって4バックになったニュージーランドに対するボール奪取に苦しんだことが数字からよくわかる。
こうした展開の中でディフェンスを支えたのが当たり前だが最終ライン。最終ラインだけを見てみよう。
特に右サイドでの橋岡のボール奪取が目立つ。充分異常に酒井宏樹の代役をこなしたと言えるだろう。
ちなみに田中と遠藤。自陣ミドルサードでも効いていたが、敵陣で多くボール奪取に成功していたことがわかる。
最多は田中碧。そして橋岡も健闘。
次に個人別で見てみよう。
田中:8
橋岡:6
吉田:6
冨安:5(シュートにつながったもの2)
久保:4(シュートにつながったもの1)
遠藤:4
堂安:3(シュートにつながったもの1)
相馬:1
旗手:1
一番多かったのは田中碧。ただフロンターレの時と異なり、田中碧のボール奪取がシュートにつながっていない。田中に次ぐのが橋岡と吉田。繰り返しになるが橋岡はよくやったと思う。意外なのは遠藤と同じ4個のボール奪取を久保が成功させていること。デュエルによるボールロストはこの試合でもいくつか見られたが、守備にも献身していたことがわかる。
日本を上回るボール奪取:ニュージーランド
次にニュージーランドを見てみよう。
ボール奪取の合計は49。うち敵陣(31%)、シュート2(4%)。ボール奪取数は日本より多い。これはロングボールのセカンドボールを拾えていたことを反映している。シュートにつながった数が少ないのは、つなぐよりもシンプルに蹴ることを優先していたゲームプランによるもの。
なお、日本側とのデュエルによるボール奪取をまとめると以下の通り。
久保:2
林:2
遠藤:2
堂安:1
田中:1
橋岡:1
中山:1
久保、林、堂安の前線3人でボールロスト5回。前線の選手は仕掛けなければ状況を打開できないので仕方ない。それだけNZの最終ラインが堅かったと言うことだろう。遠藤と田中が3回ボールを失っていることからは、中盤でのボール奪取の攻防の激しさがうかがえる。
三笘薫のプレー分析
そしてこの試合、延長戦で三笘薫が投入された。三笘をずっとウォッチしている私としては、これは細かく見ておきたい。と言うことで延長戦の三笘マップ。
敵陣でのボールタッチは合計で13。90分換算で39。今年の前半戦の平均値が44.4だから、やや少ないもののそれほど大きな差はない。
プレー選択は
ドリブル:4(31%)
パス:8(62%)
シュート:0
ロスト:1
シーズンでのドリブル、パス、シュートの比率は、36.4:59.4:4.2なので、プレー選択の比率も通常通り。
そしてパスの出元は
中山:5
敵ボール:4
堂安:1
吉田:1
三好:1
CK:1
まず、敵ボールを4つ取っているというのは、フロンターレでの普通のプレーより多い。左サイドバックの中山からのパスが多いというのは、フロンターレでのプレーと同じ。特に94分や98分はいい距離感でのパス交換があり、2人のコンビネーションが上手く構築できていることがわかる。特に94分は堂安のロングパスを三笘が収め、中山とのパス交換でマークをずらし、上田への決定的なスルーパスを放った。このあたりのコンビネーションは非常に良かった。
ただしこの日の三笘は決定的な仕事ができなかった。その理由はいくつかある。
まず1つは、逆サイドからのロングボールで三笘にボールを収めようとしたことだ。自陣深くに戻った堂安がロングボールで三笘を狙ったことが3回あった。
こういった攻撃はフロンターレでは見られない。フロンターレでサイドチェンジをするときは、右サイドで押し込んでから家長なり田中が高い位置でいわゆるアイソレートしているポジションに立っている三笘にサイドチェンジをする。
ただしこの試合では、自陣に押し込められている状態からロングボールが来たから、三笘は反対サイドに立ってはいても相手のセンターバックがマークに付いている。そこでロングボールが送られてもなかなかいい状態でトラップはできない。結果、堂安からのロングパスは1回しか通らなかった。上述の通りそのときに(94分)決定的なチャンスを作り出しているからそれでいいと言う考え方もあるとは思うが。
2つめは、久保とのコンビネーションが未成熟なことだ。先のパスの出所を見ればわかるように、久保からのパスはない。一方で久保へのパスは何本かある、つまり、久保はパスをもらったら戻さずに自分で仕掛けていたと言うことだ。
98分は久保が仕掛けてボールを失い、104分は久保が縦に仕掛けてやや遠い位置からあまり決定的ではないクロスを上げている。他の時間にも、久保が前に入ってしまって三笘がドリブルするスペースを消してしまうことがあった。そうなると三笘はややポジションを下げるし、ゴール前に人は足りないからクロスを上げても跳ね返されてしまう。
左サイドの崩しは中山と三笘に任せて、久保と堂安はニアサイドとゴール前でシュートをうかがうという形の方が点になる可能性は高いと思う。このあたりのコンビネーションのツメは必須だ。
3つ目は、三笘自身の判断力が安全サイドに振れていたことだ。特に104分のコーナーキックだが、コーナーキックを蹴った久保からペナルティエリアの角で三笘がボールを受けたとき、正面にいたディフェンダーは1人。三笘の右側にはスペースがある状態だった。
そこでの三笘の選択は久保へのリターンパス。これはこれで決め事なのかもしれないが、ディフェンスの状況を見れば、強引にカットインしてシュートなりペナルティエリアでのショートパスの方が得点の確率は高かったと思う。カウンターを受けやすい状況でもなかったから、この点での慎重な判断は惜しまれる。
いろいろ課題は残ったが、とにもかくにも突破。次はこれまでで最強の相手、スペイン。ホームの拍手で後押ししたかったとは今でも強く思うが、もはや仕方ない。今回は金メダル獲得の千載一遇のチャンス。心に残る戦いを見せて欲しい。