見出し画像

強いものが勝つのではなく、勝ったものが強い:ラグビー日本選手権決勝 プレビュー

 今日はラグビー日本選手権の決勝。対戦するのはサントリーサンゴリアスとパナソニックワイルドナイツ。日本のラグビーチームの中で、有力チームを挙げると必ず入るこの2チーム。各国の代表選手も数多く抱えている。oつまり当たるべきチームが決勝で当たったと言うこと。トーナメントでは組み合わせの関係や番狂わせでこうならないことが意外とあるものだが、ファンが「見たい」と思う組み合わせが最高の舞台で実現した。

 今日は試合後に予定があって速報レビューを多分書けないこともあり、これまでの試合を振り返る形でプレビューを書いてみた。

 サントリーはリーグ戦7戦全勝。勝ち点34、得失点差+291。パナソニックはリーグ戦6勝1分け。勝ち点31、得失点差+242。Jリーグで言えば「フロンターレ並み」の成績を残した2チーム同士の対戦みたいなものだ。

 自分はどちらのファンクラブにも入っていて、今年観戦したのはサントリーが3試合(雷雨途中中止となった東芝戦除く)、パナソニックが同じく3試合。  

 どちらも、質の高いキックと、粘り強いブレイクダウン、決定力のあるバックスを備えている。極端に何らかの戦術に傾斜していると言うこともなく、試合の流れの中で最適な選択を組み合わせて得点を積み上げていく能力に長けている。

見どころ1:キック

 当たり前のことだが、決勝戦は一回勝負のトーナメント。これまでの得失点差とかは全く関係ない。つまり、80分を終わって1点でも上回っていれば優勝だ。

 そうなると、できるだけ長く敵陣でプレーし、ペナルティゴールでもドロップゴールでも何でもいいから点数を積み上げていくことが重要。

 となると、やはり重要なのはキックになる。この両チーム、キックによる前進能力が高い。お互いにできるだけキックでテリトリーを稼ごうとするのが常道だろう。

 しかし、パナソニックは相手のキックをキャッチしてからのカウンターの能力が異常に高い。毎試合その形から2つはトライを取っている。健闘したキヤノンに引導を渡したのもその形だった。

 そのリスクを考えると、サントリーはキックを避ける可能性もある。あるいは、チェイサーとの連携をこれまで以上に緊密にしてカウンターのリスク管理の万全を期すか。

 今日の見所のまずひとつはここ、つまり「サントリーはキックを使うか」だろう。

見どころ2:ブレイクダウン

 2つめの見どころはブレイクダウン。これまでの試合のボールロストマップを見れば明らかだが、両チームとも、相手チームの中盤のブレイクダウンに激しく絡み、多くのノット・リリース・ザ・ボールを勝ち取っている。逆に言えば、中盤における相手の「ビルドアップ」を阻止することで、試合展開全体を優位に運んできたと言うことだ。

 ただこの試合、絡みすぎて自陣でハンドやオーバー・ザ・トップ、あるいはノット・ロール・アウェイを取られた場合、それが自陣であると即ペナルティゴールによる3失点につながる。

 レフェリングの基準を見ながら、上手く絡むことができた方が優位に立つことになる。

 この点についてもうひとつ、パナソニックのディシプリンの高さに触れておきたい。

 特にヤマハ戦だが、22mラインを越えて攻め込んだあとのラックで、無理にボール保持にこだわらずターンオーバーを許したことが数多くあった。ただこれは単にボールを失ったわけではない。自陣深くでターンオーバーした場合、基本的な選択はキックだ。

 ただ、タッチとなればパナソニックボールのラインアウトで再開、ノータッチであればパナソニックが得意な相手キックのあとのアンストラクチャーな状況になる。つまり、ディシプリンを維持しながらプレーできれば、ブレイクダウンとキックとを連関させられると言うことだ。この「両チームのディシプリン」が2つめの見どころ。

見どころ3:アンストラクチャーの攻防

 3つめは、アンストラクチャーの攻防。何度も触れたように、パナソニックはキックのあとのアンストラクチャーな状況をトライにつなげるのが上手い。サントリーも、アンストラクチャーな状況でこそボーデン・バレットの鋭敏なスペース感覚が効いてくる。

 キックはもちろんだが、ペナルティゴールによる失点を防ぐために、ブレイクダウンでノット・リリース・ザ・ボールを避けるようなことになれば、ラックでのターンオーバーも頻発する。つまり、キックに加え、ブレイクダウンでもトランジションが多く起こるかもしれない。

 そうなると、トランジションの瞬間のアンストラクチャーな状況をどちらが生かせるか?が勝負になる。ヨーロッパサッカーのような、トランジションの瞬間こそ息が抜けない、と言う試合になるかもしれない。と言うかそういう試合が見てみたい。

見どころ4:「スペシャルプレー」が出るか!

 もうひとつ、「スペシャルプレー」にも注目したい。

 決勝と言うこともあり、普通であれば手堅くPGで3点ずつを刻んでいく試合になっていく可能性が高い。

 けれど、数少ないであろう敵陣22mラインを越えたセットプレーの機会にトライを奪うために、今年これまで見せていないスペシャルプレーが見られるかもしれない。

 例えばパナソニックはキャノン戦の冒頭に12番ハドレー・パークスから13番ディラン・ライリーへのショートパントと言う形でそれを見せている。

 そのような、「あっと言わせる」スペシャルプレーを使う展開になるかどうか、そしてそれを成功させることができるどうか。どちらだっても、それを成功させることができれば、試合を有利に運ぶことができるだろう。

「勝った方が強い」

 ラグビーワールドカップでは、決勝よりも準決勝の方が面白いことが多い。それは、決勝は手堅いゲーム運びを選ぶことが多いからだ。けれどもちろん、いきなり奇襲的な仕掛けをしてくる可能性だってない訳ではない。

 ここでは見どころを4つ挙げたが、試合が終わってみるとまた違うところが重要なポイントになるかもしれない。もしかしたら楕円球のバウンドが勝負を分けることだってある。

 けれど1つだけ言えることがある。強い方が勝つのではない。勝った方が強いのだと。この2チームの戦いは、そう表現することこそがふさわしい。