ボールロストマップで振り返る2020/21大学ラグビー<2>:早稲田大学
昨日から始めた「ボールロストマップで振り返る20/21大学ラグビー」、今日は早稲田大学。
昨シーズン、大学日本一となり、連覇を目指して迎えた今シーズンの早稲田。青山学院戦での思わぬ苦戦に始まり、帝京戦での予想外の大差での勝利と早慶戦でも慶応を突き放しての勝利で、対抗戦優勝が目に見えたところで明治に完敗。大学選手権では慶応と帝京との再戦を制したものの、天理に大敗して終わりました。
全体的に見れば、相手を上手くスカウティングして適切な戦いを展開してきたシーズンでした。移動攻撃からのダブルライン、あるいはその逆を突いて3対3とか2対2でバックスに勝負させるなど、見ていて楽しいと思わせるラグビーをしてくれるチームでした。
ただ、シーズンを通してラインアウトに苦しみ、また敗れた明治戦と天理戦は、スカウティングが上手くいっていなかったことをうかがわせる試合でもありました。
ベストゲームは大学選手権帝京戦
ベストゲームは大学選手権の帝京戦でしょうか。
スコアは33-27。点差はわずか6点。攻め込んだ回数を見ても互角の試合展開ですが、常に先手を取って優位に試合を運びました。
(略語の説明= DT:ダイレクトタッチ、DO:ドロップアウト、EE:アーリーエンゲージ、HP:ハイパントでのボールロスト、KO:ノックオン、MUP:モールアンプレイアブル、NR:ノット・リリース・ザ・ボール、NS:ノットストレート、OS:オフサイド、OT:オーバー・ザ・トップ、SP:ショートパントでのボールロスト、TF:スローフォワード、TO:ラックでのターンオーバー)
ボールロストはわずか11。
ダイレクトタッチとドロップアウトを除けば8まで減り、早明戦での明治の数字とほぼ同じということになります。
また、敵陣10mラインより自陣側でのボールロストはわずか3回で、自陣でボールを失ってピンチを招くことがほとんどなかったことがわかります。この数字からも、最終的にスコアは競ったものの、全般的に見て早稲田が思い通りにゲームを進めることができたことがうかがえます。
準々決勝の慶応戦は?
次に、その1試合前の準々決勝の慶応戦を見てみましょう。
(略語の説明= DT:ダイレクトタッチ、DO:ドロップアウト、EE:アーリーエンゲージ、HP:ハイパントでのボールロスト、KO:ノックオン、MUP:モールアンプレイアブル、NR:ノット・リリース・ザ・ボール、NS:ノットストレート、OS:オフサイド、OT:オーバー・ザ・トップ、SP:ショートパントでのボールロスト、TF:スローフォワード、TO:ラックでのターンオーバー)
ボールロストは合計15、ダイレクトタッチを除けば13とやはりここでも少なめの数字が出ています。この試合では、敵陣10mラインより自陣側で8回ボールを失っており、中盤からの前進が思い通りにいかなかった一方、敵陣22mラインより攻め込んだ状況でのボールロストはわずか1回で、得点機会を決めきったことがわかります。
対抗戦での帝京戦、慶応戦は?
このそれぞれを、対抗戦での対戦と比較してみましょう。
まず帝京戦。最終スコアは45-29。
(略語の説明= DT:ダイレクトタッチ、DO:ドロップアウト、EE:アーリーエンゲージ、HP:ハイパントでのボールロスト、KO:ノックオン、LO: ラインアウト、MUP:モールアンプレイアブル、NR:ノット・リリース・ザ・ボール、NS:ノットストレート、OS:オフサイド、OT:オーバー・ザ・トップ、SP:ショートパントでのボールロスト、TF:スローフォワード、TO:ラックでのターンオーバー)
合計で17回と、大学選手権よりかなり多いボールロストです。
しかも、スクラムの反則を含め、10mラインより内側でのボールロスト8回、自陣22mライン内でのボールロストが4回という、危険な地域での多くのボールロストが目を引きます。
結果的に点数は開いたものの、ボールロストの数が多く、負けてもおかしくなかった試合のように思えます。ただし、この試合は帝京のボールロストも18回に達しているので、早稲田のボールロストは実は帝京より少なく、その差が勝敗につながったと言うことはできるかもしれません。
次に11月の早慶戦。
(略語の説明= DT:ダイレクトタッチ、DO:ドロップアウト、EE:アーリーエンゲージ、FC:フェアキャッチ、HP:ハイパントでのボールロスト、KO:ノックオン、LO: ラインアウト、MUP:モールアンプレイアブル、NR:ノット・リリース・ザ・ボール、NS:ノットストレート、OS:オフサイド、OT:オーバー・ザ・トップ、SP:ショートパントでのボールロスト、TF:スローフォワード、TO:ラックでのターンオーバー)
この試合でのボールロストは14回で、大学選手権での再戦とほぼ同じです。この試合で目を引くのは、敵陣22mラインより攻め込んだ状況での4回のノット・リリース・ザ・ボールです。慶応の激しいタックルとラックでのファイトにより、早稲田が攻めきれず、その分接戦になったことがわかります。
敗れた試合では?
負けた試合も見てみましょう。
天理との決勝戦はマッチレビューの方で書いたのでリンクにとどめます。合計だけ記しておくとボールロスト19回です。
対抗戦の早明戦はどうでしょうか。
ボールロストは合計18で、やはり多いです。この試合の明治はわずか10回ですから、差が際立ちます。しかも敵陣22mラインより攻め込んだ状況(1回はドロップアウトですが)で7回のボールロスト。天理との決勝戦と異なり、攻撃回数自体が少なかったわけではないので、惜しまれるところです。
なお、他の試合だと、敵陣10mラインよりも自陣側でのボールロストが多い場合でも敵陣22mより攻め込んだところではボールロストが少ない(天理戦、大学選手権準々決勝慶応戦)か、あるいは逆に攻め込んだところでのボールロストが多い場合では自陣側でのボールロストが相対的に少ない(対抗戦での早慶戦)のですが、早明戦ではどのエリアでもボールロストしているのが1つの特徴です。それだけ明治のディフェンスがフィールド全体で激しかったことを物語っています。
まとめ:次第に精度を高めていった早稲田
こうしてみると、早稲田は対抗戦から大学選手権に進んでいくにつれてボールロストが全般的に少なくなり、プレーの精度が高くなってきたこと、また敵陣22mラインを越えたところでの決定力に磨きをかけてきたことがうかがえます。そうであるだけに、決勝戦の中盤で多発したボールロストが悔やまれるところでしょう。
大学ラグビーの厳しいところはここからまたチームを作り直すこと。しかも早稲田は監督が代わってしまいます。継続性をどのように担保していくのか。それが問われる1年になりそうです。