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中国の反日運動と日本のリスク管理再構築: 経済安全保障の観点から

 中国国内で反日感情がますます強まる中、日本企業や個人がその犠牲となるケースが相次いでいる。反日デモ、襲撃事件、不買運動、さらには日本人学校の子どもたちに対する暴力行為まで発展する反日感情は、単なる国際問題にとどまらず、日常生活に深刻な影響を及ぼしている。

(タイトル写真:2012年在中国日本大使館前で行った反日デモ。写真クレジット:東方 - http://www.voachinese.com/content/yongersters-in-anti-japan-protests-in-918-20120918/1510210.html, 公有領域, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=21796521)


背景

 中国が日本を「仮想敵」として位置付けることによって、日本の企業と個人に加え、日本に友好的な中国人までもが被害に遭う事例が近年増加している。2010年と2012年の反日デモをはじめとし、国民や企業に対する被害は少なくない。こうした事象は、単なる外交問題ではなく、日常生活や経済活動に深刻な影響を与えている。

 習近平体制下で中国国内の統制が強化されるにつれ、民間における反日感情がさらに強まっている。例えば、中国国内のアニメイベントでは、着物姿のコスプレイヤーが襲撃されたり、警備員に侮辱され、会場から追い出された事例もあった。さらに、商店街の催しで着物に着用することで、「尋衅滋事罪(騒動挑発罪)」で逮捕されたケースもあった。また、街中に設置された日本風の広告や展示物も、炎上と不買運動の対象となり、取り下げを余儀なくされることが多々ある。

 2023年には、福島第一原発の処理水放出を口実に、中国は科学的根拠に基づかずに日本産の水産物を輸入禁止にする措置を取った。皮肉なことに、同じ太平洋側の漁場を使用しているにもかかわらず、日本漁船の魚は輸入禁止にされる一方で、中国漁船の魚は問題なく販売されている。

 さらに深刻なのは、反日運動が単なるデモに留まらず、偽情報を容認する中国政府の下で、命にかかわる襲撃事件に発展している点である。中国にある日本人学校は、中国のインターネット上で「日本人スパイを育成する機関」としてで非難された。そして、愛国教育や反日感情の蓄積の結果、2024年には、年内に二度も日本人学校の生徒が襲撃され、学校関係者一人と生徒一人が命を落とす事件が発生した。

 反日運動は中国国内に留まらず、一部の在留中国人を利用して日本国内でも広がりを見せている。ある中国人インフルエンサーは、店主がコロナの危惧による入店制限は「中国人客を受け入れないのはレイシストだ」と日本の商店に営業妨害を行い、その様子をSNSで拡散して「いいね」を稼いでいた。また、2024年だけで靖国神社での器物損壊事件が二度発生しており、さらにNHKのラジオ番組では、反日的な内容に報道原稿が改ざんされる事件もあった。

 こうした行為を行った中国人は、中国に帰国すると、批判されるどころか、インターネット上で「国家の英雄」として賞賛されることが多い。一方で、日本に在住している多くの中国人は、これらの行為を賛同しないものの、中国によるネット規制と国境を越えた抑圧(Transnational Repression)により、言論の自由が保障されるはずの日本にいながら、公に反論することはできなかった。

反日感情の背景と日本への影響

 中国の反日感情は、1930年代から40年代の日本の侵略や植民地支配に端を発しているが、それが現在も中国共産党のプロパガンダとして利用され続けている。特に、国内の経済問題や社会的不安を外部に向ける手段として、政府は反日感情を助長している。中国のアニメイベントでの反日的な行動や、日本における中国人による反日運動の拡大は、その一例に過ぎない。こうした反日感情が蔓延している限り、日本が独自にこれを阻止するのは難しく、根本的な解決には至らないであろう。

 中国政府が経済復興のために日本からの支援を利用する一方で、社会統制のために反日感情を煽り続けるという矛盾が存在している。政府が反日運動を容認する限り、日本国内で中国研究者が増加しても、この流れを日本から阻止することは難しいだろう。

 さらに、中国人民解放軍による日本領海や領空への侵犯が続いており、もはや「知中」路線だけでは日本の対中外交が機能しなくなっていることが明らかである。

経済安保戦略としての「ディリスク」の必要性

 中国が香港を通じて、制裁対象国への軍民物資輸出や、輸入禁止されたハイテク技術の流入を行っている事実が発覚している。このため、日本企業が香港を基盤とした海外進出戦略も再考する必要がある。このような状況を鑑み、日本は経済安全保障戦略の一環として、「ディリスク(リスク低減)」を進めるべきである。

 日本政府は、有事の際に備えて、日本企業と邦人の中国・香港からの撤退戦略を速やかに構築し、企業の中国依存度を減少させるため、国内投資の誘致と補助金制度の強化を積極的に検討する必要がある。具体的に、日本企業の中国依存度を段階的に減少させるためのロードマップを、産業団体と有識者と協議した上で作成、法人税引下げなどを視野に入れる国内投資誘致のための税制優遇措置、生産拠点の国内会費を促進するための補助金制度の強化と、ASEAN諸国との経済連携強化による代替サプライチェーンの構築支援などが可能である。

 加えて、中国や香港、台湾の情勢を国民が理解できるよう、省庁横断的に中国・台湾・香港・ウイグル・チベット・南モンゴルを含む状況を報告する定期レポートを発行する必要がある。また、国会においても、中華圏政策に関する特別委員会を設立し、レポートを基に定期的に公聴会や議論とを行い、企業と邦人に対して中華圏進出に関するリスクを開示するべきである。

外交体制の強化とリスク管理の再構築

 さらに、国際社会と連携しつつ、日本政府は邦人と企業に対する注意喚起制度を見直し、外務省をはじめとする関連機関が一体となって対外的なアドバイスを行う体制を強化するべきである。

 アメリカや欧州諸国も、同様に中国との経済関係を見直すディリスク戦略を進めている。日本は、これらの国々と協調しながら、経済安保戦略を進めることで、グローバルな民主主義陣営との結束を強化し、中国の影響力に対抗することが求められる。

結論

 中国の反日感情と軍事的挑発が続く中、日本は経済的・外交的な独立性を維持しつつ、国際社会と連携して戦略的に対応していく必要がある。長期的な視点でのリスク管理と即時の対応策が求められる現在、政府・企業・国民が一丸となって対応することが重要である。中国の反日運動の背景には歴史的要因が存在するが、それが現代の経済や安全保障にも深刻な影響を及ぼしている。今後、日本が国際社会におけるアジア地域でのリーダーシップを発揮し、持続可能な対中政策を構築することが求められる。

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