kokobanashi 2話目「ついてくる」
嘘か誠かわからぬ怪談小話2話目。
ある時は作り話、ある時は本当の話。
拙い文ではありますが、どうぞお付き合いくださいませ。
【ついてくる】
季節は秋、丁度世間の某ウイルスパンデミックが少しだけ落ち着いて自粛期間がほんのり和らいだある日、私は当時、仲の良かった友人の家にゲームをしに1晩お泊まりに来ていた。
「ちょっと飲みもん買うてくるわ」
暖かいミルクティーが飲みたくなって友人宅から徒歩3分程の場所にある自動販売機を思い浮かべ、席を立つ。
「お前この時間帯気をつけぇよ」
友人の声を背に、財布を持って上着を羽織り、スニーカーをひっかけて家を出る。
時刻はもうすぐ零時。
夜中にちょっとそこまでコンビニや自動販売機に行くのはなんか非日常な気分で好きだ。
目的地につき、小銭を投入口に入れ、目当ての暖かいミルクティーのボタンを押す。
ガコンとペットボトルが落下した音を合図に購入したものを取り出す。
ふと、なんだか左側の車道の方から気配がしてそちらに目をやる。
50メートルぐらい先の街灯の下に、何か、黒い大きな影がゆらゆらこちらに向かって歩いて来るのが見えた。
仕事帰りの酔ったリーマンかな?くらいに思ったのだが、段々近づいてくるそれに違和感を感じる。なんだか様子がおかしい。
その影は背が高い成人男性くらい。
ゆらゆらゆっくり近づいてくるが、どうもシルエット的に肩から伸びてる筈の両腕がない。
何だか嫌な予感がしたので
気付いてない素振りで慌てて帰路につく。
とことこ、とことこ、とことこ
と
こ
と
こ
後ろから自分とは別の
不規則な足音が聞こえる。
歩き出して曲がり角を曲がり、歩きながら後ろをチラリと見ると" ソレ "も丁度ゆらゆら曲がり角を曲がったところだった。さっきよりも少し距離が近いのに服装や何から何までよく分からない。完全に黒いシルエット。
(変なのついてきたかもしれん…)
(でもあからさまに気付いた素振りしたら追いかけられそう)
(走ったらあっちも走り出しそう)
直感でそう思い、少しだけ「さむっ」と下手な演技をして「あくまで早歩きしたのは寒いから早くお家に帰りたいからですよー」を装い、歩く速度を上げる。
…後ろの足音も速度を上げた。
だんだん近くなって来ているのを背中に感じ、恐怖もじわじわと大きくなって来たあたりで友人宅の小さな家の門を開け、敷地に入り、玄関のドアに手をかけて後ろを振り返る。
門のそばの植木の横からこちらの様子を伺うように顔を覗かせた黒いのっぺりとした影がこちらを見ていた。こんなに近いのに服装はおろか顔のパーツまで見えない黒。
それは中に入ろうと、先程私が閉めた門に膝をぶつける。やはり腕がないようだ。
目がないのに目が合った様に感じて慌てて家の中に入り、鍵を閉め、友達のいる2階の部屋まで駆け上がり、部屋のドアを開けると
「だから言ったのに、「気をつけぇよ」って。お前またなんかくっつけて来たな?」
まだ何も言って居ないのに、友達はそう言って私を出迎え、肩や背中を払ってくれた。
「大丈夫、とりあえず明日は自分で肩を払いながら帰り。お前じゃなくても付いてきてたっぽいから、ついて来やんでーって態度で示せば諦めるやろ」
と、そのまま何事も無かったかのように友達は楽しんでいたであろうゲームを再開する。
下の階からガンガンと玄関扉に何かがぶつかる音が数回聞こえ、そして止んだ。
明日は肩を払いながら帰ろう。
……嘘か誠かわからぬ怪談小話。
いつかお会いできたら聞いてみて。
答えを教えてあげましょう。
ありがとうございました。
執筆:koko(【非国民的】3期メンバー)
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