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父から貰った使えない1万円札

お年玉や誕生日祝いのおこずかいは毎年貰える家庭に育った。毎月のおこずかい制度はなくお年玉は1年分のおこずかいになる。

私も18歳になり車の運転免許証を取得した(これはおこずかいからではない)しかし、車を買うまとまったお金がなくすぐには買うことは出来なかったが20歳の年にやっと買うことができた。当時の財布の中身はお札がないことが普通。財布をもたないで車に乗っていたこともありガソリンを入れる時だけ銀行でおろした。お金を持たないでのドライブで一番の恐怖は意図していないうちに高速道路にのってしまうことだ。そんなことあるわけないだろうと思うが初心者にはあるのだ。高速の入り口にゲートがあれば高速道路の入り口だとすぐわかるが、小樽から札幌に向かう高速道路には「入り口ですよ」というゲートがない。左に行けば一般道、直進もしくは右車線を走り続けれは高速道路となり降りるときにゲートが出てきてお金を支払うシステムだ。高速道路に乗らない為には看板をよく見ておく必要がある。

20歳の誕生日、父が免許証入れをくれた。一緒に1万円札も。 免許証入れは免許証を入れても外から見えるようになっていて反対側はカードがもう1枚いれることしかできない位薄くポケットに入れても邪魔にならない大きさと厚みだ。父は私が子供の頃父の免許証入れをねだったことを覚えていたのかもしれない。1万円をくれる時父の言葉が「命金(いのちがね)にして、もしもの時につかいなさい。」 私はすぐに貰った免許証入れに免許証と反対側に1万円札を三ツ折りにして入れた。 

 それからは財布がなくても気持ちに余裕が生まれた。もしもの時はこのお金を使えばいいじゃんと。しかし、使うことはなかった。ガソリン代がない時は給料日まで待った。間違って高速道路にのることもしなかった。その間、その後も実家に行けばおこずかいだと言ってお金をもらい欲しいものに使ったが「父から貰った1万円札」だけは使わずにいた。数年経ち、クレジットカードを持ちお金の余裕も出てきて免許証も財布に仕舞うようになると父から貰った免許証入れはタンス行きになった。

さらに数年経ち、結婚し家を買い子供も生まれたが離婚。整理は本当に大変だった。身の回りの事や色々な支払いや手続きなど沢山することがあるしお金もかかる。口座には残高がなく保険料の支払い出来ず解約、税金の支払いにも困り、車も手放した。売れるものはすべて売った。ソファ、キッチンテーブルなど思い出があるすべての家具。残ったのは値段が付かなかった椅子とテーブルだけだ。がらんとした家の中。タンスの中を整理していると思い出の品が出てくるがすべてゴミ袋にいれる。その中から忘れていた「父から貰った免許証入れ」が出てきた。一瞬あの頃の温かい思いがよみがえり今の状況を比べ涙がでた。中を見てみるとあの1万円札もあった。今日の食事の為に「命金」を使った。

 以上



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