本質を見抜ける人が辿り着く住宅ローンの正解 -ローリスクハイリターンな選択-
ネット銀行が低金利の商品を多数展開し、それに追従する形でメガバンクも低金利の商品を展開することで熾烈な競争が生まれ、超低金利時代に突入した日本。住宅ローン控除ではこの前まで逆ザヤ状態が発生しており、それに応じるかのようにマンション価格は上昇し、首都圏ではマンション投資の熱が帯びている。
一方、米国ではインフレに対応するため、FRBが利上げによる金融引き締めを検討するというニュースがあり、住宅ローンの金利も上昇するのではないかと、住宅ローンに関する話題が絶えない。
本記事は、アカデミックで統計学や時系列解析を習得した社会人が、利息の定義式をベースに住宅ローンの分析を行いその結果を述べたものである。
先に結論を述べておくと、ローリスクハイリターンな住宅ローンの契約方法は、「変動金利」「元金均等返済」の組み合わせであり、資産運用や事業を行う場合は「元利均等返済」でも良い。
※本記事は、2022年2月27日に公開したものですが、住宅ローン情報やパターン別の検討を加えて追記修正し、2022年3月1日に再掲しました。
第一章「銀行の選択」
まずはマンション(筆者の場合)を決める必要があるが、マンションの選び方は今回の主題と離れるため、あまり触れない。最優先事項は、首都圏であろうと地方であろうと駅近であること。また、モデルルームには積極的に行くことを勧める。モデルルームに行くと実際に住宅ローンの仮審査を行うことが出来る。
基本的には、金利で候補を絞り、団信・付帯サービスの内容や最近の傾向でどの銀行を選ぶか判断すれば良いと考える。最近、メガバンクのみずほ銀行が金利0.375%まで下げるなど競争が激しくなっている。筆者の選択としては、みずほ銀行は金利以外のメリットが無く昨今のトラブルもあり、候補から外した。auじぶん銀行は、楽天経済圏と同様で別商品での囲い込みや長期的に低金利を維持出来るのか不安要素があるため、候補から外した。最終的に、ネット専業銀行初の東証一部上場を果たす住信SBIネット銀行の金利の安い住宅ローン(対面)に決めた。何より団信の無料付帯が充実している。またネット銀行の強みは、手数料無料で自動資金移動が出来るところであり、無駄な作業を少しでも減らせるのは非常に有難い。
「ネット銀行の住宅ローンは、短期プライムレートと連動していないため、急な金利上昇リスクがある」と吠える人もいるが、全てのネット銀行がそうではなく、また現在は短期プライムレートが公定歩合に連動していないため、メガバンクであろうと金利上昇リスクがある。
また、どのような住宅ローンがあるのか調べる際は、ダイヤモンド不動産研究所やモゲチェックを活用すると良い。
第二章「固定金利か変動金利」
どちらが良いかは一概に言えないが、日本の経済がバブル期並みの好景気になるか有事が発生して高インフレにならなければ、金利は1%よりも大きく上昇しないと考える(多くの銀行でフラット35が金利1%前後であるのは、銀行側も同じように予測しているからではないだろうか)。現在の金利が0.5%で毎月0.005%ずつ金利が上昇する場合、35年後の最終金利は2.595%であるが、実質金利は1.2%弱となる。
よって、筆者はローリスクでリターンを得られると見込んだ変動金利を選択した。なお、固定金利は変動金利よりも先に金利が変動するため、借り入れるタイミングで一時的な上昇傾向を示している場合、最初は変動金利を選択して様子を見るのも重要だ(固定金利への変更手数料は基本的に無料)。
この考え方が参考になる動画があり、以下に掲載しておく。
第三章「借入金とその借入期間」
どれほど借りるかは金銭状況や人生設計に大きく左右されるが、基本的には多めに借りて長めの借入期間で良いと考える。以下がその理由である。
金利がカーローン等の他の商品と比べて低いため、条件によるが他の商品よりも利息が少なく済む場合がある。例えば金利2.5%、借入期間7年のカーローンであれば、後述する住宅ローンの条件と利息は殆ど変わらない(元金均等返済の場合、年利$${r}$$と借入年数$${n}$$の乗数$${r (n + 1/12) / 2 }$$で総利息額が決定する)。
自由に出来るキャッシュを所持しておき、将来のリスクに備えられる(借入金は後で増やすことが出来ない)。
余分にキャッシュを借り入れ、住宅ローンの金利以上の利回りが期待できる資産運用や事業に回すことで資産を増やせる。
住宅ローン控除額が多くなり、控除期間が終了するタイミングに繰り上げ返済することで得する場合がある。
住宅ローンには生命保険(団信)の加入が必須であり、長めに借り入れることでローン返済額を大きく下げられる可能性がある(加入している保険が団信と類似した保証の場合、住宅ローンの期間を長めに設定した場合の追加利息額と、保険料の総額を比較することが重要である)。
ただし、利息の観点から言えば、そもそもローン自体借りない方が良い。よって、上記理由に該当せず借入時点でキャッシュを十分に所持している場合は、少なめに借りて利息を減らすのも良い。
第四章「元利均等返済か元金均等返済」
どちらの返済方法が良いか、かなり検討に時間を要した。なぜなら、一般的に元利均等返済が選ばれ元金均等返済は選ばれず、曖昧な根拠に基づき判断されているような状況であるため、数学的な根拠を探すのに苦労した。その過程で自分は以下の仮説(妄想)を立てている。
「元金均等返済が選ばれないのは銀行側にメリットがなく、別の理由を付けて薦めないようにしているから」
すなわち、元金均等返済が債務者にメリットがある返済方法であることを暗に示しており、それは総支払額が少ないこと、ただそれだけである。最終的な総支払額が少ないことが正義であると考える筆者にとっては、元金均等返済一択である(実は、小まめに繰り上げ返済をする前提ならば、元利均等か元金均等かの議論は不毛であり、どちらでも良いという結果になる)。
では、元金均等返済を選択した債務者にとって、どのようなメリットがあり、リスクがあるのか述べていく。ただし、元金均等返済でも審査が通り、毎月の住宅ローン返済額が1万円程度変動しても苦しむような状況でない前提で論じる。それに該当しない人(手元にキャッシュが無いが、背伸びして住宅を購入したい場合)や資産運用や事業を行う人は、元利均等返済の方で自由に出来るキャッシュを少しでも多く所持することを勧める。元利均等返済でも積極的に総支払額を下げたい人は、返済額低減型で繰り上げ返済を計画すると良い。期間短縮型は確かに総支払額の減少が大きくなるが、毎月の支払額が変わらないため、手元のキャッシュが無くなり、そもそもの元利均等返済を選択したメリットが無くなっている。
なお、次の計算条件は、借入金4,000万円、借入期間35年とする。計算はExcelによるもので、具体的な計算式は後述する。金利が0.5%固定で横軸に支払回数を取ったグラフは、それぞれ次のようになる。
金利が0.5%固定の場合、元利均等は毎月103,834円の返済額で、元金均等は初回返済額が111,905円となり、その差額は8,071円である。そして返済額が逆転するのは205回目(18年目頭)である。元金均等の最終返済額は95,278円となり、その差額は8,556円である。 ▷ 元金均等であったとしても返済額は初めの期間にプラス約1万円増加する程度である。デメリットとしてよく挙げられる当初の負担額が重いと感じる程ではなく、マンションであれば今後の修繕積立金の上昇をケアすべきである。なお、返済額が逆転する分岐点がほぼ中央になることは、グラフから理解できるかと思う。
金利が0.5%固定の場合、総支払額の差は102,009円となり、元金均等を選択してもメリットは非常に小さい。しかし、金利が5年ごとに0.25%上昇した場合(5年ルールを想定しているが、厳密にはそうでは無く、最終金利が2.00%となるパターン)は総支払額の差が458,049円となる。 ▷ 上記より、元金均等は金利上昇のリスク(総支払額の上昇)が小さいことがわかる。一方で元利均等でも125%ルール等により金利上昇のリスクを抑えているが、支払う利息の総額が減るわけではなく、将来への皺寄せとなっている。なお、金利が上記のように上昇すると返済額が逆転するタイミングは、数年後ろ倒し(正確には21年目)になる。
元金均等返済は金利上昇分が支払額へすぐに影響するが、元金が減りやすいため、予測が困難な長期(バタフライ効果)には元利均等返済よりも支払額が増加しにくく、安定する。
元金均等返済は元金が減りやすいため、住宅ローン控除額も減るが、元利均等返済との10年目の元金差額は100万円未満である。すなわち、控除額の差も10年目でようやく1万円弱の差であり、無視できるレベルである。
繰上げ返済することで元利均等返済でも総支払額を抑えることが可能であるが、元金均等返済よりも抑えることは出来ない。 ▷ 以下の動画にて元金均等返済と元利均等返済の差額分を貯めて、繰上げ返済すれば総支払額は元利均等返済の方が少ないという紹介があるが、筆者は計算結果を再現できていない(また動画の途中までは返済額低減型の計算をしている一方で、後半では期間短縮型の話にすり替わっている点に注意)。基本的には差額分を貯めて返済額低減型で繰上げ返済をしてもローン残高が元金均等よりも減ることは無く、繰り上げが遅れた分は利息を多めに払っている。では金利0.5%固定で期間短縮型の繰り上げ返済はどうなるか考えてみる。元利均等と元金均等の1年間の合計差額は10万円弱となるが、それを期間短縮型で繰上げ返済すると1ヶ月間の短縮となり、その利息分16,000円程度が軽減される。10年後では1年間の合計差額が5万円まで下がり、軽減できる利息もわずかとなり、結局元金均等返済の総支払額より低くなることはない。金利上昇で5年ルールが適用されたとしても元金と利息の内訳が変わる点に注意が必要である。
最終章「結論」
変動金利で良い ▷ 有事が発生しにくく経済的に衰退していく日本であるため。
元金均等返済で良い ▷ ① 利息を出来る限り抑えたい場合。② 借入金の大小に関わらず、ローン自体に手間やリスクをかけたくない場合(例えば、繰り上げ返済を検討する手間や長期的な金利上昇に対する心配)。
元利均等返済が良い場合もある ▷ 無理してフルローンを組む場合はキャッシュフローを優先すべき。無理して組むため、利息が多くなってしまうのは至極当然である。
借入金は多めで借入期間は長めで良い ▷ 手元に自由なキャッシュを持つことで選択肢が増える。また団体信用生命保険の加入が必須なため、残金が弁済されることがある。
借入金を多めに借りて資金運用や事業を行う場合は、元金均等返済か元利均等返済かはどちらでも良い ▷ 毎月の支払額の差は誤差であるため。
Appendix
なお、$${A}$$を元金、$${r}$$を金利($${=}$$年利$${/ 12}$$)、$${n}$$を返済回数($${=}$$借入年数$${/ 12}$$)と置くと、元金均等返済の場合は $${k}$$回目の支払額は、
$$
\frac{A}{n} + A \left( 1 - \frac{k-1}{n} \right) r
$$
となり(第一項が元金、第二項が利息)、元利均等返済の場合は毎回の返済額が、
$$
\frac{A r (1 + r)^n}{(1 +r)^n - 1}
$$
となる(以下が参考URLである)。
あとがき
住宅ローンに正解は無いと思いますが、総支払額を抑えたい場合は上記のような選択が良いのでは無いでしょうか。ただし、リスクはあるため、ご利用は計画的に。本記事で間違った内容や要望等があればコメントいただければ幸いです。