2023年 Climate Tech領域 注目スタートアップ
初めまして!今月からHAKOBUNEにジョインした小林です!私は一昨年、人口約250万人を超えるアフリカ最大規模のスラムで1ヶ月間生活し、約46ha(東京ドーム10個分)に及ぶゴミ集積所で廃棄問題、水質汚染を目の当たりにした事をきっかけに、環境問題に強い関心を抱くようになりました。今回は、環境問題に取り組むClimate Tech領域の海外の革新的なスタートアップ事例を5つほどご紹介させていただきます。
Astrea:AIを活用した衛星画像解析SaaS
一般的に、衛星画像プロバイダーから詳細な土地画像を購入するには数百ドルから数千ドル以上と高額な費用がかかります。Astraeaは、再生可能エネルギーや農業プロジェクトの開発を目指す中小企業にとってより有用かつ手頃な価格のツールを提供しています。Astereaは衛星画像を入手してAIを活用して分析するSaaSプラットフォームの開発を手がけており、太陽光発電所を建設して生産性を向上させようとしている開発業者や、再生可能な農場の開発を考えている農家は、衛星画像に容易にアクセスし、土地情報の解析を行う事ができます。
Astereaの創業者は神経科学でPh.Dを取得し、AI領域に長らく関わってきたNatalie Rensという女性です。現在、Series Aラウンドで累計1650万ドルを調達しています。
環境保護の文脈では、世界規模で北方林を観測し、その健康状態をAIを用いて分析したり、太陽光発電所の観測を通して、ソーラーパネルが送電網に与える負荷をデイリーベーシスで予測するなど様々な取り組みを行っています。不動産領域における新たな用地開発エリアの発見や建設進捗の追跡、プロジェクト精査の迅速化、再生可能エネルギーとエネルギー転換に沿ったインフラの組成、デジタルMRV機能を用いた炭素クレジットの検証、持続可能な農業への取り組み支援など幅広い領域で活躍してくれる事間違いなしですね。
Urban Machine:廃棄木材を高級木材に変えるロボティクス
国際連合食糧農業機関(FAO)の「世界森林資源評価(FRA)2020」によると、全世界の森林総面積は40億6,000万ヘクタールで、その内、北中米が19%を占め、木材輸出額は世界トップを誇ります。しかし、現在米国では森林破壊や、ウッドショックと呼ばれる木材価格の高騰、不足が問題になっております。さらに、2018年には、国内で600万トンの建設および解体に関連する廃棄物が排出され、これは都市ゴミの送料の倍以上に相当します。
Urban Machineは自社で開発したAI搭載の「The Machine」を活用し、再生木材から釘とステープルを取り除き、それを高級木材製品に変換することにより、廃棄木材の再生や二酸化炭素排出量の削減、森林伐採の防止に取り組んでいます。
具体的なプロセスとして、まず廃棄木材をシャトルで固定し、AIを活用して釘やステープルを取り除きます。その後、表面材を回転するワイヤーブラシで除去し、最後に品質チェックを行う事で、新築に適した木材であることを確認します。AIが全ての現場で回収する木材の量と質を自動計算することで、木材再生プロセスの計画と実行を支援し、時間とコストを削減することが可能です。
木造はそもそも建築時の炭素排出量が少なく、炭素を固定し貯蔵する上、再生木材を用いる事で新たな森林伐採も必要なくなるため、マイケルグリーンによる WIDC ビル、T3 ビルや、ロビン・ギュンサーによるパッカード小児病院のエレベーターベイなど、現在、再生木材はその持続可能性によって世界のトップデザイナーにとって欠かせないものとなっています。
環境保護や持続可能性への意識が高まりつつある中で、汚れやステープル、釘があるというだけで今迄廃棄されてしまっていた木材を精細させる技術というのは、木材廃棄物削減や森林伐採の防止、温室効果ガス削減など、地球環境保全に多くのメリットをもたらしてくれるのではないでしょうか。
Remora:トラックの排気ガス削減とクレジット販売
米国の交通・輸送部門の温室効果ガス(GHG)排出量は、2018年時点で世界トップを記録し、世界の同部門排出量の役2割を占めます。そのうち、主にディーゼル燃料を使う中・大型トラックは23%と高い割合を占めています。カリフォルニア州は近年、州内で販売されるすべての新車の乗用車とトラックの排出ガスを2035年までにゼロにするよう義務づける発表を行いました。そのような状況下で、EVトラックの市場投入が進んでいますが、一般的にEVセミトラックは非常に多くの重いバッテリーを運ぶため、輸送できる積載量がはるかに少なく、輸送できる荷物が数千ポンド少なくなります。さらに、短距離しか移動できない上に、化石燃料が大半を占める送電網で充電するには数時間かかるという現状もあります。
Remoraは、その課題を解決するため、セミ・トラックのテールパイプから直接二酸化炭素を排出する装置を開発しています。装置はトラックの荷台のテールパイプに取り付けられ、排気ガスから炭素排出をろ過します。運転手は給油しながら、回収して圧縮したCO2を積み下ろし、Remoraはその高純度の液体CO2をエンドユーザーに販売するか、EPA(米国環境保護庁)認定の井戸の地下に永久隔離するためのクレジットとして販売します。回収したCO2からの収益は顧客と共有するため、この装置は顧客のCO2排出量を削減すると同時に、新たな収益源を生み出すという画期的なビジネスモデルです。
RemoraはY Combinatorからも出資を受け、Series Aで累計842万ドルを調達しています。
日本でも、CO2層排出量の20%が運輸部門が、その内の36.6%をトラックが占めています。さらに、充電施設の少なさや化石燃料への依存から脱却出来ていないが故にEVシフトが遅れている現状があるので、このようなプロダクトの普及は急務であると考えます。
Waterplan:企業の水リスクに関するデータを一元管理
世界がこのままの道を歩めば、2030年までに水の利用可能量が40%不足するという予測もあるように、現在の世界的な水資源の不足は、気候変動と並び、最も喫緊な環境問題の一つです。さらに、世界的な水質汚染も大きな問題となっています。
2020 年、企業全体における水リスク(水資源の安定確保、河川はん濫、水質汚染などの水に係わる問題)の財務上の最大影響額は、3,010 億ドルと算定されました。これは、水リスクに対処するコスト ( 550億ドル) の 5 倍に相当します。さらに、水の安全保障への投資にはリスク管理以外にもビジネスチャンスがあり、その額は7,110 億米ドルと推定されています。
Waterplanは、企業の業務データと現地の水衛星画像を組み合わせ、継続的に更新される水リスクの財務評価を提供するプラットフォームを提供しています。その顧客には、コカ・コーラやコルゲートなどの多国籍企業が含まれ、Y Combinatorやレオナルド・ディカプリオ、リチャード・ブランソン一家などから累計1100万ドルを調達しています。
サイトからの定量的な情報により、取水量、排出量、水消費量、生産量、収益などの推移を詳細に把握することができます。経時的なリスクスコアの変化を比較し、一定期間内にどのリスクが増減しているかが分かりやすくビジュアル化されます。全ての地域のリスクスコアを視覚化し、ホットスポットを一箇所で特定する事も可能です。また、サプライチェーン、取水施設および排水施設、その他の水関連リスクを継続的に追跡し、水リスクが検出されると、アラートを受け取れます。さらに、統合されたリスクデータに基づいて、Waterplanのアドバイザーチームが、水リスクへの対応に関する戦略の構築を支援します。
水リスクは日本企業にとっても対岸の火事などではなく、2011年のタイの大洪水によって、自動車・コンピューター部品の供給がストップし、進出日系企業の生産が多大な被害を被ったように、グローバル進出している企業にとって対処は急務です。Waterplanのように、水リスクに関するデータを一元管理できるプラットフォームは非常に有用なのではないでしょうか。
ALT TEX:食品廃棄物を独自技術で繊維に変換
WWF(世界自然保護基金)のデータによると、毎年、世界中で生産された食品のうち40%にあたる約25億トンが廃棄されています。食品ロスはごみとして焼却処理する際にCO2を大量に排出する為、地球温暖化による気候変動の一因になったり、先進国で多くの食料が廃棄される一方で、発展途上国では貧困や紛争などによって食料が不足するという「食の不均衡」を引き起こしています。さらに、現在アパレル業界は世界2位の環境汚染産業に指定されています。(一位は石油。)プラスチックのパッケージや服の素材を廃棄して燃やす際のCO2排出、服の製造工程における大量の水の消費、マイクロプラスチックによる生態系破壊など様々な問題があります。
ALT TEXは食品廃棄物からポリエステル代替品を生み出す事で、食品ロスの削減とアパレル業界の改革に取り組んでいます。現在、SeedラウンドでY CombinatorやGarage Capitalなどから累計1100万ドルを調達しています。
ALT TEXは特許出願中の技術によって、食品廃棄物をバイオプラスチック繊維に再設計します。具体的なプロセスとして、まず食品製造業界から収集された廃棄物を、発酵技術によって微生物と組み合わせて前駆体を生成します。その前駆体を使用して、強度の高いポリマーを生成した後、添加剤を加える事で、強度、柔軟性、耐熱性を最適化し、樹脂を作成します。さらに、既存のポリエステル機械を使用して樹脂を溶かし、小さな穴を通して圧縮することによって繊維を抽出します。その繊維を利用する事で、用途に応じて、さまざまな構成の糸を紡績します。
ALT TEX で作られた衣類約 1 着によって、1kgの食品廃棄の削減、9kgの二酸化炭素排出削減、4gの海洋水汚染防止が実現するそうです。事実だとすれば、食品ロスもアパレル業界による環境破壊防止にも繋がる素晴らしい技術ではないでしょうか。
最後に
いかがでしたでしょうか?我々の住む地球を守るためにも、このようにClimate Tech領域にチャレンジするスタートアップが増えると嬉しいですね!今後も、Climate Techやブロックチェーンを活用したRe-Fi(再生金融)領域の最新動向に関する記事を書いていきたいと思います。
HAKOBUNEでも現在、プラントベースフード開発を手掛けるディッシュウィルさんや、カーボンクレジット事業を手掛ける渋谷ブレンドグリーンエナジーさんなどに出資させて頂いており、この領域にも注力しています!
これからの社会を担う起業家や、アイデア段階にいる方々ともぜひお話をしたいと考えていますので、お気軽にご連絡ください!
参考文献
https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2023/84322/food_loss
https://earthene.com/media/369#point-2
https://tenbou.nies.go.jp/news/fnews/detail.php?i=30388
https://spaceshipearth.jp/wood_shock/
https://www.globalnote.jp/post-3285.html
https://looop-denki.com/home/denkinavi/energy/environment/deforestation/
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2021/0801/a64eb44d29d29ba5.html