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香港の広東料理店

広東料理のおいしさ

香港でおいしいのは広東料理である。広東料理以外はむしろ不毛な街と言った方が正しいと感じる。特に中国北方や西方の料理は大陸にいかないとあまりうまいものはない。

香港人というのは食に関して実は非常に保守的で、ほぼ毎日広東料理を食べていると思っていい。外食頻度が高く、料理店の味については極めて厳しいので、結果的に料理店の広東料理のレベルはどんどん上るが、他はそうでもない。

では香港の食べ物がうまくないのかといえばうまい。それは広東料理が圧倒的にうまいからである。中国全土の中華料理全体を見渡せば、北京料理も上海料理も四川料理もうまい。それぞれに異なるおいしさがある。そんななかで広東料理の特徴は、ひとことでいえば「洗練」。肉、魚介中心に豊富な素材を前提に、温暖な気候にあったおいしさを極めてゆくと、「うまみ(鮮味)」や「食感の凹凸感」に際立った特徴を見せ、一方で塩味、辛味、甘味、酸味等基本5味については、抑えめで特徴に乏しい味覚のプロファイルが形成される。

例えば上海で食べる上海料理や、四川で食べる四川料理と比べて、広東料理は「パンチがない」「いきおいがない」という感想を持つ人がいるが、たぶんその通りだと思う。上海料理にある醤油(老抽らおちゃお=ダークソイソースのこと)と砂糖の強い紅焼(ほんしゃお)の甘辛の味はインパクトがあるし、四川の唐辛子と花椒(ふぁあじゃお=花山椒のこと)の辛く痺れる味は忘れられない味であるが、広東料理にはそういう味はない。

広東料理にあるのは、「うまみ(鮮味)」と「食感の凹凸感」である。うまみはいわゆるアミノ酸のうまみであるが、「湯」(スープストック)をしっかり作りそれをいろいろな料理の味のベースとして使う結果でてくる味であり、広東料理特有の醤油(生抽さんちゃお=ライトソイソースのこと)や、幹物(干しシイタケ、干しえび、干し貝柱等々)もうまみの供給元である。常にうまみが基本で、5味+うまみを合わせた基本6味のなかで、一番際立っている。

食感は常に、やわらかいものとクリスピーなものを組み合わせて楽しむような工夫とそれを実現するための努力と技術がある。たとえば香港人の大好きなチャーシューでいえば、外側はクリスピーで、中側はやわらかくかつジューシーであることが最低条件だし、人気のデザート楊枝甘露(ヤンツイーガムロー)でもマンゴの柔らかさと、タピオカのまるいつぶつぶ感とザボンの楕円の繊維質のあるつぶつぶ感の食感のコンビネーションは絶妙である。ジューシーであるべきものはとことんジューシーであり、クリスピーであるものはとことんクリスピーになっている。この辺は基本中の基本でこれを外した店は絶対に香港では生き残れない。

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