『自由を我らに』当日パンフレットご挨拶
十八年前の『自由を我らに』初演の時、カーテンコールが終わって袖にはけてきた役者達が口々に「今日はすごく芝居のテンポがよかったよね、いつもより早かったよね、さくさく行ったよね」と、興奮していた。
当たり前だ、台本を14ページもすっとばしていたからだ。
笑い事ではなく一幕物、出ずっぱり芝居の恐ろしいところである。
客席の明かりが落ち明転したらもう誰にも止められない。
脚本を書いた人間、演出した人間なんて、始まってしまった芝居の前では本当に無力だ。
できることといえば祈るだけ。「演劇の神様、どうか素晴らしい時間を、どうか、どうか…この二時間だけで結構ですから、どうか…」と、毎ステージごと手を組み合わせて上を見しかない。
でも、たいていの場合、上には照明の灯体が下がっているだけなんだが。そして、目の前の舞台上で座ったままの役者が踊る会議を展開する。演劇の女神様、もっと踊らせてください、もっと、もっと、もっと…ただ祈るだけしかできないから、精一杯祈るんだ。いつもいつも、これからも…
じんのひろあき