朗読のこと
英語絵本朗読大会への参加
少し前のことになりますが、7月に開催された「第2回 絵本『わたしはマリモ』英語版朗読大会』」(主催:わたしはマリモ朗読大会実行委員会)に参加しました。
アイルランド大使館後援の朗読大会を知ったのは、大使館公式アカウントによるTwitterへの投稿でした。「英語で表現することがお好きな方、朗読に挑戦してみませんか?」という優しい誘いかけに誘われるがままに、募集要項を読み、気づけば応募先にお問い合わせのメールを送ったことが始まりです。
音源審査を通過した場合は、マリモの故郷、釧路開催の朗読大会に参加。絵本の好きなページまたは全文、アイリッシュハープの演奏とともに朗読発表することができるのです。絵本が好きで、朗読が好き、英語が好き(残念ながら、勉強したのに得意とはいえない)、もちろんアイリッシュハープも好き、の身としては応募一択。そこにたどり着けば、審査員である愛知淑徳大学名誉教授の大野光子先生のお話も聞ける、というすごい会。(大野先生は、アイルランド文学の専門家として長年日本への普及と両国の架け橋として尽力されてきて、2020年にアイルランド大統領功労賞を受賞された方です。)夏の釧路に足を運ぶ機会、久しぶりの英語の朗読、そして英文学からアイルランド文化への関心、イェイツ詩や詩論、という繋がりで取り組んでみることにしました。
絵本を読んで、阿寒湖に棲むマリモちゃんファミリーの可愛さに、まずほれ込み。そして絵本の英文の韻を踏んだリズムの良さが楽しく、何度も読み読み。英語の朗読というと、ハードル高そうなイメージがありますが、絵本の英文なので、聞いたこともないような単語は出てきません。むしろ中学校の英語を勉強した人ならだれでも知っているだろう優しい英文なのです。
逆にそれが仇となって、読み慣れてくるとノーマルスピードで読めてしまう。ひととおり読めるようになったと録音してみると、聴こえてきたのは、なんともつまらない、ちっとも楽しくない音読。絵本の可愛さ、楽しさ、波乱、英語のリズム、ただつっかえずに読むだけでは伝わらないのですね。これが「表現する」ということなのだと思い、試行錯誤を開始。どうやって表現しよう?
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絵本の読み聞かせをするとき、落ち着いて、絵本の世界に入っていけるように、また自由に想像の翼を広げられるように、読み手は絵本を揺さぶってはいけないし(これでは絵本が見えなくなります)、不自然に大きな声をあげたり、必要以上に声音を演じ分ける必要はない、とされています。聞き取れなくなったり、聞き手が想像するものと違うものが提供されることで、作品世界からはじき出されてしまわないようにする工夫です。言ってみれば、「普通に」読めばいいのです。しかし、ネイティブでもなく、日ごろ英語を話さない人間が朗読をするのに、日本語と同じように読んだのでは、無表情なナレーションにとどまってしまいそうです。そこで以下のことに気を付けて、また読み込み。
・発音と抑揚は適切か?
・韻はリズミカルに読めているか?
・つっかえていないか?声量は十分か?
・朗読のスピード
・展開が伝わる声の密度・緩急か?
・しかし、冷静さ・抑制を忘れずに
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自分の音声を何度も聞いては、やり直し。というこれまでにない居心地の悪い体験をしつつ、絵本の一部の朗読であっても、こんなに工夫の余地があるんだと実感。作品の文章を自分のものにして、自分の声の表現として発する。なんとか無事に、簡単な自己紹介と絵本の朗読を提出することができました。
結果は。一般の部、第二位という望外の評価をいただくことができました。感激。やはり、声に出して読む、それが伝わるというのは、自分の書いた文章であってもなくても、むしろ他の人の作品であればその良さを伝えることができたという一層の、喜びがじわじわと押し寄せます。が。肝心の釧路行き…直前に家族の体調が悪くなり、泣く泣く見送りとなりました。無念。はやく、世界を覆う奇病がコントロールされるようになったら、季節の良いときに、釧路を訪れたいと思います。それまでマリモちゃんファミリー、待っていてね。
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大使館後援イベントで全国に呼びかけをしているとはいっても、こちらのイベントおそらく本来的には「釧路の大会」なのだと思います。お問い合わせの結果、道外からの参加もOK!とのことで、事務局の方には絵本の入手から事後まで細やかな対応をいただきました。私自身は参加することで、絵本や朗読の楽しみを再認識したり、読み方の工夫を重ねたりと、大変貴重な経験となりましたが、事務局の方には想定外のご負担をおかけした面もあろうかと思います。この場を借りて改めて御礼申し上げます。
発声をすることがためらわれる状況が続く中、可愛い絵本を通してあたたかい時間を共有できること、英語のリズムを感じる楽しみ、声に出して作品を届ける嬉しさを強く感じました。今後もこの素敵な朗読大会のご盛会を、また、作品を声で届ける活動に関わりたい人が増えることを願っています。
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そしてあらためて朗読の魅力にとりつかれた私は。地域の絵本の読み聞かせ活動はもちろん参加継続ですが、自分の作品を届けることや、さまざまな作品を声で表現することにも関心を深めた次第です。