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東京に降り立った日
約5か月間のマンスリーマンション暮らしを終えて、東京から愛媛に帰ってきた。
noteでは以前に「夏の間だけマンスリーを借りようかなあ」という話をした後にどうしたのかあまり書いてこなかったので、ぽつぽつ思い出しながら記録しておこうと思う。
マンスリーマンションを本格的に探し始めたのは、4月ごろのことであった。神クズのアニメが7月1日に始まるし、4thテニミュ聖ルドルフ・山吹公演が7月5日からだったので、6月半ばには東京暮らしを始めたいという算段だったのである。
セオリー通りに行けば東京公演が青年館、大阪、福岡を経て凱旋公演がTDCなので渋谷方面と水道橋方面にアクセスがいいところ…と思っては見たものの、東京の土地勘がてんで無いので治安や交通やら、何を手掛かりに探せばいいのかもわからない。
条件を入力すれば各マンスリー会社からいくつか物件を見繕ってメールで案内してくれるサービスを利用して唸っていた矢先、なんと今回の公演では凱旋公演を天王洲アイルの銀河劇場で行うとの発表があった。
て、天王洲アイルってぇ……あの…ビッグサイトに行く途中で聞く…アレか?
あの、オタクがよく「美少女の名前みてぇ~笑」とか言ってる……。
ますます見当もつかなくなったところ、ある会社からメールで案内した物件はどうでしたか?と電話があり、渡りに舟とばかりに「あれもよかったんですけど、良かったら他に渋谷と天王洲にアクセスがいい物件があれば紹介してもらえませんか?」とお願いをしてみた。
しばらくすると品川と天王洲アイルのほぼ中間にあるマンスリーがあるが、品川からは在来線で各方面へのアクセスもいいし、天王洲は徒歩圏内だし、どうでしょうか?と速やかな連絡があった。
メールだけで完結する仕事のやり取りもいいが、電話があるとこういうコミニュケーションが取れてうれしい。
部屋の写真を確認すると希望通りの二口ガスコンロ(自炊がしたいので慣れてるガスが良い)だし、風呂トイレは別だし、フローリング白いし、オートロックだし…と数々の理想にもピッタリであった。
また、私はなぜか何となく「もし住むなら今までの東京旅行で1度は行ったことがある場所がいいなあ」と思っていたのだが、品川はけいどろの舞台で通ったので馴染みがあるし、マンスリー周りをグーグルマップで見て回っていると、偶然にも以前友人とけいどろ舞台の合間に立ち寄ったコンビニや公園が近いことがわかった。
私は嬉しくなり、一気にこのマンスリーと運命によって引き寄せられている、という謎の確信を深めていったのである。
メールや郵送で契約書を交わすと、「鍵は入居前に愛媛に送るので、当日から出入りしてよい」とのことだった。
入居日、この日から「東京の私の家」ができるんだ、と思うと毎日毎日居ても立っても居られない気持ちだった。
白いフローリングだから緑のマットが合うだろうな、とヨガマットを注文し、ベッドに置いたら素敵だろうな、とクッションカバーを購入した。
ネットに不自由がないようにモバイルWi-Fiも契約した。
また、マンスリー備え付けのデスクにはiPadを置きっぱなしにして原稿をするであろうという予測から食事用の机を別に用意したいと思っていたが、担当さんが引っ越し祝いとしてIKEAの折りたたみ机をプレゼントしてくださることになった。
おい、マンスリーだぞ…!?お前本気で住む気か!?
私は本気で住む気だった。
もう二度とない夏にする、私が今までの人生で何となく「私はこの先一生体験できないんだろうな」と半ば諦めていた生活を全部やれるチャンスだと思ったのだ。
私の好きなものに囲まれて、好きな時間を過ごし、好きな人に会って、好きな服を着て、やりたいことをぜんぶやって、夜中にコンビニに行って、出先でお酒を飲んで電車と徒歩で家に帰って眠る。
「東京の私の家」にいる間は、私は東京で一人暮らしを本気で満喫する人間でいようと決めていたのである。
一人暮らしをするにあたって、私が物心つかない頃からの付き合いであるぬいぐるみの「コヤビン」をぬいぐるみ一同の代表者として帯同することにした。
コヤビンは寝転がってスマホをする時とかに顎の下に挟むのにちょうどいい分厚さのクマだ。
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マンスリーに滞在する期間に開催されるライブやイベントのチケットを申し込みながら、「この時にはもう東京に住んでいるんだな」「イベントの後ホテルじゃなくて家に帰るってどんな気持ちなんだろう」と思うとたまらなかった。
何度も何度も品川駅を降りてからマンスリーマンションに行くまでの道筋をグーグルマップで確認した。
品川に着いたら、すぐに朝マックを買おう、と夢想した。
山に囲まれて暮らしてきた私にとって、朝マックは都会に行った時にしか食べられない「都会の象徴」のような食べ物なのである。不憫だね。
入居日前日、服や生活の大体のものを入居日の夕方着で送り飛ばすと、私は単身夜行バスで東京に向かった。
なぜこの期に及んで飛行機じゃなくて夜行バス(14時間)なんですか?!と私の健康を案じるフォロワーや読者には大いに嘆かれたが、私はどうしても夜行バスで東京に降り立ちたかったのである。
私がはじめて一人で東京に行ったのは中学生の時だが、それから立派なアラサーになった今に至るまでずーっとずっと夜行バスでの上京を繰り返してきた。私にとって愛媛~東京間の夜行バスの問題は別に14時間座ることではなく、なによりも朝の7時に新宿にたたき出されることである。
店が、開いていないのだ。
化粧をする必要のなかったころはマクドナルドに身を寄せ、ルノアールが開くまでうろつき、身支度を整えたくなる年頃になれば夜行バスの中で化粧してみたり、バスタのベンチで下地だけ塗ってみたり、長々と順番待ちをしてパウダールームやネットカフェに身を寄せてみたり…と、本当にありとあらゆる手段を用いて新宿の朝と戦ってきたのである。
でも、明日の朝、新宿に降り立つ私にはもう家があるのだ。
こんな嬉しいことがあるだろうか。
希望と喜びに胸を弾ませた私は14時間の運行時間にもめげず、意気揚々と3列シートの座席に身を沈めた。
原稿の開始である。
え……………………………………………………………………?
なんと、出立までに原稿が終わっていなかったのだ。最悪である。
私は上着と持参したひざ掛けを何重にもして被り、座席からiPadの光が漏れないように身を縮こまらせながら膝を立て、原稿にトーンを貼り続けた。
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なんかもう、ほぼ木の上で身構える狙撃兵のような状態だ。
最悪の状態ではあるが、運行時間は14時間もある。つまり車中で14時間も作業ができるし、新宿についてからその足で速攻マンスリーにたどり着けばそのまま作業が続行できる。
夜行バスでよかった。飛行機だとなんやかんや忙しいのでこうはいかない。
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今まで何度も夜行バスの途中で休憩地として降り立った足柄SAの風景も、
不思議と違って見える。
14時間ののち、朝が来て、私は朝の7時に新宿に叩き出された。
スーツケースにバッグ、ヨガマットが2本入った帆布のバッグの大荷物だが平気だ。
私には家がある。
すみやかに山手線に乗り込み品川に向かいながら、私は生まれて初めてモバイルオーダーを注文してみたが、決済まで行けていなかったようで結局普通に注文することになった。でも平気だ。私には家がある。
何度も何度もグーグルマップで通った道をたどって、
何度も何度もグーグルマップで外観を眺めたマンスリーマンションが目の前に現れた。
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私の家だ!
私の朝マックだ!!!!!!!
そして原稿再開である。
なんかいろいろとウキウキ♪東京生活スタート♪したいところだが、それどころではない。最終〆時刻までに仕上げなくては。
ていうか夕方には担当さんがわざわざこのマンスリーを訪ねてきてくれることになっているのに、原稿も送らずに顔を合わせることはできない。
私は荷物を思いっきりそのあたりに打ち捨てまくったまま数時間原稿に没頭し、後はデータを送るだけとなった。
が、その時とんでもないことに気が付いてしまった。
モバイルWi-Fiがない。
なんでか知らないが、夕方に届くヤマトの段ボールに一緒に入れてしまっていたのだった。なんで???これでは原稿が…送れな……夕方にノコノコ来られても締め切りは過ぎている。私は顔面蒼白になったが、ハッとひらめいた。
ここは東京なのだから、フリーWi-Fiが使える店がたくさんあるんじゃないか。
スマホで検索して見つかった家から10分のベローチェに、クソデカ12.9インチiPadを抱えて転がり込んだ。フリーWi-Fiでデカすぎる原稿データを送る蛮行をお許しください!!!!!!!!と心で叫びながら、ややお高めの飲食物を注文した。
私は無償に感動していた。
ここが愛媛の山の中だったとしたら、原稿は仕上げられてもフリーWi-Fiの設置されたベローチェが存在しないばかりに破滅していたであろう。
これが東京で、暮らすということなんだ……。
数年前担当さんと「ベローチェ前で待ち合わせ」をしたところ東京にベローチェが存在しすぎるせいでそれぞれ別のベローチェにいたという入れ違いが起きたこと(サイン会遅刻事件)もあったが、今はただ、都会の街に広がるベローチェに感謝あるのみ。
脱稿し、マンスリーに戻ってきた私は無事にヤマトの荷物を受け取ることができたが、数時間後には担当さんが訪ねてくる。
ここまで14時間のバスと過酷な原稿作業に耐えてきたこの薄汚く脂ぎった身を整え、部屋を片付け、おもてなしをしなくては……。
おもてなし!
生まれてこの方実家に住んでいたため、一人で暮らす家に、私の家に人が訪ねてくるということが、私一人でもてなすということが初めてで、胸が締め付けられそうだった。
私は恐るべき速さでクソデカ160サイズの段ボール二箱の荷物を片し、走ってドリップコーヒーを買いに行き、風呂に入り、風呂場の鏡で化粧を済ませた。
しばらくすると担当さんが訪ねてきてくださって、私は生まれて初めてオートロックを解除して人を迎える側になった。愛媛の家は玄関のドアをずっと開けっぱなしにしているので、オートロック以前の問題である。
その場で早速IKEAの机を広げて、コーヒーを淹れた。
なんか寂しいので片付け中にテレビにつないだfire stickで槇原敬之をかけっぱなしにしていたのだが、めちゃくちゃ雰囲気を作りに行ってるヤツみたいでちょっと恥ずかしかった。
担当さんとは今まで年に1,2回会えるかどうかみたいな感じだったのに、東京に来て速攻「今日と明日会って、あさっては会わなくて、その次の日はまた会うんで合ってましたよね?」みたいな異常なスケジュールを組むことができた。
神クズのアニメがもうすぐ始まるから。私が東京に来れたから。
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妙にスプリングの存在感が強いベッドに横たわるとあまりの疲労(約40時間のノンストップ稼働)からかどろどろと眠りこけてしまい、気が付くと朝だった。
が、ずいぶん部屋が暗く、東京の朝はこんなに暗いんだろうか……?とぼんやりしていたが、カーテンを閉めているからだ!と気づいた。
私の実家の部屋にはレースのカーテンしか無いので、朝が来れば明るくて夜が来れば暗いのである。実は部屋ってカーテンあったほうがいいらしい。
カーテンを開けるとまぶしくて、ちゃんと東京の朝だ、と思った。