ボツになったであろう渾身のふつおた
ラジオネーム:膝小僧の対義語は肘ババア
根建さん、文田さん、細木数子さんこんにちは!
僕は、ある公立高校で野球部の顧問をしています。
毎年1回戦負けは当たり前、時にはサッカー部や陸上部から部員を借りて夏の大会に出場し、打った瞬間に3塁へと走り出したり、2塁ベースを駆け抜けたり、歴史的大敗を喫したりするほどの超弱小野球部でした。
そんな折、新入生が3人入り部員が9人になり野球部だけで大会へと出場できる年がきました!
しかも、新入生の2人は中学時代に全国区で名を轟かせたバッテリーで、投手の田中は「家が近かったから」捕手の古田は「どうせなら弱小チームで強豪校を倒して甲子園に行きたいと思った」とまるで野球漫画の主人公のようなセリフを平気で吐いてくる2人でした!
これは、今年は野球部だけで大会出場どころか本気で甲子園まで狙えるのでは……!?とまで思った僕は、その日から本気の練習に取り組む決意をしたのでした。
しかしながら、2年生3人、3年生3人の元々いた選手たちがいきなりそんな練習に付いてこれるはずもありません。投手がよくても守備がよくなきゃアウトはとれませんし点を取れなきゃ勝てないのです。
やはりいきなりは難しいか……と思っていたのですが、もう1人の1年生の島田が野球経験はないはずなのに素晴らしい才能を見せていることに気付きました。
よく島田の動きを観察していると、守備の時には打球が飛んでくる前に動き出し、打撃の時には全く打つ気を見せなかったと思いきや突然狙い済ましたように鋭い打球を放つなど普通ではないセンスの持ち主でした。
わたしは島田を呼び、話をしてみることにしました。
「おい、島田、お前は本当に野球経験がないのか?」
「はい。僕はこの野球部に入って初めてグローブを付けたくらい初心者ですよ。」
「それにしては島田の動きは普通じゃないぞ……?まるで未来が見えているかのような動きだ」
「先生、よく気付きましたね。僕は未来が見えるんです。」
「な、なにぃ!!???」
島田から発せられた突然の言葉に僕は驚きの声を上げてしまいました。
「島田、未来が見えるって……どういうことだ???」
「簡単な話です。僕は星座占いで未来を見ているんですよ。ただ、僕の未来しか見えませんがね。」
驚いたことに、島田は超絶的中率の高い占い師だったのです!
「先生、僕の占いによると……今年この野球部は甲子園に出場できますよ。ただし、僕の占いを信じてくれればですがね。」
その言葉を信じたわたしたちは、島田の言う通りに練習を続けていきました。
迎えた夏の大会、1回戦は相手チームの体調不良、2回戦は相手チームが大会会場に向かう途中に事故に巻き込まれ遅刻により棄権、準決勝は田中と古田の活躍により完封勝利をあげ、いよいよ甲子園の掛かった決勝戦前日を迎えました。
島田はいつものように占いをして占い結果を全員に伝えてくれました。
翌日の決勝戦
卓上カレンダーを持った牡羊座の3年生松井
全身に香水を振りかけてきた牡牛座の3年生江藤
右手にバット、左手にはスチームアイロンを持ってきた双子座の3年生高橋
大量のクッキーを焼いてきた蟹座の2年生駒田
旅行情報誌るるぶトラベルをバッグに入れてきた獅子座の2年生村田
髪の毛をヘアワックスでこれでもかと固めてきた乙女座の2年生の留学生ローズ
そして1年生から甲子園出場がかかり闘志溢れる1年生の田中と古田。
試合が始まると、甲子園が掛かった決勝戦、お互い譲らない投手戦になります。
両チーム無得点のまま迎えた最終回、均衡が崩れます。
田中の失投を逃さなかった相手の四番バッターがバックスクリーンへホームランを放ちました。
その裏、相手エースから得点を挙げられず、惜しくも決勝戦で敗退しました。
試合後、田中と古田が島田に対してなにやら文句を言っていました。
田中「島田!お前の言う通りにしたら甲子園に行けるんじゃなかったのかよ!!」
古田「そうだぞ、お前の言うようにちゃんと今日のラッキーアイテムのキーホルダーを付けてきたのに!」
そう言う古田のカバンにはこれでもかというくらいのキーホルダーがついていました。
田中「俺だって、実力だけで勝負したかったのにお前が絶対に守ってくれって言うから……無理言ってまでお隣さんに借りてきたのに!」
そう言う田中の足元には、恐らくお隣さんに借りてきたというダックスフントがいました。
島田「天秤座の古田くんのラッキーアイテムはキーホルダー、蠍座の田中くんのラッキーアイテムはダックスフント、射手座の僕のラッキーアイテムは木彫りの熊!!それに間違いはないよ!!」
普段の姿からは考えられないくらいに珍しく声を荒らげる島田のカバンからはシャケを咥えた木彫りの熊が顔を出していました。
田中・古田・島田「ってことは……山羊座の先生が守らなかったんじゃないのか!!」
2年生・3年生「そうだよ!それ以外は考えられない!!」
選手達が凄い形相でわたしへと突っかかってきます。
選手一同「そうだよ、そもそも先生にはあんなラッキーアイテムは無理があったんだ……仕方ないよ……」
さっきまでは怒りに満ち溢れていた選手達が、諦めムードになり悲しい顔をし始めます。わたしは慌てて
「おいおい、お前たち、俺が約束を守らないと思うか?こっちに来てみろ!」
と言い、選手たちをある場所へと連れていきます。
「えぇ!!先生マジかよ!!」
そこには1台の真っ赤なフェラーリが止まっています。そうです、島田が占いで示した山羊座のわたしのラッキーアイテムは真っ赤なフェラーリでした。公務員の私にはなかなか無理があるアイテムでしたが選手のためを思い購入に踏み切ったものでした。
「そんな………じゃあ、島田の占いが外れたってことか……」
とガッカリする選手たち。
そこへ
「ありがとうございましたっ!!!おつかれっしたっ!!!」
と、決勝戦の対戦校の選手達が通り過ぎていきました。
選手が全員首からタオルをかけ、タピオカミルクティーを飲み、真っ赤なカバンと真っ青なカバンの2つのカバンを持って通り過ぎていく光景を見た島田が突然
「あぁ!!!!!もしかして……水瓶座と魚座ですか!?」
と対戦校の選手に聞くと
「えぇ、僕たち全員水瓶座と魚座なんですよ。」
そうです、島田の占いによると水瓶座のラッキーアイテムはタオル、ラッキーカラーは赤。魚座のラッキーアイテムはタピオカミルクティー、ラッキーカラーは青だったのです。
「僕の占いは間違ってなかった……ただ、数で負けたんだ……」
と、島田は肩を落としていましたが、無理をしてまでフェラーリを買ったわたしはタオルとタピオカミルクティーに負けたと思うと悔しくて悔しくて仕方ありませんでした。
囲碁将棋のおふたりは占いって信じますか?