ガンダム外伝アーサー・ドーラン戦記 プロローグ④ ~U.C.0079.12.xx
アーサー・ドーラン戦記 ~宇宙世紀パイロット列伝~
プロローグ4/6 泳ぐモビルスーツと駆けるモビルポッド
U.C.0079 11月某日
ホワイトベースの件からまもなく、他の連邦軍艦艇が集まりだし、ルナツーの戦力は増す一方だ。
そして、遂にルナツーでもモビルスーツの大規模運用が始まった。小隊規模の演習は毎日行われている。中隊規模以上の大掛かりな作戦も予定されており、今日はその演習で人型がわんさか泳いでいる。
モビルスーツの推力に慣れずまともに噴かせない新米の動きは、宇宙遊泳実習でノーマルスーツを初めて着たキンダーガーデンのちびっ子のようだ。
案の定、モビルスーツ同士の距離が離れはじめていた。
作業用ポッドの稼働時間は若い運び屋の自慢話によく聞く話題だが、ルナツーでは何を運んだかが話のタネになった。今も格納庫から戻ってきた若い船員たちがビームライフルを握っただの、ジムを何機牽引したのと話している。アーサーは話の輪には加わらず、モビルスーツを映すモニターをみつめていた。
アーサーはモビルスーツ訓練課程を終えていた。操縦技術の評価は悪くなかった。アーサーは自機の位置と方位を正確に把握できていたので、モビルスーツの(人型も“丸型”も)動かし方さえ理解すれば立ち上がりは早かったのだ。
どうということはない話だった。それというのも、この時代の作業ポッド類なんて貧相なものばかりで、対物感知センサーと距離センサーをスラスター付きのマジックハンドに乗せている程度のお粗末なポッドばかりだったから、船外作業員は天文観測や母艦や荷との距離を把握する感覚が自然と身についた。
輸送任務に従事する者なら、というより船外活動が多くなるポッド乗りには当たり前のことだった。
アーサーのポッド軌道はルナツーに来てから磨きがかかる一方だ。仲間内で推進剤のロスが少ないと評判になった。メーターを見なくても、推進剤とエアーの残り具合や自機の稼働時間くらいは容易に想像できた。
アーサーは自分の才能が開花するのを感じたが、それが戦時中なのが空しかった。
ーースペースコロニーや惑星往還船の建造に役立てたかったな。
戦争が終われば。ぼんやりと現状を悲嘆していると、ふと動きのおかしいジムが目に入った。
隊列を乱して飛ぶジムが一機、あらぬ方向へ流れている。立て直そうと焦ったのだろう、隊列方向に頭を向けてメインスラスターを強く噴かしたのが見えた。背中のスラスター光がモニターを一瞬覆った。
ーーだめだ。カメラと機体の向きがあっていない……!
アーサーにはパイロットがコクピットで見ているであろうモニター映像が手に取るように分かった。
パイロットはメインカメラが追う隊列へ向かって飛ぼうとしている。しかしモビルスーツは錐揉みしながら後方へ向きつつあった。次の瞬間……
後方を飛ぶ隊列のモビルスーツと衝突した。ぶつかられたジムは回転しながら流れ始めた。接触部位はよりにもよって頭部、メインカメラ付近だ。ぶつかられたジムのモニターは死んでいるかもしれない。
パイロットが冷静なら、コクピットハッチを開けて有視界で立て直すこともできただろう。しかし……
頭部を破損したジム一機は、見る見るうちにルナツーの陰へと流れてしまった。
ーーこのハッチなら間に合う!
ノーマルスーツを着ていたアーサーは待機所を飛び出した。作業用ポッドは推進剤の補充のため壁際に寄せられており、すぐに出られるのはボールだけだった。
ーーちくしょう丸型か!
人型機動兵器をモビルスーツと呼ぶものと思っていたが、連邦軍では「ボール」もモビルスーツと呼んでおり、ポッド乗りからは皮肉を込めて「丸型」とあだ名されていた。
エンジンに火の入ったボールに飛び乗り、開いたままのハッチから飛び出した。飛び出すまでの間にもジムは流れている。
ーー余計な動きをしてくれるなよ。拾えるもんも拾えなくなる
アーサーはジムを探して、ルナツーの陰へ飛んだ。
U.C.0079 11月某日
「此度のジム回収の功績と、その卓越したモビルスーツ操縦技術を称え、アーサー・ドーランを曹長に任ずる。おめでとう」
パチパチパチパチ
「おめでとうございます。アーサー曹長」
「アーサーおめでとう!」
「よくやった、アーサー曹長。上官として君を誇りに思うよ」
「また、此度の演習中の事故に関して、アーサー曹長をはじめ何名かより操縦技能向上に関する意見が上がっていることは、既に把握している。
「現在、コクピットモニターとシミュレーターのインターフェース改善作業を繰り上げて対応している。
「パイロット諸君のフィードバックにより、地球連邦軍のモビルスーツは更に安全で強力なシステムへと進化する。技術部と仲間を信じ、安心して任務にあたってくれたまえ。」
U.C.0079 12月某日
「初めはアーサーがフォワード、マモルがライト、マリアがレフトだ。
「ターゲットを確認次第攻撃、速やかに回避行動に移れ。回避後、ポジションをローテーションしながら索敵、全てのターゲットを撃墜しろ。チェックポイントへ到達して演習終了だ。
「撃ち漏らすなよ。チェックポイントで待っている」
「アーサー曹長、お願いします」
「マモル、私のお尻見ながら泳ぐのもうやめてよね」
「してないだろう!あの後は一度も!」
遠くで戦闘の光が見えた。撃たれたのは連邦か、ジオンか……
ーーあの光の中を俺たちも飛ぶことになる。多分、次か、その次の作戦で。
アーサー・ドーラン曹長は、コロンブス級補給艦トーメの護衛モビルスーツ小隊を率いる小隊長になっていた。
プロローグ⑤へ続く
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