ぼくコッシー
溺れるヨシタロウ
ヨシタロウの私への依存が加速している。
妻には3分に1回くらい怒られているが、私が怒らないからだろう。
もともと怒らないのもあるのだが、妻からも「パパまで怒ると不安定になるからやめてくれ」と言われている。
だが、加速がひどい気がする。
たとえば、白ごはんを食べずにこねくり回しているとする。
私はもはや、注意もしない。ただじっと、それはいかがなものかなという無表情で見つめるだけである。
「パパおこらないで!うわぁぁぁあ」
知らない高齢者に月2くらい道を聞かれるほど、私は人畜無害な外見をしているはず、怖い顔はしていないはずなのだが、微かな非難の波動を感じたヨシタロウは激しく動揺し、泣き始めたあげく
「パパ、ヨッくんのきらいになったの?」
メンヘラみたいなことを言い出す始末である。
「そんなことはないよ、パパはヨっくん大好きだけど。おなかはいっぱい?」
「けっこうたべたよ」
「そう」
結構食べた、ねぇ。茶碗1/4くらいじゃないか、ご飯の10分前までクッキー食べてたからじゃねえのか、そんなことを思っていると
「『そう』っていわないでよ!!わぁああああ」
私のそう、に、微かな非難のニュアンス、塩対応を感じたヨシタロウはまた号泣するのだった。
そのうち、サバイバルナイフ1本で樹海に放つとか、できればピッコロさんにしごいてもらって恐竜の尻尾を食うくらいまで行って欲しいが、とかをやりたいのだが恐らく違法だと思われるのでそれもできない。あと、ピッコロさんはフィクションだ。
「パパだっこして」
そうして今日もエンドレスに抱っこをさせられる。私がいる限り、ヨシタロウは地面に接することがない。座る時も私の膝上である。
「パパはイスじゃないのよ、コッシーじゃないのよ」
みぃつけたの人気キャラクターを引き合いにして、今度は明確に非難しても
「パパもうちょっとゴロンして」
ただ座り心地を追求してリクライニングさせられるだけだ。ヨシタロウの自立は、遥か遠い。
父こと私の仕事の近況
社内ラジオというのがあり、頼まれて月1くらいパーソナリティーとして喋っている。ただひたすらサウナの話、それも地方のサウナのレビュー、サウナ室あるべき構造や熱波師についてなどめちゃくちゃマニアックな話を好き勝手しているのだが、いつの間にかそこそこ認知度が上がったようで社内で会う人会う人に「芳川さんて、サウナの芳川さんですよね」と言われるようになり、この間は知らない髪の毛がツートンカラーになってる若そうな女の人に「いつも楽しみに聞いています」「お声を聞いて元気をいただいてます」と言われ、これはもうファンの方?なのか?みたいな事案も発生してきて戸惑う。
それでいて、12月から1人、1月からもう1人、私の元で働きたいという異動希望の人の研修をするらしい。
基本的には嬉しいことなのだが、これらは人気ということでなく、ヨシタロウの精神弱体化を見るに私は単にメンヘラを量産する才能があるだけなのではないかと、不安になる。
続・溺れるヨシタロウ
どつせ椅子よ、と私がゴロンと倒れてヨッくんの最適と思われる角度で固まる。そう、ヨッくんはおれのこと喋る椅子だと、野生のコッシーだと思ってるんだろ。
そう呟くとヨッくんは父を見て首を横に振る。
「パパ。パパは、コッシーじゃないよ」
えっ嬉しい。
「パパは、コッシーじゃない。タクシーだよ」
えっ悲しい。