【ネタバレあり】パンどろぼう全巻レビュー
パンどろぼう。流行っている。保育園で絵本を読んだようで4歳ヨシタロウがハマったため、我が家でも絵本を既刊分すべて取り揃えた。
めちゃくちゃネタバレだが、既刊の4冊のあらすじを解説する。
1.パンどろぼう
記念すべき第一冊。主人公ことパンどろぼうは「食パンをくりぬいて被ったネズミ」であり、彼が様々な美味そうなパンがあるパン屋に行き、めちゃくちゃパンを泥棒する。
めちゃくちゃ美味そうな見た目なのだが、めちゃくちゃまずい。
ニコニコしたパン屋のオッサンにバチギレするパンどろぼう。「おい、めちゃくちゃまずいじゃねえか、ふざけんな」
パン屋のオッサン、それに応えて「いやまずいのはスマソだけど、泥棒するなし」
パンどろぼう「それはまあ確かにごめんだけど、このマズさはヤバいって。ちょっとオッサン、一回おれに作らせてみ?なんせ、世界中のパンを盗み食いしてきたから舌は肥えてんだ」「マジ?よろ」
そして一緒に美味いパンを開発、販売して繁盛。めでたし。
2.パンどろぼうvsにせパンどろぼう
いきなり偽物が現れて、オッサンとパンどろぼうのパン屋からめっちゃパンを盗まれる。ちなみに、にせパンどろぼうの正体は同じくくり抜いたパンを被ったリス的な小動物だったと思う。
追跡して説得、オッサン製の不味いパンを食わせて行動不能になったタイミングで「ていうか泥棒は良くないぜ、一緒にパン作ろ?」って、おま、お前、どの口で泥棒を悟しとんねんであるが、とにかく説得して良い感じのレーズンパンを一緒に作って、また、繁盛する。めでたし。
3.パンどろぼうとなぞのフランスパン
物語構造的には前巻とだいたい同じ。今度はデカめのフランスパンをくり抜いた猫が、泥棒ではなくオッサンとパンどろぼうの店で破壊工作を実施。いつの間にか舎弟になっていた「にせパンどろぼう」の捜査協力を経てデカめのフランスパンを追い詰めると、中身が猫。パンどろぼう本体であるネズミの天敵であるが、例によって手持ちの、「オッサンのめっちゃマズいパン」を食わすことで行動不能にしたタイミングで「ていうか、一緒にパン作ろうぜ」と説得し、また繁盛し、めでたしである。
4.パンどろぼう おにぎりぼうやのたびだち
ここでまさかの主人公「おにぎりぼうや」である。おにぎり屋さんの一人息子、様々な具材のおにぎりを売買して生計を立てている、見た感じ経営も順調そうな家庭である。おにぎりぼうやは、構造的にはおにぎりをくり抜いた中にネズミが入っている。あれ?これは…?
それにしてもこの家、商売もおにぎり。家の食事もおにぎりである。
おにぎりぼうやは、「おにぎりばっか、もうええてー!」とグレる。
そうして家出したおにぎりぼうや、カラスの襲撃により大回転して吹っ飛んだ先で、たまたま良い感じのパン屋のオッサン(これまでに出てくるオッサンとはまた別のパン屋オッサンである)に出会い、なんとなくパンをもらって食ったところ「なんこれ、めっちゃウマ!」と感動。
帰宅してから「なぁオトン、ワイはおにぎりじゃなくてパンの研究したいねんけど」と申し出たところ、オトン激昂、お互いにおにぎりの良さ、パンの良さを語り合う舌戦を繰り広げるが、最終的に「ていうかもらってきてるから食べてみて」「…イケるやん!」みたいなことになり、オカンの「若いんやし、やりたいことやらしたったらええやん」的なサポートもあり、おにぎりぼうやはおにぎりスーツを脱ぎ、そして食パンスーツを装着。そう、みんな分かっていたがまさに「パンどろぼう」スタイルになって、一人実家を離れてパンを求める旅に出るというビターエンド。いわば「パンどろぼう ザ オリジン」である。ちなみにオトンは最後泣く。
つまり時系列的には、4→1→2→3、ということだ。
で。いくつか言いたいことがある。
そもそも、パン「どろぼう」
最初に書いた通り、我が家の長男ヨシタロウ4歳がハマっている。パンどろぼうの着ぐるみが来るって言うんでデカいイオンに出かけさせられるほどだ。
パンどろぼう。確かに面白い。可愛い。
「でもヨッくん。パンどろぼうって、泥棒だからね。悪いことだからね」
ヨシタロウは困惑していた。そして、考えた挙句こう言った。
「でも、つかまってないよ?」
そうである。作中、警察機構や、裁判所等の司法機関の概念が出てくる気配がない。めちゃくちゃ無法地帯である。いやまあ、「つうかネズミだから刑法関係ないのか?」という観点もあるが、どうだろうか。人語を解してパンを作って商いを行えるネズミである。もはや刑法を適用して何ら問題ないように思える。ヨシタロウの遵法意識に関わるのでどうにかしてほしい。
そして悲しいのは、「パンどろぼう」の出自である。
実家は明らかに「おにぎり屋」つまり飲食店である。おにぎりを製造、販売して、そこで得た対価の金額から、材料費、水道光熱費、住宅ローン、生活費などを差し引いた僅かな利益で一家が暮らしていたはずだ。「おにぎりぼうや」こと「パンどろぼう」は会話内容からそれなりの知性を持っている。生家の苦労が分からないとは思えない。
4で、パンを求めて旅立ったのに、いきなり1ではもう「パンどろぼう」である。人様の飲食店の商品をそれはそれは意気揚々と万引きして食べている。
転落がすごすぎないか。没落の仕方が最悪じゃないか。何があったんだよ。
だってじゃあ、仮に私が、江戸時代から続く老舗蕎麦屋の20代目とかだったとしよう。
息子、ヨシタロウに21代目になって欲しかったが、「ワイ、ラーメンの方が好きかもしれん。ていうか大好き。ごめん、おれこの家出て、ラーメン極めるわ」なんて言うから、ま、ヨシタロウの人生だからと学資保険を解約し持たせ、「辛くなったらいつでも帰ってくるんだよ」と言って送り出す。見えなくなったくらいで泣く。
そのあとどうだろう。「都内で連続ラーメン食い逃げ事件」が発生し、その容疑者として息子ヨシタロウの中学校卒業アルバムの写真が夕方のニュースにドン。
えっ。
そんなことになったら、私は正気を保てる自信がない。
パン屋のおっさんの謎
そして、1で出会う「マズいパンを作るオッサン」の異様さである。見た目はめちゃくちゃ美味そうだし、種類も豊富だ。なのにシリーズを通して、ほぼ「兵器」として描かれるマズさを誇るパン屋である。
なぜこのオッサンはパン屋なのだろうか。
味覚がブッ壊れているが手先がめっちゃ器用ということなのか。意味がわからない。「パンどろぼう」が来るまでは商売がどうなっていたのか、銀行はこのパン屋になぜ融資したのか。それともめちゃくちゃな金持ちが純度100パーの娯楽としてパン屋をやっているだけなのか。いずれにせよ「狂ってるな」という印象が拭えない。
かつてイタリアのマフィア、アル・カポネがコインランドリーを運営することによって、違法に得たお金を資金洗浄したように(いわゆるマネー・ロンダリングの語源である)このパン屋のオッサンも、本当は小麦粉でない別の白い粉の商いがメインで、カモフラージュでパン屋をやっている。というのが一番筋が通る。
めちゃくちゃ怖い。
言ってなかったが、店の屋号は「世界一おいしい森のパン屋」である。
めちゃくちゃ怖くないですか。
5.パンどろぼうとほっかほっカー
そんな私の戸惑いと恐怖、パンどろぼう父へのシンパシーを尻目に9月に5作目となる新刊が出るらしい。
表紙絵の情報しかないが、パンどろぼうがパン型の自動車、おそらくこれが「ほっかほっカー」なのである。こういうのは照れずに説明し切っておきたいが、「ほっかほっか」という焼きたてパンの温かさの形容と、車を英訳した「カー」がかかっている。
私が心配なのが
「この車は違法改造車と見られるが車検は通っているのか」
ということと
「パンどろぼうは普通自動車の運転免許を所持しているのか」
の2点である。残念ながら、「違法改造車」を「無免許運転」している「パン連続窃盗犯」としか思えない。そして助手席には、なんらかの粉が入っている袋を運搬していると思われる。
もはや万引きとかそういう次元でない、インターポールとかが出てくる大スケールの犯罪に手を染めていそうな新刊から目が離せない。
↓追記 というわけで、新刊もレビュー済みです