シーズン2開幕 男性育休記2-1
朝の咆哮未遂
4月16日、土曜日午前9時。
3歳児も0歳児もまだ寝ている。幼稚園は土曜は休みだ。別に外出の予定もない。だから私も妻も、ただ無言でスマホを見て子たちが起きるのを待っている。
妻の方は知らないが、私はゴールデンカムイ全巻無料を読んでいた。
ゴールデンカムイ、前から読んでいたけどせっかく全巻無料なのであらためてスマホで1話から読み続けている。面白すぎてときどき震える。noteなんてみんな読むのも書くのもやめて、4月28日の公開終了まで何周でもゴールデンカムイを読む方が実りのある人生だと私は思うが、どうだろうか。
「パパは?おしごと?」
3歳児が起きたようだ。平日の場合6時には出社のため寝室から消えていくので、たぶん朝起きたら居ないのが普通だと、彼は思っている。遮光のカーテンで寝室はまだ暗く、父の存在に気づいていない。
「ねぇママ、パパはきのうなんでかえってこなかったの?」
私が昨日遅く帰ったのではなくて、3歳児が昼寝をしなかったので19時くらいに寝てしまったので、彼が起きているうちには帰れなかった。妻は、3歳児に何も答えない。だって、私は、居る。議論の前提が間違っている。
「ねえ、パパはまたおしごと?パパはヨッくんのこと、だいすきじゃなくなったのかなぁ?パパはもう、ヨッくんだいすきじゃないのかなぁ」
そんなことになっていたのか。育休が終わって3ヶ月半。平日は仕事のせいで会えない夜もあるが、その分土日は48時間をヨッくんに捧げていたのに、こんな風に言われていたのか。愛を疑われる局面まで来ていたのか。父は悲しい。父はここにいる。父はまだ死んでないぞ。
「俺は不死身の芳川だ!」
今ほどまで読んでいたゴールデンカムイの主人公、杉本佐一の決め台詞をなぞり、立ち上がって叫んで存在感をアピールしたくなったが、元ネタも伝わらないし、朝から大きなキョトンを産むだけなので自重した。芳川で言えば妻も子も芳川だし、あと不死身でもない。だから生命保険にも入っている。
「パパ、あっちにいるよ」
「あ、パパだ!おしごとじゃないの?」
妻のリークを受けた3歳児がベッドを走りながらこっちに向かってくる。0歳児を乗り越えて、私にタックルのように抱きついてくる。
「ヨッくんパパだいすきなんだ。きょうおしごとじゃないの?」
「パパも大好きだよ。お仕事は、昨日で辞めたからもう毎日一緒だよ」
俺は無職の芳川だ!
今度はそう叫びたくなったのだが、また同じ理由で自重した。
登場人物紹介
シーズン2ということで改めて自己紹介をここで挟みたい。
・父こと私、芳川
50年以上続く歴史ある出版社で「創業以来初の男性育休者」の名を欲しいままにしていたが、辞めたので無職である。
正確に言えば、4月いっぱいが有給消化、5月1日から次の職場だがいきなり有給付与と消化があって、出社は5月9日月曜である。なので、別に無職でもないし、育休でもない。でもまあ、この休暇で育児しかしないと思うので、そしたら「育児休暇」ということでよろしいですか。
・妻
2児の母でジャニオタ、基本的にDDだが最新の担当はなにわ男子の大橋くん。こちらも育児休暇中であり、2022年10月頃からの復職を狙っている。妻の両親が、隣の一軒家に住んでいて廊下で行き来できる、いうたら二世帯住宅がこの日記の舞台である。
次男の出産によって始まった、私の育休中(2021年10月末〜12月末)は、3食を夫(私)が作っていたので料理をしておらず、それが明けた2022年1月からは3食母親(私から見れば義母)に作らせている。
「奥さんも育休なんですよね?芳川さんがごはんを作って、じゃあ、奥さんは、何してるんですか?」と私が他所で聞かれるときの回答は「授乳とか、してます」で統一している。それ以上言うと、誰かが傷つく。
・長男 ヨシタロウ 3歳児
いい加減名前を表記しないとその方がめんどくさいので、ダサい偽名をつけてみた。
昨年末の育休でのフルコミットによって、かなり父寄りにもってこれたが、育休が明けることによってまた母寄りに戻った。
と思っていたのだが実際はそうでもなく、最近は幼稚園でクラス一のワル認定をされるほどいたずらボーイになってしまい、妻に怒られてばかりなので、相対的に滅多に怒らない父に甘えるようになってきている。漁夫の利である。
最近、きかんしゃトーマスよりシンカリオンが好きになってきているので肝を冷やしている。シンカリオンは高いから。
そっとズボンとオムツをめくっておちんちんを丸出しにして「パパみて!」と叫んでくる危険な一発ギャグを持っている。
こないだの夜は寝る前にうっとりした顔でこんなことを言っていた。
「ヨッくん、おしりがだいすきなんだ。あと、うんちもだいすき!」
「そっか。パパもだよ」
・次男 ヨシスケ 0歳5ヶ月
先日から、離乳食を始めた分、母乳の摂取が減ってきたので、寝かす時に妻の必殺「添い乳」の効きが弱くなった。なので、私が抱っこしてスクワットして寝かせる場面が増えた。妻は腰を痛めて、2児のどちらも抱っこしたがらない。
父譲りの巨大な瞳を持っており、妻と義母から「これは芸能界入りできるのでは?」ともてはやされているが、小さい頃の自分に激似なので、将来的にはカッコよくならないビジョンが私にだけはっきり見えている。
確かに私は今も目がデカい。でも、この目のデカさがどこに向かっているかというと西川きよし師匠だ。メガネを外して眼球を飛び出させるときだけ、役に立っている。だがその事実を妻と義母になかなか言い出せない。彼女たちの考える「芸能界」はたぶん吉本興業ではない。
私の心配とは裏腹に、電車とか幼稚園とかで知らん人に褒められまくるヨシスケの眼力、それによって調子に乗っていく妻と義母は、いつの間にかヨシスケの写真を取ってテアトルアカデミーに応募したらしい。「そんなには可愛くなくない?いやまあ、どちらかといえば可愛いとは思うけど、金になるほどではなくない?」という私の本音を、立場上言えず、ヤキモキしている。
あと、隣家に義父母が住んでいる。
寝床のある2Fで猫を2匹飼っている。
これが現在芳川家を取り巻くメンバーである。
4/16(土)の出来事総括
ようやく起きたヨシタロウに菓子パンを食わせながら、本日のご希望をヒアリングした結果、一家4人で「トーマスタウン」に出かけることになった。
めちゃくちゃ小金を取られた。
帰りがけにハッピーセットでトミカのおもちゃをゲット、それで家で遊ぶ。遅い昼食をとる。
妻が腰痛のため整体に行くということで、夕方は一人で2児を見る。
ヨシスケを抱っこしていると、嫉妬なのかヨシタロウも抱っこして!と言ってくるので、8キロと16キロを片手ずつで持つことになる。けっこうしんどい。
夕方、テアトルアカデミーから2次審査合格の通知が来た。こういうのってみんな合格出して登録するから写真撮るっつって20万とか30万とかとる、そういうやつなんじゃなかったか。そういう手口なんじゃないのか。だがまだ狂喜乱舞する妻と義母にそれを言えない。
夕食は、手巻き寿司にした。
夜、寝かしつけが終わってからゴールデンカムイの続きを読む。とうとう最新話に追いついてしまった。ちょうどいいので、また育休日記を再開することにする。
俺は無職の芳川なのだから。暇なのだから。