【ネタバレ】パンどろぼうとりんごかめん レビュー
パンどろぼう新刊が出ましたので、さっそく購入し、
子たちに音読も2周しましたので、レビューしていきたいと思います。めちゃくちゃネタバレしますので気になる方はスマホをGEOに売るなどして回避してください。現金も手に入るし。
・配達するパンどろぼう
前回、違法改造キッチンカー「ほっかほっカー」を入手したパンどろぼう。おそらく無免許運転、納税とか、保健所の許可とか、個人事業主としてインボイス登録とか、いろいろ無法地帯ですが、パンの配達はしてます。
今回は、主にりんごを生産している、人語を解する二足歩行ニワトリが経営する「コッコのうえん」に配達に来たところ、ニワトリさんがテンション爆下げです。
「どしたん」
「果樹園がめちゃくちゃ荒らされてて、激萎えですわ」
「まじか、うわ、これヒド、おれちょっと見回って犯人とか捕まえようか?」
「さんきゅな」
この時点でいくつかツッコミどころがあるので、きちんと突っ込んでいきたい。
・ニワトリさんのメンタル、パンの魔力
自身の生業であるりんご園が、何者かによって徹底的に荒らされ、絵から読み解くに「今季の出荷は絶望的」と見える状況のニワトリさんである。
そのタイミングでパンの配達を頼むというのはまじでなんなのだろうか。
私も、生きていると困難な局面にあたるときはある。例えば、絶賛カワイイの「旬」である2歳児ヨシスケが、「ママだいすきー」と言い、5歳児に対して「にいにだいすきー」と言っているので、これはもう流れでそうでしょう、これはもう出来レースだけど一応もらっておこうと「パパは?」と聞くと、「パパだいすきじゃない」と真顔で返してきて、3段落ちとしては素晴らしいのだが、父としてはマジ凹みをし、この場合私は
「強い酒を飲みたい」
「できればサウナで3セットほどキメたあとに」
「強い酒をガブガブ胃に流し込みたい」
と思う。
しかし、ニワトリさんにとって、それは「パンどろぼうのパン」。私にとってサウナや酒が高い中毒性、依存性があるのと同様に、パンどろぼうのパンはもはやそんな領域になっているのだ。
あのパン、なにが入ってるんだろうか。
あとヨシスケ。愛していると言ってくれ。
・犯人との遭遇
見回りしてあっさり犯人と遭遇する。大小2人組の、二足歩行イノシシさんたちがめちゃくちゃに荒らして、めちゃくちゃりんごを食い散らかしていたのである。
「おい!そういうの良く無いと思うぞ!
ひとんちのりんご、食べたりさぁ!悪いぞ!!」
早速注意するパンどろぼうだが、そういえばパンどろぼうは、作中で兵器として描かれる「例のおじさんのパン」の元から独立開業してしまったので、兵器パンの持ち合わせがないはずである。体躯にして8倍くらいはありそうな暴漢ならぬ暴イノシシを、どうやって制圧する気なのだろうか。
そして、そもそもパンの無銭飲食を繰り返してきた自分は出頭、裁判、禁固刑や罰金刑などまったく無視してきたくせに、よくもまあ他人の簒奪行動をそんなテンションで注意できるなぁ、すげぇなあパンどろぼさんよぉ。主人公様はエラおますなぁ。
「うまそうなパンだな」
「食おうぜ」
そして、そういえば忘れてましたが、パンどろぼうさんは外観的には「パンそのもの」なので、りんごを食い荒らすイノシシさんたちには普通に食料に見えます。やばい、パンどろぼうのピンチだ!
パンどろぼうは走って逃げますが、バナナの皮を踏んでコケるなどをし(ちなみにですが、このコケるシーンがこの絵本の最大の山場です)(少なくともうちの5歳児はそう思ってます)
いよいよつかまる、食われると思ったらそのとき!
「そこまでだ」
颯爽と現れる、飛行するりんご。あれ、またこれは中に、飛んでるから鳥さんでも入ってるんかな?
「おれはりんごかめん。おれは今から、お前たちを殴る」
良い感じで登場するのですが、皆さんよくかんがえて欲しいのですが、パンどろぼうが外観的にパンであるように、りんごかめんも外観的にはただのりんごです。
「りんごまだあった、食おうぜ」
当然そうなるイノシシさんたち、いよいよパンどろぼうも、りんごかめんも、捕食されるのか?とおもったところ、スポポポーンとそれぞれの着ぐるみとしての「内側をくり抜かれた食パン」「内側をくり抜かれたりんご」が吹っ飛び、なんかよく分かりませんが大小イノシシさんのお口にインします。りんごの中身はちなみにニワトリさんの子のヒヨコさんでした。
どいつもこいつも、生家の主力商品で遊ぶなよ。
・意外な方法での制圧
「はっ?!おれたちは何を…」
りんごの方は分かりませんが、パンの方は「年単位でパンどろぼうが着ていたパン」。パンの消費期限もですが、着ているのも不衛生とされるネズミなので、掛け算でめちゃくちゃやばい、食中毒待ったなしと思うのですが、イノシシさんは胃が強いのでしょう、正気に戻る、という謎効果となりました。
「おれたち、なんかサーセンした」
「山に食べ物がなくて、つい果樹園いっちゃいました」
ほ。ほーん…。
・改心と果樹園再建、パン作り
そのあとは、例によって泥棒のくせに偉そうに「お前らも生産者の大変さをわかれよ」みたいな理論を大上段から振りかざすパンどろぼうの指導の下、ボロボロになった果樹園をみんなで再建、そして「次のシーズンのりんごが成る」、つまり推定1年はみんなでDASH村みたいなことをして、ふたたびりんごが復活。その他、キウイやらミカンやらも含めて良い感じのでっかいフルーツサンドをこしらえて、うめー!めでたし。
・柴田ケイコ先生版「もののけ姫」
大人気シリーズも6巻目となり、いよいよ魔人ブウ編のドラゴンボールくらい「これは本当に鳥山明先生が望んでいることなのか?」と思わなくも無い、なんか主題の見えないストーリーに一見感じるのですが、パンどろぼうの洞察を人よりやたらしてきた私にはわかります。
これは、「もののけ姫」です。
まず、おそらく人間側の利益のために山野が開発され、結果的に人里に降りざるを得なかったイノシシさんたち。そして、人間から見れば盗み食いと破壊という悪辣の限りを尽くす。あのイノシシたちは、祟り神となってしまったオッコトヌシ様なのである。
そうすると、パンどろぼうは「アシタカ」、勇敢なりんごかめんは「エボシ御前」である。
もののけ姫においてアシタカは、魅力的な人物として描かれる面もあれば、婚約者と思しきカヤを捨て、それだけでなくカヤにもらったネックレスを「お前は美しい」とか言って他の女(サン)にあげちゃう、あと普通に祟り神も殺すし、力を制御できず武士も殺している、悪を孕んだキャラクター造詣になっている。
この点、パン「どろぼう」は、本作内でどんな良い人ムーブをしても所詮どろぼうという点で、アシタカと共通点が多い。
つまり、人間側、自然、古き神々が渾然一体となり、皆で文字通り手と手を取り合ってフルーツサンド作って一緒に食べてこ?争いなんてやめてフルーツサンドでも食お?という、高次元での倫理的解決をみせた、柴田ケイコ先生なりの「もののけ姫ハッピートゥルーエンド」が、本作なのである。素晴らしい。あしたまた、音読しようっと。
ちなみにパンおじさんがカヤ、
甲六がニワトリさん、
ほっかほっカーがヤックル、
パンが、「サン」だ。
異論は認めない。黙れ小僧。