絵本で子育て〜『パンやのくまさん』仕事をするとはどういうことか
パンやさんの1日が朝から夜寝むまでがとても丁寧に淡々と描かれています。その仕事ぶりは誠実・実直・礼儀正しさ。子どもたちはその言葉を知らなくてもパンやのくまさんの姿をみることで理解することでしょう。
やや小ぶりのサイズの絵本は、小学校の教室で20人の読み聞かせで読むより、図書室で数人の時に読む絵本でした。
表紙のどこか懐かしい絵のタッチは野暮ったくさえみえます。
はじめて出版されたのは1979年、アメリカ。日本では1987年に訳されています。
仕事の流れをきちんと知る
この絵本にはパンやさんが、どんな仕事でどんなものが必要で、なにをするのか実直に描かれています。
1日の流れがそのまま物語となっており、朝起きて眠るまでのおはなし。
そんなの面白いの?
面白いですよ。
それは「パンやがくまさん」だからではないかと思います。
さて、ひとまずパンやのくまさんの1日を追ってみます。
最初のページにはくまさんの紹介。
お店がなくてはパンやはできませんし、ちゃんと車も持っていることが書いてあります。
・朝はとても早く起きて、かまどに火を入れながらお茶を飲む
・エプロンをかけパンの生地をつくる
・生地がふくらむ間に朝ごはんを食べる
・パンやケーキが焼きあがると、半分はお店に並べ半分は車に積む
・運転して通りで鐘をならしてパンや来たと知らせる
・近所の人たちが出てきてパンを買っていく
・誕生パーティのケーキを届ける
・店に戻り店番をして近所の人たちがパンを買いに来る
・お店にきた子どもたちにキャンディーをあげる
・パンが全部売れてお店をしめて、晩ごはんをたべる
・ごはんがすむとお金を数え、貯金箱にしまう
・2階にあがって目覚まし時計をかけベッドに入り眠る
これがパンやさんの一日です。
パン作り、店番、車での移動販売、ケーキのお届け、会計まで、すべてひとりでこなします。
淡々と語られる文は左にずっと配置され、右に絵が描かれています。
絵本を読んでもらいながら絵を見ているといろんなことに気がつきます。
・大忙しのパンやさん、ごはんは朝晩の2回なんですね
・台所には石炭があるからそれで火を起こしているんだ
・パンを寝かす時にはちゃんと布をかけて発酵をまっています
・朝ごはんはハムエッグ?コーンフレークも食べてる?
・お店のなまえは「Taddy Bear Baker」なんだ
・子どもにキャンデーあげてる時間は3時だった
・お店の掲示板に「自転車ゆずります 5さいむき」「乗馬レッスンいかが」「ダンスパーティー」の案内
・レジがタイプライターみたい
・晩ごはんを食べる部屋には立派な暖炉。マフィンを火にあぶってる
・赤い瓶はイチゴジャム?
・大きなソファに読みかけの本がおいてある
・お金の勘定しているくまさん、ペンはつけペンを使ってる
・夜8時にはベッドへ。釣りの本がベッドサイドに(釣りが趣味?)
・パッチワークのベッドカバーがかわいい
・まくらは2つ重ねるの?
・壁紙が花模様
・コック帽は寝る時だけはずすんだね
何気ないいつもの1日の様子が描かれ語られていますが、くまさんとそのまわりの暮らしぶりが見えてきます。
近所の人たちがくまさんのお店に来るのは、きっとくまさんが礼儀正しいからでしょう。
と、こんな文があります。
なぜ、くまさんのお店が繁盛しているのか「ちゃんと理由がある」ということなのでしょうか。
イギリス的な感じだと思ってしまいました。(笑)
細部にこそ絵本の楽しみは宿りますね。
「くまさんがパンや」さん、現実でありながら現実でない世界観を楽しむ
テディベアとは「くまのぬいぐるみ」のことです。
その名前は第26代アメリカ合衆国大統領セオドア・ルーズベルトに由来する(Wikipedia)そうで、一方ドイツでも同時期にシュタイフ社がクマのぬいぐるみを大量にアメリカに輸出したとか。
世界初のテディベアメーカーとしてシュタイフ社は有名です。
私の印象ではテディベアはイギリスの印象が強かったので意外でした。
『パンやのくまさん』はイギリスの絵本だったからかもしれません。
この絵本の世界は不思議です。
もちろん絵本では動物と人間たちが自然に関わりあったものはたくさんありますが、人形にくま「テディベア」が主人公というのはユニークです。
ぬいぐるみのくまが、絵本の中を動き回るのは、不思議な感じ、でも面白い。
背景も登場する人間たちも(パンやのお客さんは人間なのです)なんだか人形のようにみえてきます。
色彩も大人しめのパステルカラーで水彩絵の具をまだらに塗った感じで物語に違和感なく自然に溶け込んでいます。
人の表情はむしろ蝋人形のようで、くまさんのほうが生き生きして見えるのは私だけでしょうか。
もしかして人形なのは人間も、なのかも……と思えてきます。
テディベアと遊んでいたら、その世界にいつの間にか入り込んでいるかのような錯覚を起こすのです。
最初は違和感を感じていた絵本のなのですが、いく度となくながめ読むうち、その錯覚が楽しくなりました。
子どもたちはむしろその錯覚を自然に受け入れ自分のものにできる人たちなのでしょう。
人形に話しかけ人格を与え、一緒に楽しみ、泣いたり、笑ったり、怒ったりしていますね。
きっとそんな彼らにはこの絵本の世界がすーっと入ってくるのでしょう。
現実を忠実かつ具体的にまでに描いた絵本は、実は超空想世界の産物だったのかもしれませんね。
さいごに
この絵本は息子が絵本を読み始めた頃よく読んでいました。
小学生になっても時折読むと、(数年前のことなのに)懐かしそうにしているのがおかしかったです。
子供時代でもきちんと過去が存在しています。
高校生になったときも絵本をながめて「シュールだね~」なんていっておりました。
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パンやのくまさん
フィービとセルビ・ウォージントン さく
まさき るりこ やく
福音館書店 1987年出版