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絵本で子育て〜夏に読みたい『沖釣り漁師のバートダウじいさん』

主人公はおじいさんとクジラ、そして海。刻々と変わる状況に見事に対応し生還します。どんな時もユーモア持つ、楽観主義は生きるのを楽しくするコツかもしれません。さて子どもたちはどんなふうに読むのでしょう。一緒にお楽しみください。


海といえば…

海水浴
空が広いところ
その先に陸がある
深い
星がよく見えそう
大きい波
生物が棲む
底に沈むもの

想像力貧困な私の発想はこんなものですが、この絵本の作者マックロスキーの想像力たるや痛快なものです。

海の平穏さ、壮大さ、荒々しさ、多様さ、優しさ、美しさが楽しく描かれています。

鮮やかな色彩に彩られた物語と海のと空の色の見事な表現を楽しむ

濃いピンク、レモンイエロー、落ち着く緑、優しい青、元気の出る赤、光る白、真っ黒な黒、色彩の豊かな絵本です。

また舞台となる海の表現が、とびきり見事です。

遠くに見える海は穏やかでカラフルな舟・潮まかせにぶつかる波は勢いがあって舟に揺られているよう。

くじらが現れる海の荒々しさは大迫力、 嵐に変化していく空と海の色の変化や波の様子が有機的に描かれ、騒ぎが一段落する海の薄桃色の空と海の色。

海と空の変化を見るだけでも、その多彩さに驚きます。

海の七変化と迫力のストーリー

タイトルどおり「沖釣り漁師」である「バートダウじいさん」は、海へ漁に出かけます。

相棒となるカモメ、海で遭遇するクジラ。

マックロスキーの生き物は、生き生きして表情豊かです。

彼らの表情はとてもユニークで、いまにもしゃべりだしそうです。

もちろんおはなしも飛び切り面白い。

~気まぐれエンジンのついた、潮まかせという名の
こいつもふるい両船首の舟だった。
~潮まかせは バート・ダウじいさんの埃だし喜びだった。

舟への愛着を感じます。

ペンキ塗りの仕事で残ったペンキをもらってきては、潮まかせにぬってやります。

「あのピンクの外板は、ジニー・プーアさんとこの食器部屋の色だし……、
みどりのは、おいしゃのウォルトン先生の待合室の床と戸の色だ。
黄色は、パスケル船長さんの家のポーチのかざりの色」というわけだった。

細かな設定がリアリティを引き出しています。

仲良しのカモメが「おしゃべりかもめ」、舟が「潮まかせ」、調子の悪いエンジンを「気まぐれエンジン」と、ネーミングが楽しい。

さて、おはなしは、年とったバート・ダウじいさんがひとりで海に出て、なんとクジラのしっぽを引き当ててしまいます。

そうこうするうち、海が荒れてきて、なんとクジラのの中へ避難することに。

クジラの胃のなかの綺麗なこと。

非難したはいいが、今度は出なくてはいけません。

吐き出してもらうために、胃のなかでペンキをぶちまけたり棒でつついたり、クジラにとってはいい迷惑ですね。

「だばーッ!」とくじらばき!潮まかせは、
がっしりした手で かじ棒にぎったじいさんのせて
おしゃべりかもめをしたがえ、気まぐれエンジン
全開のまま おっぴらいたくじらの口から
チャカチャカバンと とびだした。

こんな具合に脱出したのはいいけれど、そこはくじらの群れのど真ん中。

くじらたちは最初に釣りあげられて、しっぽにカラフル”ばんそうこう”を、つけてもらったくじらよろしく、自分たちもばんそうこうをつけてもらいたいと、バート・ダウじいさんに催促します。

満足げに隊列をなしてゆく、くじらたち。

茜色の海の空のもと悠々と帰途につく潮まかせ。

こんな海と空をみてみたい、と思わせる心に残る景色です。

思わず、ヘミングウェイの『老人と海』のよう、と思いました。

海の広さ、くじらの大きさを感じる

この絵本を開いていると、海は広くて深くて、くじらは大きくて、重くて、悠々としているんだなぁ、と思います。

版が大きめ(28.8x23)で見開くとA3よりやや大きめでしょうか。

子どもたちの目にもきっと大きく映ることでしょうね。

時にはアップでくじらの口が描かれ、時にはひいた構図で海の大きさやまわりの状況が、うまく描かれています。

くじらの口の中に避難しようとする舟(バートダウじいさん)の覚悟がみえます。

大きなクジラが、バートダウじいさんにしっぽを釣り上げられたときに、カラフルな絆創膏を貼ってもらいます。

描かれる絵にもかならずしっぽの片隅に絆創膏が描かれていますが、その対比が面白いですね。

巨大なものと小指ほどの大きさのもの。

それをくじらは気に入っているわけです。

最後に隊列をなしてうれしそうに去っていくカラフルなくじらたちの様子に、海の懐の深さを感じました。

『老人と海』を子どもと読む

小学3年生の時息子とこの絵本を読んだ後『老人と海』を勧めてみました。

面白く読んだようで、夏の読書感想文を書いていました。

海という場、人間とそれに対する生きもの(魚)。

これしかない、という状況での人間の生命力や自然を感じることができる作品です。

わたしが住んでいるこの場所は、海を見るのに1時間は車を走らなければなりません。

海の持つ開放感と浪漫、未知への憧れや挑戦を飲み込まれそうな広大さ…

「海好きは詩人」というのが、うなづけます。

ちなみに、「山好きは哲学者」なのだとか。(「海好き~山好き~」は昔、脚本家倉本聰のドラマのなかの台詞にありました)

◉◉◉
沖釣り漁師のバートダウじいさん

ロバート・マックロスキー さく
わたなべ しげお やく
童話館出版 1976年発行


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