東京都に生活保護申請促す広報・宣伝を求める要請書を宇都宮健児さんらが提出
都政監視や都政改革の提言を行う市民団体「希望のまち東京をつくる会」(宇都宮健児代表)は28日、小池百合子東京都知事と吉村憲彦福祉保健局長宛に年末年始における生活保護の申請手続きなどに関する問題、制度設計の問題点について改善を求める要請書を提出した。
同会代表の宇都宮健児氏は、「新型コロナウイルス感染症の拡大の影響によって、多くの人々が仕事を失い、住まいを失うなど生活に困窮し、生存が脅かされているなか、特に年末年始にこうした人々が急増する恐れがある」と指摘。12月22日には厚生労働省が生活保護の利用を促す異例のメッセージをH Pに掲載するなどの動きもあることから、東京都においても生活保護の積極的な利用を促す広報・宣伝を働きかけることの必要性を訴えた。
要請書の主な内容は①小池百合子都知事による生活保護の積極的利用を促すメッセージの発信、都のH P掲載やそのほか様々な手段で広報・宣伝に努めること、②年末年始に福祉事務所の臨時窓口を23区、26市、5町、8村の全都で開設するよう指導、③生活保護利用相談の急増に備え、ケースワーカーの大幅増員など相談体制の抜本的強化、④生活保護利用申請に関し、利用を躊躇わせる最大の原因の一つとなっている扶養義務者への扶養照会を行わないことや、無料低額宿泊所への入居を申請条件としないことの徹底、⑤「T O K Y Oチャレンジネット」が年末年始対策として行っている一時宿泊所(ビジネスホテル)の提供期間について、1月19日までとしている期間をさらに延長させること、⑥都営住宅の使用承継制度の要件緩和(例えば単身60歳未満も承継可能に)。
生存権を保障した憲法25条を具体化した生活保護制度は「最後のセーフティネット」として、コロナ禍でその重要度を増している。ただ、日本では生活保護を利用する権利があるにも関わらず実際に利用している人の数(捕捉率)は、2割程度にとどまっているのが現状だ。宇都宮氏が生活相談を受けたなかには、住まいを失い漫画喫茶を転々としているのに生活保護だけは受けたくないと答えた人もいた。こうした申請を躊躇する背景について、宇都宮氏は「日本の社会に生み出されてきた生活保護バッシング、恥だとか非国民だと批判されることの影響がある」として、「政治家が率先してバッシングをしてきたからこういう状況が生まれた社会問題だ」と憤りを見せる。「社会保障は享受して良い当然の権利。誰もが利用できるという意識を醸成することは政治の役割ではないか」と強調する。
同会が2017年に行った調査によると、韓国のソウル市では2012年に生活苦によって60歳代の母親と30歳代の娘が一家心中した痛ましい事件を受けて、福祉の光が当たらない人々を見つけ出すために、生活保護申請を待っているのではなく、低所得者層や生活困窮者がいる世帯を訪れて福祉につなげる実地調査を行うようになったという。この働きかけにより2割程度だった捕捉率は格段に飛躍して、現在では6割ほどに上がった。こうした話を引き合いに出しながら、「行政が積極的に対応することを求める」との考えを強く示した。
さらに都営住宅の使用承継に関する要請については、自身が個別に受けた相談で、58歳の女性が母親名義で借りていた都営住宅を母親の死去後、半年以内に出て欲しいと通告された問題があったという。東京都の条例では、都営住宅を親族が使用承継するのは60歳以上の規定があるため、58歳の女性は承継することができない。女性は母親を介護するため、アルバイトで生計を立てており、月収は10万から11万円ほどだという。都営住宅の家賃は月に1万数千円ほどだが、民間のアパートなどを借りる場合、たちまち生活が困窮する可能性が高く、生活保護申請の必要性に迫られる。最近では神奈川県が11月10日に県営住宅の使用規定を緩和し、60歳未満の単身者でも申し込めるように条例を改正した。都においても「要件緩和の対応が必要」として「条例改正も含めた検討をして欲しい」と求めた。
宇都宮氏は強く訴える。「年末年始における長期間の休みで、どこに行けば生活保護を受けられるのか、手続きができるのかという問題がある。コロナ禍でゴールデンウィークの際も臨時窓口を設けている行政区とそうではないところがあった。あれから半年も経っているのに今なお格差がある。制度設計の問題と制度があっても利用にあたっての問題がある。生活保護を利用してくださいと、行政のトップが仕事や住まいを失った人たちに届くような広報・宣伝をすることで、生活保護に対する考え方を変えるチャンスだ」。
東京都福祉保健局は、希望のまち東京をつくる会の要請書提出に際し、生活福祉部保護課長の西脇誠一郎氏と同統括課長代理の蓑正広氏が「担当部局が異なるものや福祉局だけでは決められないものもあるため、即回答はできないが検討させていただきたい」と応じた。