五輪中止デモ 警察による不当弾圧
本来なら東京2020大会の開会式が行われるはずだった7月24日。この日に合わせて2年前から警察にデモ行進を申請していたオリンピック阻止委員会は、東京五輪のメインスタジアムとなる新国立競技場の外周をコースにしたデモ行進を実施した。
デモ行進は午後2時20分頃に千駄ヶ谷駅前を出発。約1時間かけてシュプレヒコールを上げながら新国立競技場の外周を歩き、1周目を終えると主催者は参加者の体力を考慮して、いったん休憩。高齢者が多いことや、高温多湿な中での行進だったことからの配慮だった。
30分ほどの休憩後、2周目を出発。ここで警察による不当なデモ弾圧が発生した。
当初、主催者の宮里慎太郎さんは、警察への申請時に「ソーシャルディスタンスを取るため2車線以上の道路使用を許可すること」「肖像権などのため憲法13条に基づき、公安による参加者の撮影はしないこと」を求め、警察側もこれに了承していた。
だが、実際には腕章をつけた警察官だけではなく私服を着た警察官らはデモの参加者たちを撮影。宮里氏の抗議で「もう撮影はしない」と約束したにも関わらず、デモ行進中に隠れるようにして何度も繰り返し撮影を行った。そもそも最初から警察側は威圧的な監視をしていた。デモ参加者の市民が20〜30人ほどだったのに対し、制服・私服を合わせ総勢100人近くの警察官が警備にあたっていた。
デモ隊は撮影した画像や映像の消去を求め、警察側の責任者の警察手帳を見せるよう要求。警察はこれに応じず、デモの再開をするよう主催者に迫った。長く続く膠着状態の中で、ようやく指揮官の一人が警察手帳を見せるも撮影データの削除の要求には、のらりくらりと交し続けた。
事態が急変したのは、同日に行われていたもう一つのデモ団体(通称:おことわリンク)が阻止委員会へエールを送りながら通過した後だった。1時間近く膠着状態が続いていたが、別団体がいなくなると警察は態度を一変。指揮官と思われる警察官が主催者に向かって「検挙するぞ!」と声を張り上げると、別の制服警官が「デモを中止だ」と一方的に宣言した。
態度を急変させた警察側は、参加者たちを道路上から締め出し、一気に占有する行動に出た。警察の暴挙といえる行動に主催者は、市民権による文書での抗議文をその場で書いて提出したが、一切受け取ろうとしなかった。
五輪誘致の際に、放射能汚染が懸念されている日本での開催を不安視する声を払拭するため、安倍晋三首相は福島原発について「アンダーコントロール」発言を世界に向けて発信した。この欺瞞からスタートしている東京五輪。
参加者の一人は、「五輪だからと何よりも優先して、他のことに規制をかける。こんなことが許されてはいけない。新型コロナが蔓延する中、政府や東京都は五輪開催よりも医療や経済的に困窮している人たちにこそ注力すべきだ」と憤りを見せる。
新国立競技場の建設によって住処を追い出された人もいた。明治公園で野宿をしていたという男性は、デモに参加した理由についてこう語る。
「今までオリンピックはポジティブな気持ちで見ていた。小学生の頃、前回の東京五輪が開催され熱狂したのを覚えている。でも、今回の五輪開催が決まって国立競技場を新しくすることになって、スタジアム建設のために住んでいるところを追い出された。排除すると言われ、五輪に対する気持ちはガラリと変わってしまった」
東京五輪という虚飾の栄光の影に、隠された“排除”の構図に市民たちの抗議の声があがっている。別の参加者は、オリンピックについて「人殺しをスポーツに置き換えただけの戦争になっている。国ごとに分かれてメダルの数を競い合うことが平和の祭典と言えるのか」と疑問を投げかける。
国の代表者がついた嘘によって、苦しめられるのは社会的に弱い立場へと追いやられた人々だ。今回の警察による威圧的な監視や、強制的なデモ中止は、東京五輪がその象徴的な構図にあることをより浮き彫りにしている。