もう一つの朝鮮人追悼式 都立横網町公園
時が経つのは早いものでもう1ヶ月を過ぎた。ほとんどのメディアが取り上げていないが、毎年9月1日に都立横網町公園で執り行われる関東大震災の朝鮮人犠牲者への追悼にはもう一つの追悼式がある。日朝協会を中心に構成した実行委員会が主催する午前11時からの式典は毎日新聞が大きく取り上げた。一方、その後に開催されるもう一つの式典は、在日朝鮮人をはじめ、日本人の若者たちも参加する朝鮮総連主催の追悼の集いだ。
この日午後13時から執り行われた追悼の集いは、犠牲者への祈りを捧げる演奏からスタートした。続いて朝鮮総連東京都本部委員長、東京朝鮮人強制連行真相調査団代表による追悼の辞が述べられ、韓国の議員からの追悼文の朗読や日本側の出席議員の来賓挨拶の後、参列者が追悼碑への献花をおさめたところで追悼式の幕を閉じた。
日朝協会による関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典は追悼碑が建立された1973年の翌年から執り行われてきているが、朝鮮総連による追悼の集いが継続的に開催されるようになったのは2003年と最近のことである。以降、午前中の追悼式典と同じ場所で協力関係を持ちながら実施を続けている。
主催者側の一人、東京・朝鮮人強制連行真相調査団の事務局長を務める梁大隆氏は、今年の追悼の集いについて「逆境の中での開催でした」と振り返る。2017年から発生している「そよ風」のヘイトスピーチによる妨害行為で、東京都は昨年、追悼式典と集いの両方に公園を利用することについて誓約書の提出を求めていた。こうした都の対応に批判の声が集まり、多くの日本人も含めた反対署名が提出されたことや追悼式の主催者たちによる訴えが届き、誓約書の求めは撤回。「そよ風」の妨害行為もヘイトスピーチに認定されることとなった。
梁氏は「誓約書が撤回され、注意事項に代わった。その中には明確にヘイトスピーチを禁止する項目ができた。一時期、後退しかかった社会の流れが前に向いたかなと思います」と東京都の職員たちに理解が広がったと評価する。だが、今年の開催はヘイト問題に加えて、新型コロナウイルス感染症の影響が立ちはだかった。一般参加を中止し、参列者の人数も抑制をしなければならなくなり、例年よりも規模を縮小しての開催となった。
「コロナ禍において開催する中、若手の参加者たちから追悼式をインターネットで中継しましょうというアイデアが出てきました。これまでだったら、オンラインで配信なんて考えつきもしなかった。追悼式が始まってすぐに韓国に住む仲間から電話で“見ているよ。気持ちを共にしているよ”と連絡がきたんです。今年はヘイト問題だったり、コロナだったり逆境の中だったけど新たなものも生まれた。人は諦めなければ何か良いことが必ずいつかあるんです」。そう語る梁氏の目はすでに来年へと向けられている。「来年はもっと良い方法を考えて追悼への思いを広げ、多くの人に知ってもらいたい」。