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角帽日記

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#文学

僅かに文豪的な夜<3>

僅かに文豪的な夜<3>

 鴎外温泉の感想を、休憩処さくらで話す。
「温泉どうだった?」と夫に聞くと、「良かった」と言葉少なめに返ってくる。「私はね……」と、その日あった事を全部話さなきゃ気が済まないのは女の性なのか、いつものように長話になる。

 温泉についての感想を話し尽くした後、「この和室いいね」と休憩処さくらについても感想を言うと、夫が「なんか旅行に来ているみたいや。もっと早くに利用すれば良かったわ」と温泉よりも長

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僅かに文豪的な夜<2>

僅かに文豪的な夜<2>

 タオルはホテルが貸してくれるので、ほとんど手ぶらで家から歩いて来た。水月ホテル鴎外荘のエントランスで大浴場の説明を聞いてから、私達はホテル内を目を輝かせながら歩いた。

 ホテルは少し入り組んでいて、建物と建物の間に通路があり、森鴎外が最初の妻の赤松登志子と新婚時代を過ごし、代表作「舞姫」「於母影」などを執筆した旧邸を右手に見る事が出来る。温かみのあるその木造建築は、釘を使わない伝統工法で建てら

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僅かに文豪的な夜<1>

僅かに文豪的な夜<1>

 上野に住んで早5年。

 何度か散歩の途中に通り過ぎた場所があった。

 いつもちょっと気に掛かったけど、ちょっとだけ見て、またすぐに忘れてしまっていたその場所は、”水月ホテル鷗外荘 ”。

 ”水月ホテル鷗外荘” は、森鷗外の旧邸を和室39室・洋室85室、ホール、会議室、大浴場等を備えたホテルにしていたらしいのだけど、入ってみて初めてその雰囲気の良さに、今まで素通りしてきた事を悔やんだのだった

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