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おもかげ

 創作ほしのこSSです。
 独自の設定を含みますので、苦手なかたはご注意ください。

 「雨宿り」の続きのようなお話です。
 先に読んでおかなくても、内容は楽しめるようになっています。




 見た目だって性格だってまったく違う。
 話しかただって、表情だってもちろん違う。
 違うのに。


 今日のツリーハウスは晴れ間が広がっている。
 木々の隙間からあたたかい光がふりそそぎ、木々や花々は束の間のぬくもりを楽しんでいるようだ。
 ツリーハウスにいるスカウトとの用事をすませたリウーチクは、ハンモックにゆらゆら揺られているほしのこに話しかけた。

「どうしたの。ぼーっとして」
 話しかけられたほしのこ__ざくろは、長時間眠っていたのか、ぼんやりとした眼差しでこちらを見下ろす。ゆっくり身体を起こしながら大きなあくびをひとつ。
「……うーん、起きてるよお。っあ! そうだ!」
 話しながら何かを思い出し、ざくろは急にぱちっと目を開け飛び起きた。
 彼が身体を動かした反動でハンモックが大きく揺れ、木々がざわめく。
「ねねっ! リウーチクは、おかっぱの小さいほしのこに会ったことある?」
 あまりに唐突な問いに、リウーチクは青い瞳を少し揺らし驚きゆっくりと二度瞬きをした。
「えっと、ざくろ……そのこと何かあったの?」
「昨日ね、神殿の前を散歩してて出会ったの。
 紫色のケープにね、甘いすみれの香りがする……とっても小さいこ。
 僕と似たような髪型の。
 名前は知らないけど、とっても不思議な子だったんだ」
 うーん、うーんとざくろは唸っている。
 頭を悩ませ唸るざくろを見つめながら、言動自体はまるで幼い子どものようだと、そして知っている“誰か“にとても似ていると、リウーチクは感じた。
「とっても小さいって……リトルではない?
 ざくろからしたらみんな小さいような気がするけど。
 そのこがどうかしたの?」
「どうかしたというか……うーん」
 少し迷うような、不安げな表情でざくろは考え込む。

 リトルではなく小さいこなら、リウーチクには心あたりがある。
 そのこは、とても小さく飛ぶことができないほしのこ。
 紫色のケープにボブヘアで、赤目。そして甘いすみれの香りがするのであれば__何かの間違いがなければ、ほぼ確実にそのほしのこだ。
 “心あたりがある“と言いかけ、リウーチクはそのことばをぐっと飲み込んだ。
 もしかしたら、話の流れによっては言わないほうがいいこともあるかもしれない。

 ふたりの間に少し重い沈黙が落ちる。
 ほんの少しだけ、居心地の悪さを感じるような空気が漂う。
 その空気に耐えきれなかったのか、ざくろは少し困ったような表情をして「実はね」と、ぽつりと話し始めた。

「実は、そのこの目に映った僕のすがたが__“僕“じゃなかったんだ」

「__え?」
 うーんとうなりながら瞳を閉じ、ざくろは続ける。
 そのときのことをできるだけ正確に思い出そうとしているようで、何度も何度も首を傾げる。
「そのこはね、髪が長くて__うんとうんと長いの。
 で、髪の先のほうがいくつかにまとまってて。
 色はそう__少しだけ、薄い雨林の空のような色の髪だったかな……。
 そう、緑色っぽい!
 で、僕と同じような色の目をしてて。
 一瞬僕なのかなーって思ったんだけど、でも僕じゃなくって。
 次に瞬きをしたら、それは僕に戻ってたんだけど……」
 ぱちりと目を開け、ざくろはがばっとリウーチクのほうを向く。
「ねえ、リウーチク、あれってなんなんだろう?」
 あれとは何を指すのか。
「……何って、え、と、う……雨林の、おばけ?」
 急な問いに頭が回らず、とっさに思いついたことがリウーチクの口をついて出る。
「ええっ? リウーチクもミミズクと同じこと言う!」
 あぁ〜、とざくろは天を仰ぎ残念そうに肩を落とし嘆いた。

 ミミズクとは、ざくろを拾い育てているミミズクヘアの小さなほしのこだ。今はミミズクと名乗っているが、本当の名前は別にある。
 リウーチクとも面識があり今でも多少の交流はある。
 確か、とある事件で大切なこをなくしたことをきっかけに心を閉ざし気味になっていたはずだ。
 ざくろはどうやらミミズクにも同じことを聞き、ミミズクもリウーチクと同じような返事をしたのだろう。

 あまりの落胆するざくろの姿を見ながら下手なことを言わなくて良かったと、リウーチクはそっと胸を撫で下ろした。

 しかし、ミミズクはさぞ驚き動揺したことだろう。

 紫色のケープをまとってすみれの香りをさせている小さな小さなほしのこ。そのこの瞳のなかに映る長い髪のほしのこ__。
 あまりにも心当たりがありすぎる。ありすぎてつらくなる。
 そして、残酷な現実をつきつけられたミミズクの心境を思うと思わず、リウーチクは彼女のことを憐れんだ。

 __かわいそうに、と。

 記憶をなくした“ざくろ“が悪いわけじゃないんだ。
 ミミズクの“大切なあのこ“がいなくなったことが悪いわけじゃないんだ。

「そっかあ……やっぱり雨林のおばけなのかなあ。
 僕はまた会いたかったんだけど」
 しょんぼりした表情で、ざくろはつぶやく。本当に残念そうだ。
 あまりの落胆ぶりを見せる姿にいたたまれず、リウーチクはつい、
「もうすぐまたイタズラ大好きな精霊たちが来るから、もしかしたら慌てて先にきちゃっただけかもしれないよ?」
 と励ましにもなりそうにない声をかけた。
「うーん……そっかあ。
 イタズラされなかっただけ良かったのかもね!」
 ざくろは、ぴょんとハンモックから飛び降り、「ありがとー! 気にしないことにする!」と、満面の笑みでお礼を言いツリーハウスから雨林の奥に歩いていった。


「……まさか、ね」
 手を振りざくろを見送りながらリウーチクはぽつりつぶやく。
 あまりにも心当たりがありすぎて、おばけならどれほど良かったかと思わず身体を震わせる。
 ざくろが出会った小さなほしのこのことも、そのこの瞳に映った“ざくろ“も、リウーチクは知っている。

 すみれの香りのこはとても優しいほしのこ。
 長い髪のこはミミズクの“大切な大切な想いびと“だったほしのこ。
 ふたりともリウーチクにとってもあまりにも近く、あまりにも大切な。

 リウーチクの耳元をざあっと風が駆け抜ける。

 __ぼくのこと“おばけ“なんてひどいなあ!

 まるでそう言っているかのような風の音。
 しばらく会っていない長い髪のほしのこの声を思い出す。

 見た目だって性格だってまったく違う。
 話しかただって、表情だって__もちろんざくろとは違う。
 違うのに。

「やっぱり、思い出しちゃうんだよなあ」
 風が駆け抜けた方向を見つめながら、リウーチクは少し悲しく微笑んだ。

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