年収の壁 その3~奥深い106万円の壁(後半)
おはようございます。🐤
いよいよ社会保険の扶養の106万円の壁の撤廃のお話に入ります。
前半のあらすじ
国民はみんな「公的年金と公的医療保険」に入らないといけません。
公的年金:老後の年金や、ケガや病気で傷害が残った時に受けられる年金
会社員が加入できる「厚生年金」と、それ以外の国民が加入する「国民年金」がある公的医療保険:3割負担で医療が受けられる(保険証)
会社員が加入できる「健康保険」と、それ以外の国民が加入する「国民健康保険」がある会社員が加入できる「厚生年金」と「健康保険」をあわせて「社会保険」という。社会保険は「国民年金」「国民健康保険」よりもコスパが良いので人気の制度
会社員と、月30時間以上働くアルバイトはみな社会保険に加入できる
月30時間未満のアルバイトは社会保険に加入できないが、一定の条件(従業員51人以上、週20時間以上、月8.8万円以上、学生ではない)をすべて満たせば加入できる
会社員の家族は、収入が一定以下だと無料で「扶養」に入ることができる(社会保険の最強ルール)
扶養された配偶者は、無料で国民年金を支払ったことになり、健康保険も無料
扶養の子は健康保険だけ無料(20才以上は国民年金を自分で支払う)
上の図は、会社員の家族がアルバイトをする場合の扶養の有無をわかりやすくしたものです。白色が最強の「扶養(無料)」、緑色が「社会保険」、赤色が自分で支払う「国民年金と国民健康保険」で、次のような区分ごとに色を塗り分けています。
会社の規模(従業員数51人以上か50人以下か)
労働時間(週20時間以上か未満か)
収入(月8.8万円=社会保険に加入できるラインと、年収130万円=扶養を外れるライン)
学生かどうか
収入が少ないアルバイトの場合、みんな最強の白色を目指したいのですが、一定以上の収入があるとお得な社会保険加入を目指し、赤色の自費で加入はなんとか避けたいというイメージです。
でも子はどうしたって年金を「国民年金」で支払わないといけないルールもあります。
社会保険に入りたいか~?
前回のおさらいが長かった…(もう疲れた)ですが、いよいよ本題です。今回のニュースはこんなものでした。
もともとあった社会保険加入の4つのルールのうち、2つをなくそうというものです。(いつからかはわかりません)
従業員51人以上(撤廃)
月8.8万円以上(年収になおすと約106万円以上)(撤廃)
週20時間以上
学生ではない
残るのは、週20時間以上と、学生ではないという2つのルールだけになります。シンプルですね。
なぜ「月8.8万円以上」という収入のルールを撤廃するかというと、週20時間以上のルールとかぶっているからです。
仮に東京都の最低賃金、時給1160円、週20時間で1か月働くとすると、
1160円×20時間×4.3週=月99,760円 となり、収入の要件88,000円を超えています。であれば収入の要件は必要ないですよね、もう週20時間のルールだけにしませんか? ということなのです。
そして、大事なところなのですが、そもそもみなさんって社会保険に入りたいんでしたっけ? 入りたくないんでしたっけ?
これはさっきの表を見るとわかりやすくて、一番人気は無料の扶養(白色)、次に折半の社会保険(緑色)、最悪が自費の国保(赤色)でしたよね。
配偶者の場合でいうと、一番の希望は白色になることです。
白は扶養の枠で、無料で社会保険を受けられるので最強なのです。
だから配偶者は従業員数51人以上の会社だと月8.8万円未満をめざしたいし、50人以下の小さな会社だと年130万円未満を目指したいのです。
これがいわゆる「106万円の壁」と「130万円の壁」で、会社員の妻のパート時間が抑制されるという社会問題になっています。
ニュース案が採用されると、106万円⇒20時間の壁へ
では、ニュースにあったルールが採用されると、何がどう変わるでしょうか。
まず、月8.8万円の区切りと、従業員50人以下の区切りがなくなるので、このようにとてもシンプルになります。そして表の左半分「週20時間以上」のところが、学生を除いてすべて緑色に変わります。
赤が緑に変わるのは嬉しいことですが、白が緑に変わるのは嫌です。最強の扶養ではなくなるのですから!
でも、よくよく考えると、さっき計算してみたように、そもそも106万円の壁(月8.8万円未満)を意識して働く時間を少なく調整していた人は、週20時間未満は自動的にクリアできているの人が多いのではないでしょうか。
例えば東京の主婦で、月88,000円未満に抑えるため、時給1160円✕週17時間で月84,000円の人は、この変更でも何も影響はありません。
しかし、例えば秋田の主婦で、時給950円✕週21時間働き、月86,000円の収入があった人は、週20時間を超えているので社会保険に入らないといけなくなります。
つまりこれまではほぼ全額もらえていた月86,000円の収入が、12,000ほど社会保険料として引かれ、手取りが74,000円くらいに減ってしまう大打撃を受けるのです。
大打撃ですよね、絶対に嫌ですよね、私なら慌てず騒がず、週19.5時間に労働時間を減らします。手取りは月79,600円、これが新しい「週20時間の壁」です。
106万円⇒週20時間に壁が動くことによって、東京などいくつかの大都市圏では扶養の範囲が広がる側に働き、ほとんどの地方では扶養の範囲が狭くなる方向に働きます。
社会保険の内訳
では、学生ではない子の場合はどうでしょう。配偶者と違うのは、子は20才を超えると国民年金の加入義務があることです。
扶養の配偶者は無料で国民年金に加入していることになっていましたが、扶養の子は違うのです。これに月17,000円、年間20万円くらいとられます、働いていようと、無職だろうとです。
い、痛すぎる…
気を取り直して、これがニュース案の通り変わればどうなるでしょうか。例えば東京で週24時間働き、月12万円の収入があったとします。すると国民年金の代わりに社会保険に加入することができ、収入の約14%=17,000円くらいの社会保険料を払うことになります。
その内訳は、厚生年金が10,900円、健康保険が6,100円くらいです。
厚生年金って、国民年金よりだいぶ安いんだ〜😳(自己負担)と感動します。
しかも、将来もらえる年金は国民年金よりも多いです。国民年金は満額で約80万円/年、厚生年金は年収144万円✕40年として約111万円/年ももらえます。(R6年の水準で計算)
これはどうでしょう、子の立場だったら喜んで社会保険に加入したくなるのではないでしょうか。
国民年金を払わなくなって浮いたお金で厚生年金と健康保険に加入できて、なおかつ将来の年金が増える、今回の変更は大歓迎です。
しかし、子が学生だと同じだけの収入があっても社会保険には入れません、残念ながら…。
会社の立場
さて最後に会社の立場です。特に50人以下の小さな会社のアルバイトは、これまで社会保険には加入していませんでした。(例外はあります)
しかし、これからは週20時間を超えるアルバイトには、給料+15%くらいの社会保険料を支払う必要があります。全額損金算入とはいえ、痛い、痛すぎる支出です。
ニュースによると、この変更で新たに社会保険の対象となるのは200万人、そのうちの何人かは社会保険に入ることができて喜び、何人かは怒ることになります。(上の図の分布を参考)
しかし、会社の立場としては、一律に怒りです。ALL怒。特に50人以下の小さな会社。
ただ、繰り返しになりますが週20時間以上の人に月8.8万未満の人はほとんどいません、もしいたとしても、すぐに時間調整してその右側の「週20時間未満」に移動して社会保険未加入生活を続けられることになると思います。
「中小企業をいじめるのか?!」
という声が聞こえてきそうなのですが、中小企業は企業数で日本の企業の99%以上、従業員数でも約70%を占めていて、これらをいじめることは得策ではありません。
なので対策をバンバンうっています。
手当等支給メニュー:新しく社会保険の対象になり、下記の手当を支給した従業員1人あたり3年間で最大50万円の助成金
社会保険適用促進手当:新しく社会保険に加入した従業員の手取り減少分を、最大2年間事業主を通じて従業員へ支給
労働時間延長メニュー:アルバイト従業員の労働時間を延長して社会保険の対象とした事業主に、1人あたり6か月で30万円の助成金を支給
参考⇒「年収の壁」対策がスタート!パートやアルバイトはどうなる? | 政府広報オンライン
使える制度はしたたかに使っていきましょう。応援しています。
130万円の壁が注目されないのはなぜ?
みんな106万円の壁ばかり言って、なぜ130万円の壁のことを追求しないのでしょうか? 50人以下の会社ってたくさんあるだろうし、130万円の壁も大事なんじゃないの?
50人以下の会社で短時間(30時間以下)のアルバイトをしている人は、会社として社会保険に加入させる義務がないので、残念ながら社会保険に入ることは基本的にはできません。
これまで、50人以下の会社でアルバイトをしていて、収入を130万円以下におさえていた人とはどんな人なのでしょうか、時給何円で何時間働いているのでしょうか。
会社員に扶養されている配偶者
時給1000円と仮定
10時から15時の5時間×週5のパート=25時間/週
1000円×25時間×4.3週=107,500円/月=129万円/年
こんなイメージで考えます。この人が51人の壁の撤廃で社会保険に加入したらどうなるのかというと、手取りが14%~15%くらい、額にすると1か月あたり1万6000円くらい、1年で19万円くらい減ります。
社会保険を逃れるためには週19.5時間(あるいは月8.8万円未満)まで減らす必要があります。そうすると107,500円⇒84,000円くらいまで収入が減ってしまいます。
これの解決にはどうすればいいか…解決方法が…見つからない…
106万円の壁よりも大きくて、社会問題となりそうです。
ではなぜこの壁をとりあげないのか?
106万円の壁と週20時間の壁はほとんど重なっていました。ちょうど重なるラインは時給1023円のところで、だいたい今の最低賃金の全国平均に近いからです。
なので、106万円の壁をとっぱらっても、週20時間の壁があるので、あまり大きな影響はありません。
しかし、130万円の壁は影響が大きい。ニュースの「200万人」のうちの大部分がこの人たちなのかなと私は推測します。
ではなぜニュースのタイトルが「130万円の壁」ではなく「106万円の壁」だったのか?
記者自体もこの複雑な社会保険の全体像を理解できていないか、もしくは、邪推するなら、「たいしたことのない変更だ」と世間に思わせるためなのか。
まとめ
今年の10月に改正になったばかりの社会保険について、106万円の壁撤廃という衝撃的なニュースで、得なのか損なのかわからない、しかもこのニュースがデマという人もいたりして混乱をしています。
ヒヨコロ雑感ですが、これはかねてから検討され、予定されていたことを着々と実行に移しているものであり、たまたま国民民主党の「103万円の壁の撤廃」とややこしい時期に情報のリークがあったものです。
落ち着いてみれば、そこまで大きな変更ではありません。
私の大好きなオタク会計士chの動画でも、4か月も前から今回の内容を予測されていました。(今回のニュースは2年後くらいの足掛かりに、そして週20時間を10時間に切り下げるのは2029~2030年あたりに計画されているようです)
情報のまとめとしては
106万円の壁⇒週20時間の壁に
2つの壁はすごく似た位置、似た高さにあるので、106万円がなくなっても大きな変更ではない
従業員50人以下の会社が対象になると影響が大きい
社会保険に加入することは、扶養の配偶者にとっては大きなデメリット、扶養の子(学生ではない)にとっては小さなメリット
会社にとってはデメリットしかない
とはいえ、いろんな救済メニューが用意されているので、従業員の人も会社側も、したたかに助成金をゲットしていきましょう。
以上、参考になれば嬉しいです。
それではまた~(@^^)/~~~
END
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