後見制度の意義(詐欺だらけの世の中)
おはようございます。🐤
FP1級では成年後見制度に関する問題が出される頻度がとても高いです。2015年9月に初めて出題されてから、2023年5月まで20回の試験中、13問も出題されています。
2015年9月 問18, 問45
2016年1月 問17
2016年9月 問44
2018年1月 問17, 問44
2019年5月 問17, 問45
2020年9月 問17
2021年5月 問17, 問44
2022年1月 問17
2023年5月 問17
問17, 18あたりの金融資産運用(C分野)では各種信託商品の一つとして後見制度支援信託が題材になっています。問われるポイントは次のようなものです。
【後見制度支援信託は】
・契約や一時金の交付などの各種手続はあらかじめ家庭裁判所が発行する指示書に基づいて行われる
・「後見」が対象であり「補佐」や「補助」は対象とならない
・「法定後見」が対象であり「任意後見」は対象とならない
・信託財産は金銭に限られていて、不動産(土地建物)や動産(自動車や家財)、債券(株式や国債など)は扱うことができない
・預金保護制度の対象となる(被後見人の口座として)
また、問44から問45あたりの相続(F分野)では成年後見制度について問われます。
【成年後見制度は】
・成年後見制度には裁判所の審判による「法定後見制度」(根拠は民法)と、任意の契約である「任意後見制度」(任意後見契約に関する法律)の2つがあり、それぞれ別のもの
・法定後見制度には後見/補佐/補助の3段階があり、それぞれ役割と権限が決められている
・「補助」には被後見人の同意が必要、「後見」「補佐」は同意不要
・法定後見人等には被後見人が行った契約の取消権があるが、日常の買い物は取り消すことができない
・任意後見人には被後見人が行った契約の取消権はない
・成年後見人は被後見人の財産管理について家庭裁判所に定期報告が必要
・被後見人の居住用不動産を売る時には家庭裁判所の許可が必要
これだけ知っておけばまあまあ後見制度については1点~2点とることができるんじゃないかな。試験はここまででOKです。
後見制度の意義~詐欺だらけの世の中
ここからは後見制度の現実について、私が知っている範囲でその経緯や意義、そして問題点などを書いていきます。
なぜ私が後見制度について知っているかというと、母親が認知症になった時に後見制度の利用を検討した経験があるからです。結果的に後見制度は使いませんでした、その理由もお話します。
家族が認知症になったら家族の暮らしはけっこうたいへんになります。認知症にもいろんな種類がありますが、私の母はレビー小体型認知症といって、この特徴は「幻視」です。現実としか思えないまぼろしを見るのです。
人がいるのに(幻視)家族は「いない」というので家族が信用できなくなる
家じゅうに虫やほこりが見えて(幻視)、いつまでも掃除している。もちろん家族には理解されない
家の中に不審者がいる(幻視)ので、ご近所さんに助けを求めたり、警察や消防署に連絡したりする(「迷惑だから家の中に閉じ込めておきなさい」と言われる)
人についていき(幻視)帰ってこなくなる(悪気なく迷子になる)
そんなこんなで、私たちは母が外に出るときは必ず横について、一人で出さないようにしていました。他人に言われるとおり家の中に鍵をつけることも考えましたが、母を閉じ込めることにはどうしても抵抗がありました。そこで靴にGPSを仕込んで(そういう靴が売っている)、どこかにでていった時にも場所がわかるようにしていました。
そんな状態なので、どこで何を買うか、何を契約させられるかわかりません。対策をどうしようかとネットで検索して見つけたのが「成年後見制度」でした。
社会福祉協議会というところで認知症に関するサポートを受ける中で、成年後見制度についても相談したのですが、意外にも「難しいですよ」という返事が返ってきました。
成年後見制度の意義~詐欺被害の撲滅
高齢化により、認知症患者などの「判断能力がないのにお金をもっているおじいさんおばあさん」が増えています。それを知った悪い人が、無意味な保険契約をさせたり手数料がバカ高い投資信託を買わせたり、高価な布団や壺を売りつけたりする被害が多くなってきたのでしょう、きっと、知らんけど。
政府は「成年後見人」という、いわば保護者のような人をつけてその人に契約や財産管理の権限を与え、その代わりに認知症の人からは契約の権限を奪うということを考えて制度化します。
まず、「成年後見登記」というしくみにより、被後見人=認知症の人などを登録できるようにし、その登録された人が不当な契約をさせられたのであればそれは取り消すことができるようにしました。
これで、一定の詐欺は防ぐことができるし、万一詐欺にあったら取り消すこともできるので詐欺は撲滅するはず、一応の一件落着です。
新たな問題~後見人による搾取の発生
しかし、ここに新たな問題が発生しました。成年後見人が被後見人の財産を搾取する事件が多発したのです。きっと、知らんけど。
認知症になる前だったら「任意後見制度」というのもあるのですが、認知症になって判断能力がなくなってからだと「法定後見制度」しか使えません。そして法定後見制度でも身内が後見人に立候補することはできるのですが、現実的には8割は「職業後見人」という、司法書士や弁護士などの資格をもった人が後見人になることになります。
後見人は報酬をもらうのですが、その報酬は被後見人=認知症の人のもっている預貯金の額に一定の率をかけて計算します。つまり、被後見人がたくさん預貯金をもっていると後見人はたくさんの報酬を受け取ることができるのです。
だから、住んでいる家を売って、生命保険を解約して預貯金の額を増やします。そして日常生活には必要最低限のお金しか使わない、例えば旅行にいくために貯金を使うことは許さないなど、家族から文句ぶーぶーになってきたのです。
こんな問題の解決のため、家族などの申し立てにより「成年後見監督人」をつけることができます。余分に費用はかかりますが、司法書士や弁護士などの専門家の目から、後見人の業務を監督してくれるので不正を防ぐことができます。利用率は法定後見制度利用者のうちおよそ3%程度だそうです。
任意後見制度の難しさ
法定後見制度にそんな問題があるなら、任意後見制度を使えばいいじゃないと思うかもしれません。
しかし、成年後見制度を使おうと考える人はたいていすでに問題を抱えている人なので、例えば私の場合も時すでに遅しで、任意後見制度を使うことはできませんでした。
しかし、仮に事前にわかっていて任意後見制度を使おうと思ったとしてもハードルと問題点がたくさんあります。
そもそも身内にも被後見人の財産を搾取しようと考えている人があふれている
任意後見制度は公正証書で契約の手続きをしなければいけない、その作成に専門家に聞いたり、自分で調べたりする必要がある
たくさんの書類を準備する必要がある
医師の診断書
任意後見契約書
後見事務の範囲/証書の保管/後見人の報酬など
公正証書
本人の戸籍謄本、住民票、印鑑証明書(免許証など)
受任者の住民票、印鑑証明書(免許証など)
仮に専門家に一切依頼せず、全部自分で手続きしても手数料はおよそ2万2千円かかる
公正証書の作成には、公証役場に提出/打ち合わせ/契約と少なくとも3日は平日昼間3回仕事を休まないといけません
任意後見監督人に定期的に財産管理の報告と、報酬の支払い(毎月2万円程度)が必要
一度成年後見制度を開始したら、被後見人が亡くなるまでやめることはできない
まず必要書類の多さに諦める人が90%だと思います。そして内容も「契約書」ですから、必要書類の準備と契約書の作成までで99%の人が手続きを断念します。
仮に事務処理能力がとても高かったり、自分が司法書士や弁護士だったとして書類作成ができたりしても、結局「任意後見監督人」という人に自分(後見人)の監督を依頼する必要があり、その人に毎月2万円程度の一定額を支払い続ける必要があります。
「任意後見監督人」とは、任意後見人の業務を監視監督する人のことで、法定後見は必要に応じて、実際は3%程度の利用でしたが、任意後見には100%監督人がつきます。任意後見には専門知識のない一般人が多く、不正利用やトラブルも多いため監督人の監視が必須となっています。
任意後見制度のメリットとデメリット
成年後見制度の始まりは「詐欺にあったり、勝手に契約することを防ぐこと」だったはずです。しかし、その目的を達成するために、とてつもない高いハードルの事務手続きが必要だったり、毎月2万円の支出と報告書作成の手間をかけるかというと、誰がやるねんという感じです。
実際任意後見制度の利用者数は、令和2年時点の全国の累計でわずか2655人ということでした。(下のグラフの赤の部分)
これに比べると法定後見制度の利用は多いようですが、認知症患者を含めた需要の数は1000万人程度と推定されている中、2.3%程度しか活用されていない低水準ということができます。実際に私も手間と費用を考えて、使うことはできませんでした。
不正対策と有効な活用方法
ということで、こんな経験をFP1級試験に使っていきたいと思います。
成年後見制度は2000年4月に創設されたそうです。いろいろな問題を抱えて事件もおきて、それらに対応して現在では次のようなしくみになっています。
後見人といえども、お金をたくさん使う時、居住用建物を売却する時などには家庭裁判所の許可が必要
後見人による不正利用防止と被後見人の生活の安定のため、後見制度支援信託(2012年)/後見制度支援預金(2018年)という制度ができた
任意後見は「契約」のため上記支援信託/支援預金の対象とならない
任意後見には監督人がつき、財産管理の監督を受ける
後見人等には必要以上の権限を与えない
日常使う一定額以上は家庭裁判所の許可が必要
被後見人に代わって遺言書を作成することはできない
一定の判断力を有する場合の「補助」には非補助人の同意が必要
FP1級試験では結構踏み込んだ内容が出題されていて、なかなか良い問題が揃っていると感じています。上からの意見で申し訳ありません。
それではまた、FP~(@^^)/~~~